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二章『パテ編』
第32話 歌詞魔法
しおりを挟む「あ、魔物だにゃ」
マオタ街を出立して一週間、まだ次の村に着かない俺たちは、この旅初めての魔物と遭遇する。先頭のエリノアが先に気づいたので、まだ魔物はこちらに気づいていない。
「あれはなんの魔物ですか?」
「あれは蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)だにゃ、杖をもってるだろ? あの杖の先端から火球を飛ばしてくるから気をつけるんだ」
「では、私が矢で先制して」
「ヘイヨー」
「ジゼル!?」
気づけばジゼルが蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)の前に肩で風を切りながら近づいていた。
「相手が魔法を使う奴だと、ああにゃるんだった!」
「どうなるんだよ!」
「ラップバトルだにゃ!」
ジゼルはマイク状の杖を口元に当てて、蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)にラップバトルを仕掛けた。どこからともなくビートが聞こえる。マイクからか?
「へいトカゲ野郎お前の纏うローブ、マジで臭すぎて鼻を覆う、そのチンケな杖はなんだ? 風の強い日に折れた枝か? そんなモン持ってもしかしてネタか?」
「シュル?」
蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)はポカンとしている。困惑気味に舌をチロチロさせている。すると。
「返せないなら吹き飛びな」
「ジャアアア!?」
蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)の周りに渦巻く暴風が発生する。暴風は蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)を空高く舞いあげる。あとは重力任せで硬い地面に叩きつけられた。どう見ても即死(オーバーキル)だ。
「名前だけライムな野郎だったな、いえあ」
ジゼルは腕を組んでポーズを決めている。
え、いま、何が起きた? 今の魔法は確か竜巻(トルネード)。ジゼルが蜥蜴魔法使い(リザードウィザード)をdisったら、魔法が発動した?
「ジロジロ見ないで」
「あ、すいません。じゃない、今のはどうやったんだ? 呪文も唱えてないのに」
「呪文なら唱えた、リリックの中に全てが詰まっている」
「バーガー、やめといたほうがいい、王国魔導師の中でも歌詞魔法(リリックマジック)をちゃんと理解してるのにゃんてジゼルくらいにゃもんだから。それはそれとして、この魔物にゃんかもってにゃいかにゃー!」
そういうとエリノアは潰れた魔物の死体を漁る。
呪文を唱えずに魔法を使った。いや、呪文は唱えたらしい。でも竜巻(トルネード)なら、竜巻(トルネード)と唱える方が早い気も······。
俺の怪訝そうな表情に気づいたのかジゼルが口を開いた。
「詠唱時の抵抗(レジスト)、魔法の精度、消費魔力の削減、その他もろもろ、歌詞魔法(リリックマジック)には全てが詰め込まれている」
「普通の詠唱とは違うんだな」
「このご時世、主流なっている簡略詠唱魔法は、私から言わせれば、ただのインスタント。それに簡略詠唱なんて昔の魔導師が編み出した流派の一つに過ぎない。変わり種の無詠唱魔導師だってそう。本来の呪文は本一冊分くらいある」
「それを短くしたなら偉業なんじゃ」
「私のはその本を5、6冊並べて、リミックスさせているようなもの」
「あ、それは凄い」
歌詞魔法(リリックマジック)、侮れないな。
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