上 下
738 / 1,167
五章『チーズ編』

第738話 大戦争101

しおりを挟む

「スー! 来てくれたのか!」
「もちろんなの!」

 そういうスーの膝はプルプルと震えている、体もガタガタと今にも崩れ落ちそうになっている。

 恐怖している、それでも来てくれたんだ。

「愚弟よ。邪魔するな、そこを退け」
「いやなの! どかないの!」
「要領を得ないやつだ。部屋の隅で震えて事が終わるのを待っていれば良かったものを」

 魔王はスーの眼前に歩み寄る。
 半泣きのスーがキッと魔王を睨みつける。両手を広げて俺を守るようにしている。

 魔王の方が身長が高く見下ろして言った。

「不死とはいえ死の痛みは毎回あるはずだ。痛めつけられる前に退け」
「いやなの! 仲良くしてほしいの! あうっ!!」

 魔王がビンタした。スーはすぐに前を向く。

「ほう、いつもなら泣き崩れるはずだが」
「痛いのなんて怖くないの! 他の生き物は死んだら死んじゃう圧倒的弱者なの! だから殺しちゃダメなの!」
「死を優先させすぎだ愚弟。日々の生活の質の向上。ダラダラと戦い続けることによって増え続ける戦死者の総数。お前が一番よく知っているだろう」

 スーはお腹に手を当てる。

「死んだ皆はもっと生きたがってたの! 悔しがってたの! 夢なかばで悲しんでいるの!」
「ちぃ、そういう者を生み出さぬように、ここで最後の犠牲を払うと言っているのだ」
「そんな必要ないの! 皆が剣を置いて仲良くすればここで全てが解決するの!」
「それは未来予知か? お前が吸収した者の中にそういう特異体質を持っているものがいるのか?」
「そうなの! でないと取り返しのつかないことになるの! ぼくはどうなってもいいの! だから許してあげて欲しいの!」
「許す許さないではない。それに此度の犠牲程度今までの死んで行った者の数に比べれば小指ほどにもならぬ。言葉を返そう、それで全てが丸く済むのだ。スー、最後だ。退け」
「どかないの!」
「そうか・・・・・・、ならば仕方あるまい」

 魔王は踵を返して距離を取る。そしてスーに向き直る。

「犠牲は増えるが、神々の誓約に触れようと無理にでも勇者を殺す」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたを、守りたかった

かぜかおる
ファンタジー
アンジェリカは公爵家の娘、隣国の第二王子ローランドと結婚して、この国の王妃になる予定である。 今、公爵家では結婚直前の披露パーティーが行われていた。 しかし、婚約者のローランドが迎えにこない! ひとまずパーティー会場に一人で向かうもののそこにいたのは・・・ スカッとザマァではない 4話目の最後らへんで微グロ注意。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...