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五章『チーズ編』
第819話 絶望の夜空10
しおりを挟む目を瞑る。仇を討とうとここまで来た。でも無理だった。私には何も守れない。
おにぃちゃんも守れなかったんだ。
そんな私に何が守れると言うのだろうか。
ごめんなさい、ごめんなさい。
おにぃちゃんに、会いたいなぁ。
『マスター、気を確かに、マス……』
マナーの加護が解けた。守護者の資格を失ったんだ。
でももうどうでもいい。
目を薄らと開く、魔獣チワワが歩み寄って来ている。ニヤニヤと嬉しそうにしている。そして大口を開ける。粘土の高い唾液が糸を引いている。テラテラと光る舌が別の生き物のように這っている。歯は武器屋に並べられた剣のようにズラリと並んでいる。
ああ。怖い。
けど、
「ぐぎゃ?」
私はサンザフラを魔獣チワワに突き刺していた。
「舐めるな! 化け物! 死んじまえ!!」
刺す。何度も何度も、
「ハハハ、ハハハハ」
マナーの加護の無い状態では魔獣チワワの薄皮を裂く程度の威力しか出せない。魔獣チワワは楽しそうに笑っている。道化師を見るかのように。無邪気に、
「もう、いい、かい?」
「くそくそくそ!!
死ね死ね死ね!
なんで、死なない!!
化け物! うわああああああああ!!」
「ハハハハハハハハハハハ」
あ、
魔獣チワワのギラついた牙が私をーー
眩しい光だ。
目を開けない。
「え?」
この光は力強くそれでいて暖かい光だった。
覚えている。忘れるもんか!
この感覚は、この魂の波長は、
「おにぃちゃん!!!!」
キラーキラー(おにぃちゃん)がそこにいた、真上から槍で魔獣チワワを突き刺している。
「待たせたな!ヒマリ!」
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