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六章『ピクルス編』

第1162話 絶望株式会社

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 一年くらい前、絶望タワーの司令室。


「クソが、おいコラもう一度言ってみやがれ」
「ですから、私にギアを元の世界に戻す力はありません」

 俺は『ヤカン』と会話していた、八百万だ。

「じゃあ何か、俺は最初から嘘の雇用内容で働いてたってわけか?」
「そうです、女神に勝ちたかったので貴方を騙しました、ここに来た時点、いえビルの倒壊で死んだ時点で貴方の本当の人生は終了しました」
「ふざけんじゃねぇぞ、俺は現世に帰って仕事をするためにやってきた、それをなんだ、クソが」
「この私を破壊しても無駄ですよ」

 薄々勘づいていたが、確証のないことは考えねぇようにしていた。クソ、帰れねぇなら俺はどうすりゃいいんだ。

「それに元の世界もイズクンゾによって一度滅びましたし、まぁだいたいは元に戻りましたが、それで有耶無耶になるでしょう、チャラでいいじゃないですか」
「いいわけねぇだろうが、仕事を途中で放棄するというのはそれまでに携わった全ての人、心を否定することになる最低の行為なんだよ、てめぇ(自分)の命がどうなろうと辞めることなんざできるわけがねぇんだ。クソ、いい考えが出やがらねぇ」

 こんなことは初めてだ、仕事の手順、方法で悩んだことはあったが、それは前進のための一時停止でしかない、仕事のない状態で宙ぶらりんになったことはねぇ。俺がいた会社は潰れねぇ、俺がいる限り、俺が死ぬまで潰れさせねぇ。

「仮にこの世界で唯一転移魔法が使えるというカーに頼んで転移したとしても、その機体では働くどころではないでしょう」
「おめーが受肉させられねぇからこうなってんだろうが」
「はぁ、そろそろしんどいので眠ります」
「おいコラ待て」

 逃げやがった。

「失礼しますー」
「なんだレイ、姉のところに帰ったんじゃねぇのか?」
「まぁまぁ、って、うわ!ギアすごい顔ですね、今までで一番追い詰められてる顔してますよ」
「そうか? 顔には出てねぇはずだが」
「あ、やっぱり悩んでるんですね」
「カマかけやがったな」
「えへへ、だいたい把握してます」
「ち、うるせぇな、俺のことはもういいだろうが、レイは自由だ、契約が終わったんだ働かさせたりしねぇよ、姉のところに戻れ、それとも忘れ物でもしたか?」
「そうですね、忘れ物しました」
「じゃあ、とっととーー」
「ここで働かせてください」
「はぁ?」

 何言ってやがんだ。

「この世界での仕事は終わったんだよ、もう何もねぇ」
「言葉を借りますね、ばかがー!」
「そんなぬるい口調で言ったことはねぇ、でなんだ」
「仕事がないから仕事が出来ない? 戻っても仕事が出来ないから途方に暮れてる? あほがー!」
「ち、気が抜けるから二度と真似するな」
「まぁ聞いてくださいよ、私たちで会社を作るんです!」
「会社だぁ?」
「そうですね!その名も絶望株式会社!」
「ネーミングの時点で業績下がるだろうが、てか株式会社とかなんでそんなこと知ってんだよ」
「実はですねー、色々調べてきたんですよ、知ってます? ギアが悩んでいる間に、カー様が転移魔法を一般公開したんですよ」
「そうだったのか、それがどうした」
「ふふーん! 異世界とのやり取りが可能になったんですよ! 仕掛けられた向こうはパニックの真っ只中ですが、これは大きなビジネスチャンスです!」
「ほう」
「元いたギアの会社も取り込んでですね! 絶望株式会社を世界に轟く一大企業にするんです! 仕事をするために!!」
「すげぇな……そんな考え、まったく思いつかなかったぞ」

 熱く語っていたレイがトーンを落とした。

「……今度はぁ、ぐす、今度は私たちがギアを助ける番なんです。そうやって周りのことも自分のことも背負いに背負って壊れるまで働く歯車(ギア)には私が、私たちが必要なんです」
「いいのかよ、レイ働くの嫌いだろ」
「嫌いですが、なんだかそっちの才能あるみたいなんで、それにダークエルフって寿命すごーく長いんですよ、働かないとお菓子食べられませんし」

 ドアの向こうで野郎どもも見てやがる。

「わかった、だがやるからにはガチで行くぞ」
「はい、どこまでもお供します、ね、みんな!」
『『『おおおおーーッ!!』』』
「いい返事だ、まずはどうするか、これだけでけぇ仕事は生まれて初めてだ、プランを考えるだけで、これからの仕事を考えるだけで、ギ、ギギ」
「あ、初めて笑いましたね」
「笑ってねぇよ」
「笑いましたよ!」
「笑ってねぇ」
「笑いました!」





 こうして絶望株式会社が発足した、この世界初の株式会社だ、まだ名前だけだが、異世界を駆ける最強の企業にさせる。俺たちでな。
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