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二章『パテ編』

第44話 蜥蜴軍団12

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 俺は通風口から出ると、3階の吹き抜け部分から階下を見渡す。

 いた! 蜥蜴盗賊(リザードシーフ)が数体、1階の正門とは反対側の壁を破壊して侵入している。
 そういえば村人が蜥蜴盗賊(リザードシーフ)に裏取りをされて火をつけられたと言っていたな。得意分野ということか。

「ふん、勇者であるこの俺の前に立ったことを後悔させてやろう」

 俺は3階の屋上に続く階段前に陣取る。ここからしか屋上には行けないので、ここを死守すればアイナとジゼルが不意打ちをされることは無い。例え正門を開けられてもエリノアが居れば蜥蜴たちはなだれ込んでは来ないだろう。今の俺の役目はここで蜥蜴を通さないことだ。

 俺が気張っていると蜥蜴盗賊(リザードシーフ)たちの最後尾に3mある蜥蜴の姿を見つける。予想していたがあれは蜥蜴盗賊(リザードシーフ)の上位互換、蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)だろう。忍者走りで階段を駆け上がってくる。蜥蜴盗賊(リザードシーフ)の数は10頭、そしてボスが1頭。

 蜥蜴たちは俺のいる通路に着くとナイフを構える。半円を作って俺を包囲する。囲まれないのは階段を背にしているからだ。砦が大きいので通路も広い。通路の中心に行けばたちまち包囲されてしまうだろう。

 それもまたよし、俺は通路の中心部分に移動する。蜥蜴たちは自分たちが有利な位置に着けるので俺の邪魔をせずに後ずさりして包囲を完成させる。俺を囲む10頭の蜥蜴。蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)だけは、奥の方で佇んでいる。

 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)の短い鳴き声で、蜥蜴盗賊(リザードシーフ)たちは一斉に俺に飛びかかる。

 条件は整った。短剣をその場に置いて、俺は俺の今できる最大の横回転をする。そして力一杯に跳ねる。2mほど飛び上がり魔法を発動させる。

「『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』」

 火炎の散弾銃は回転により全範囲に及ぶ。俺に飛びかかった蜥蜴盗賊(リザードシーフ)たちの体が吹き飛ぶ。

 吹き抜け部分から1階に落下する者、壁に激突する者、反応(リアクション)は様々だが、収束するのは死である。火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)、残り8発。

 炎が消えると蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は距離を詰めて俺の目の前まで迫っていた。ナイフを着地する俺に合わせ走らせる。

「『硬化(ハードニング)』」

 ギリギリで魔法が間に合った。しかし衝撃は受ける。俺は吹き飛ばされる。壁に激突して硬い音を発する。どうやら意識までは飛ばされていないらしい。バンズのクラウン部分の表面が少し斬り裂かれているが、こんなものは大した傷ではない。鉄ほどではないがそれなりの硬さになるようだ。

 傷から紫色の液体が滴る。ああ、それ毒ナイフなのね、はいはい。

「そんな危ないものでアイナを傷つけようとしていたのか? 万死だ??????貴様に裁きを下すッ! 勇者の俺が直々になッ!」

 短剣は奴の足元か、硬化(ハードニング)の効果が残っているうちに決着をつける。俺は堂々と跳ねて距離を詰める。火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)は見られてしまったからな。もう一捻りないとこの手の相手には通用しないだろう。

 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は距離を取る。俺は短剣を咥える。どうやら硬化(ハードニング)の効果時間が終わるのを待っているようだ。ならば待つか。しばらく睨み合いが続く。

 硬化(ハードニング)の効果時間が終了してパンの柔らかさを取り戻す。それと同時に蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は背を低くして俺に駆け寄る。

「『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』」

 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)を軽々と飛び越えて、俺の背後に着地する。俺はバンズのクラウンの部分のみを素早く回転させる。目標をセンターに入れてブレス!

「『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』」

 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は驚愕をその目に表したが、それは一瞬だ。地面に這いつくばって回避する。本来ブレス系の魔法は連続では使用できない。それは魔力を肺の中の空気と混ぜ合わせて発動させるからだ。タメのクールタイムがある。だが俺はパン、呼吸なんてしていない。具材を挟み念じるだけで女神の魔法陣が勝手に魔法を発動してくれる。

 この不意打ちも回避するとは、やはり上級職は格が違う。しかし、面での範囲攻撃はどうかな?

「『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』
『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』
『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』」

 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)も、3連発のブレスを屋内で交わす術など??????あった。

 一階にまで続く吹き抜けに飛び降りたのだ。やるな、ならば俺も行くぞ! 俺は後を追って飛び降りる。先に着地した蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は、エリノアのように上手く着地することもできず、移動せずに、その場で俺を迎え撃つようだ。

「『火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)』」

 今度は蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)に直撃する。炎で押し潰される。

 俺は爆風で落下速度を軽減して無傷で着地する。急いで蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)の方を見る。
 蜥蜴暗殺者(リザードアサシン)は粘土を真上から拳で思いっきり叩いた前衛的なアートのようになっている。どうみても絶命だ。ボス格の一角を崩した! ブレスは残り2発。

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