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二章『パテ編』
第35話 蜥蜴軍団3
しおりを挟むアイナとジゼルが寝静まった夜遅くに、エリノアが偵察任務から帰還した。俺はぼんやりと外を眺めていた。
「遅くにゃって悪かったにゃ」
「無事で何よりだ、それでどうだった、魔物のアジトらしきものは見つけたのか?」
「うん、見つけたよ、ここからだいたい3時間くらいのところに砦があって、そこに蜥蜴どもは拠点を置いている」
「砦だと?」
「よくわかんにゃいけど、多分人が作ったものだにゃ」
「まんまと利用されたってわけか、たく、管理はしっかりして欲しいもんだな」
砦か、少し不安になってきた、大丈夫かな。こっちはたったの4人だぞ。でもやらないと村が蜥蜴たちに蹂躙される、2度目はない。······やはり俺は勇者、試される者なのか······。やれやれだぜ。
「そうだ、必要なものはないか? あれば村でできる限り用意してくれるらしいぞ」
俺は薬草を10枚詰めていくつもりだ。
「そんにゃら、ありったけの金を」
盗賊かよ! 俺の視線に気づきエリノアは肩をすくめて訂正する。
「はぁ、だよにゃ、勇者一行だもんにゃあ。じゃあ少しばかりのお恵で」
「武器とかは要らないのか?」
「要らにゃいよ、この腰に差してる1本と、ジゼルから貰った巻物スクロールがあるからにゃ。逆にバーガーには、ミーの持ってる魔物の素材を挟ませてあげるよ」
「助かる、正直ヒーラー役はもうゴメンなんだ」
「曲がりなりにも勇者だもんにゃ、バフ要員くらいにはにゃってほしいものだにゃ」
エリノアはリュックから干し肉と、ごつごつした岩でできた皮、そして光沢のある赤い鱗を取り出した。
「これは」
「この干し肉が暴(レイジ)れ鹿(ディアー)のものだにゃ。んで、この岩みたいな皮は岩狼(ロックウルフ)の岩皮を干したものだにゃ、そしてこの鱗はだにゃあ······あの有名な小龍(ワイバーン)の鱗だにゃ、とても高価にゃものだから、いざと言うとき以外は使わにゃいでほしいのにゃ」
小龍(ワイバーン)! 現実世界でも聞いたことのある龍の名前だ。は、挟みたぁい! あの岩のやつも、ああ、早く早くッうっ。我慢なんてッできないよッ!
「あむ!」
俺はこのハンバーガーの体で唯一といえる至福のひとときを堪能する。今までにない魔力の詰まった具材に俺の頬パンがとろけそうになる。いかんいかん、そもそも鱗とか岩皮が食材判定かすら怪しいのだ。早く解析をせねば。
『岩狼(ロックウルフ)から硬化(ハードニング)を検出、3回使用可能』『小龍(ワイバーン)から火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)を検出、10回使用可能』
激怒(レイジ)の力(フォース)は知っているので端折ったが、硬化(ハードニング)か、ルフレオいわく、自身の体を硬くする魔法らしいな。物理攻撃に対してかなり強くなるんだったな。このパンの体では防御力不足だったからこれは助かる。
そして、なんと、あの紫猪(パープルボア)を一撃で屠った、火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)が驚きの10発。連射できる高火力散弾銃だ。弱いわけがない。よし、これなら十分に戦うことができるぞ!
あとは日々の鍛錬の見せどころだな、この体の動かし方もコツが掴めてきたところだ。ウィルの短剣でも1頭くらい倒しておきたい。
「バーガーいい顔しているにゃあ。やっぱり戦は、損得抜きにして燃えるよにゃあ、やっとミーも剣を抜くことができるよ」
「エリノアって強いのか?」
実はこの2ヶ月、あのジゼルがdisり倒した蜥蜴以外、アイナが魔物をサーチアンドデストロイしている。全てが全てヘッドショットで一撃なのだ。なのでエリノアの出番が回ってこなかったのだ。
この少女はジゼルと同じで俺とアイナより2歳年上らしい、つまり14才だ。俺の世界で14才といったら中二病が発症する時期だ。もしかしたらエリノアも中二病を患っている危険性がある。確認せねば。
「んふふ、ミーの実力をはかりかねているにゃ?」
「どうなんだ、なんか資格とか持っているのか?」
「資格? んにゃもん持ってるわけにゃいだろー、あ、でも冒険者ギルドではSランクっていう階級にいるよ。その上はにゃいから、凄いんじゃにゃい?」
うーん、凄い! Sランクって漫画だとだいたい強いよな! でもまだ信じきれん!
「その歳でSランクまでいけるものなのか?」
「んー、AからSに上げるのは結構大変だって話はよく他の冒険者たちから聞くにゃ。ミーはEランクミッションをこなしてる時に、たまたま現れた小龍(ワイバーン)を倒したからSランクににゃれただけだし、飛び級もあるんだよ」
「1人で小龍(ワイバーン)をやったのか?」
「そうだよ、Eランクにゃんて1人でこにゃせるような仕事しかにゃいからにゃ。さっき渡した鱗はその時のものだにゃ、他は全部売っぱらってしまったにゃ」
「今の供述に嘘偽りはありませんね?」
「くどいにゃあー! つかれたにゃー! みゃーみゃーみゃー!」
エリノアは電池の切れた玩具のように倒れて眠ってしまった。斥候で疲れていたのだろう、なんだか悪い事をした。明日になれば分かることだ。俺ももう寝よう。この体にも睡眠は······必要だ······。
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