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四章『トマト編』
第354話 怪物の眠る森3
しおりを挟む木々を薙ぎ倒して現れたのは、巨大な猪の魔物だ。
毛色が桃色だ。
オショーが白ひげを撫でた。
「あれはBクラスの魔物、桃色猪(ピンクボア)ですな」
ジゼルが目を細めた。
「おかしい。桃色猪(ピンクボア)はもともと恵体の持ち主。だけどあれは度が過ぎている」
そう、でかいのだ。10メートルはある。
それが猛スピードでこちらに向かってきている。
「あのサイズにゃら、大きさだけでAクラスはあるにゃ」
「バーガー様、射ますか?」
「いや待て、様子が変だ」
そう、桃色猪(ピンクボア)は俺たちに目もくれずに、突っ込んでくる。
「皆! 横に回避しろ!」
俺たちは茂みに飛び込む。
やっぱりだ。桃色猪(ピンクボア)は快速電車のごとくそのまま通り過ぎていく。
「なんだったんだ?」
「バーガー様、あの魔物、体にいくつも傷がありました」
確かに。桃色猪(ピンクボア)の通ったあとを見ると血が付着している。
「み、みんな! あ、あれ!」
シャニーが桃色猪(ピンクボア)の来た方向を指さす。
連続した金属の擦れる音が聞こえる。音の主は桃色猪(ピンクボア)を超える速度で俺たちの前を駆け抜けて行った。
少しして桃色猪(ピンクボア)のものと思わしき断末魔が聞こえる。
「異常事態ですぞ」
「調べる必要がありそうだな、向かってみよう」
俺たちが桃色猪(ピンクボア)の元につくと、桃色猪(ピンクボア)は横に倒れていて動かない。死んでいる。
「一体何が?」
「バーガーあれ」
ジゼルの指さすのは桃色猪(ピンクボア)の上にいるものだ。
あれは? 人?
オショーが鎌を構えて声を上げた。
「皆さん気をつけてくだされ! あれは魔人ですぞ!」
「何!?」
魔人は一心不乱に桃色猪(ピンクボア)にむしゃぶりついている。共食いしている。
「食事に夢中のようだ」
「不意打ちするにゃら今のうちだし、逃げるのも今のうちだにゃ」
「あの魔人が他の冒険者や聖騎士と出会ったら死傷者を出すかもしれない。見過ごすわけにはいかないな」
「やるんだにゃ? わかったよ」
腹が満たされたのか、魔人は桃色猪(ピンクボア)の上で立ち上がると血のついた口元を拭う。俺たちを見下ろして口を開いた。
「俺はニードルハック。棘の魔人だ」
棘状の鱗のついた腕をブルブルと振るう。付着していた桃色猪(ピンクボア)の血が舞う。
「こいつ喋るのか」
「・・・・・・お前に言われたくない」
まさか喋るとはな、人形の魔物とはやり合ったことがあるが、これじゃ人間と大差ないぞ。
俺の動揺を察したのか、ジゼルが諭すように俺に呟いた。
「魔人は危険。魔物だった頃よりも凶暴化している場合が多い」
「なるほどな。わかった、いつも通りだ」
ニードルハックは面倒くさそうに俺たちを見てため息をこぼした。
「俺はお前たちには興味が無い」
「嘘だ。魔人は人間を殺したがる」
「俺は強くなりたいだけだ」
「人を殺しても強くなるくせに」
「やはり面倒だ。人間ってのは」
ニードルハックは俺たちのいる反対側に着地すると走り去っていく。
「待て!」
「ジゼル、深追いはよくにゃいよ」
「・・・・・・私はクレバー。我慢する」
「ジゼルはいい子だにゃ」
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