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一章『レタス編』
第14話 魔物襲来
しおりを挟む見張り台から笛の音が聞こえる、緊急事態を知らせる笛の音だ。リズムによって大まかな理由が分かる仕組みになっている。今回の笛のリズムは魔物の襲来を意味する。
タスレ村を襲撃したのは、南の森に生息する猪型の魔物、青猪(ブルーボア)だ。硬い青い毛で覆われていて、体高は1mを超える巨大な猪だ。1頭だけならなんとでもなるが、今回は数が違った。100を超える大きな群れだったのだ。
突進攻撃で丸太製の柵を突き破り村の中に侵入される。
至る所で戦闘音が聞こえる。俺は魔物の襲来時たまたま家の中にいた、ウィルは騒ぎを聞きつけるや否や、玄関先にずっと立て掛けてあったオブジェと化していた棍棒を引っ掴んで家を飛び出して行った。セニャンは戸締りをしっかりして、剣と盾を構えている。
アイナは大丈夫だろうか、そう思い居てもたってもいられなくなる。俺はここでじっとしているだけでいいのだろうか、否、俺は勇者だ。
「待ちぃ、どこに行くんや?」
「俺も戦います」
「ダメや! アンタはまだ子供や、行かせられんで」
「でも、俺は勇者です!」
「その前にあたしの息子や! 今は大人たちを信じとき!」
セニャンの気迫に押され俺は押し黙る。レスバトルで完全論破された気分だ。ここで待って無傷でいることがウィルたちの願いなのは分かるが······。
「大丈夫や、ウィルは強いでー、あの棍棒を振る見事なフォームに、あたしは惚れ込んだんやからな。お隣さんのお父さんも凄腕の弓使いや、アンタの周りはしっかり固められてるんよ」
俺の不安そうな表情を見て、セニャンはそう元気づけてくれた。そうだったのか。俺は知らずに守られていたのか。その言葉に安堵した矢先、ガラス戸を割ってウィルが飛び込んできた。満身創痍で。
「あっかーーん! 数多すぎるわ!」
「何してんねん! 気張りや!」
「もう三十路やで? 膝ガッタガタや!」
「父さん、ジッとしてください、いま治癒ヒーリングをかけますから」
「お、すまんな」
しかし、ウィルはなにかに気づいて、割れたガラス戸の方を向く。
「······セニャン、バーガー下がっとき、怪我するで」
「え?」
「奴さんや」
青猪(ブルーボア)だ、堂々とウィルが割ったガラス戸から入ってくる。デカい、100キロはあるんじゃないだろうか。額に深い傷が付いている。
「ワイと決着付けに来たんか! 律儀なやっちゃ!」
ウィルは手に唾を吐いて棍棒を握り直す。よく見なくても分かる、ウィルは満身創痍だ。青猪(ブルーボア)もそれを知ってか、ジリジリと詰め寄ってくる。
「セニャン、バーガーを連れて逃げるんや」
「······わかったで」
セニャンは俺を抱えると数歩下がる。それと同時に青猪(ブルーボア)が襲いかかる。
「······ッ! え?」
身構えたウィルたちは、急に動きを止めた青猪を不思議そうに見つめる。青猪はゆっくりと傾いていき、徐々に加速して横に倒れた。
よく見ると尻に矢が刺さっている。エルフ属の矢だ。
エルフたちが使う矢は矢羽の色で種類が違う。あの矢の矢羽は紫色、毒草から作り出した毒を矢尻に仕込んである。毒矢だ。
「大丈夫ですか!」
颯爽と現れたのはエルフ特有の軽装に身を包んだアイナだ。助けに来てくれたのだ。まるで勇者のような登場に俺はバンズの奥が熱くなるのを感じる。
「おおきに、助かったでホンマ······イテテ」
「ウィルさん! ひどい傷、すぐに治療しないと」
「か、かまへん、まずは魔物どもをどつき回すのが先や」
俺の治癒魔法も受けずにウィルはアイナと出ていってしまった。
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