上 下
14 / 1,167
一章『レタス編』

第14話 魔物襲来

しおりを挟む

 見張り台から笛の音が聞こえる、緊急事態を知らせる笛の音だ。リズムによって大まかな理由が分かる仕組みになっている。今回の笛のリズムは魔物の襲来を意味する。

 タスレ村を襲撃したのは、南の森に生息する猪型の魔物、青猪(ブルーボア)だ。硬い青い毛で覆われていて、体高は1mを超える巨大な猪だ。1頭だけならなんとでもなるが、今回は数が違った。100を超える大きな群れだったのだ。

 突進攻撃で丸太製の柵を突き破り村の中に侵入される。

 至る所で戦闘音が聞こえる。俺は魔物の襲来時たまたま家の中にいた、ウィルは騒ぎを聞きつけるや否や、玄関先にずっと立て掛けてあったオブジェと化していた棍棒を引っ掴んで家を飛び出して行った。セニャンは戸締りをしっかりして、剣と盾を構えている。

 アイナは大丈夫だろうか、そう思い居てもたってもいられなくなる。俺はここでじっとしているだけでいいのだろうか、否、俺は勇者だ。

「待ちぃ、どこに行くんや?」
「俺も戦います」
「ダメや! アンタはまだ子供や、行かせられんで」
「でも、俺は勇者です!」
「その前にあたしの息子や! 今は大人たちを信じとき!」

 セニャンの気迫に押され俺は押し黙る。レスバトルで完全論破された気分だ。ここで待って無傷でいることがウィルたちの願いなのは分かるが······。

「大丈夫や、ウィルは強いでー、あの棍棒を振る見事なフォームに、あたしは惚れ込んだんやからな。お隣さんのお父さんも凄腕の弓使いや、アンタの周りはしっかり固められてるんよ」

 俺の不安そうな表情を見て、セニャンはそう元気づけてくれた。そうだったのか。俺は知らずに守られていたのか。その言葉に安堵した矢先、ガラス戸を割ってウィルが飛び込んできた。満身創痍で。

「あっかーーん! 数多すぎるわ!」
「何してんねん! 気張りや!」
「もう三十路やで? 膝ガッタガタや!」
「父さん、ジッとしてください、いま治癒ヒーリングをかけますから」
「お、すまんな」

 しかし、ウィルはなにかに気づいて、割れたガラス戸の方を向く。

「······セニャン、バーガー下がっとき、怪我するで」
「え?」
「奴さんや」

 青猪(ブルーボア)だ、堂々とウィルが割ったガラス戸から入ってくる。デカい、100キロはあるんじゃないだろうか。額に深い傷が付いている。

「ワイと決着付けに来たんか! 律儀なやっちゃ!」

 ウィルは手に唾を吐いて棍棒を握り直す。よく見なくても分かる、ウィルは満身創痍だ。青猪(ブルーボア)もそれを知ってか、ジリジリと詰め寄ってくる。

「セニャン、バーガーを連れて逃げるんや」
「······わかったで」

 セニャンは俺を抱えると数歩下がる。それと同時に青猪(ブルーボア)が襲いかかる。

「······ッ! え?」

 身構えたウィルたちは、急に動きを止めた青猪を不思議そうに見つめる。青猪はゆっくりと傾いていき、徐々に加速して横に倒れた。

 よく見ると尻に矢が刺さっている。エルフ属の矢だ。
 エルフたちが使う矢は矢羽の色で種類が違う。あの矢の矢羽は紫色、毒草から作り出した毒を矢尻に仕込んである。毒矢だ。

「大丈夫ですか!」

 颯爽と現れたのはエルフ特有の軽装に身を包んだアイナだ。助けに来てくれたのだ。まるで勇者のような登場に俺はバンズの奥が熱くなるのを感じる。

「おおきに、助かったでホンマ······イテテ」
「ウィルさん! ひどい傷、すぐに治療しないと」
「か、かまへん、まずは魔物どもをどつき回すのが先や」

 俺の治癒魔法も受けずにウィルはアイナと出ていってしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

あなたを、守りたかった

かぜかおる
ファンタジー
アンジェリカは公爵家の娘、隣国の第二王子ローランドと結婚して、この国の王妃になる予定である。 今、公爵家では結婚直前の披露パーティーが行われていた。 しかし、婚約者のローランドが迎えにこない! ひとまずパーティー会場に一人で向かうもののそこにいたのは・・・ スカッとザマァではない 4話目の最後らへんで微グロ注意。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...