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第15話
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鳥のさえずりで目を覚ます。同時に、鼻腔に食欲をそそる匂いが届いた。
「……ん」
目をあける。もうすっかり見慣れた天井がそこにある。
隣にいた人物を手で探すが、そこにはぬくもりが残るだけである。
太陽はもう高く上っているらしく、窓からはまぶしい光が差し込んでいた。
俺はそれを眺めたあと、息を吸い込んだ。
――香ばしくベーコンが焼ける匂い。
俺は跳ね起きた。
「シッティ……!?」
どたどたと足音を立てて食堂に行くと、そこでは予想通りシッティが朝食を作っていた。
今日の朝食は目玉焼きとベーコンのようだ。
フライパンの上でベーコンがじゅうじゅうと音を立てていた。
さらにもうひとつのフライパンの上には食パンを焼いている。
シッティは走って来た俺に目を丸くしながら、慣れた手つきで塩をふる。
「おはよう、ジロウ。どうしたの? そんなに慌てて」
「シッティ、お前、今日仕事の日だろ?」
俺は尋ねる。昨日の晩餐会の後片付けを今日の仕事として残して来たはずだ。
仕事がある日、彼はいつも日の出前に家を出ている。
シッティは俺の疑問をよそに「よっ」と小さな掛け声とともに食パンをひっくり返す。
ほどよくきつね色に焼けていた。
シッティはトマトを切り分けながら言った。
「ふふ。休んじゃった」
「いいのか?」
「新婚だからね」
彼はとろけるような笑顔をしている。俺はそれ以上なにも言えなくなった。
「ほら、食べよう」
シッティに促されて、俺は食卓に座った。
食卓はいつものように豪華だ。
パン、野菜、卵、肉。
色どりにうるさいシッティの料理らしく、目で楽しめるくらいにきれいだ。
シッティはぐい、と自分の目玉焼きの皿を俺に差し出す。
「ショウユかけて」
「ああ」
シッティに乞われて、指から醤油を出す。
目玉焼きに醤油。これが、いつの間にか俺たちの当たり前になった。
「いただきます」
どちらからともなく言って、食べ始める。
なんの変哲もない、いつもの朝だ。
しかし、俺たちの関係性は変わった。
「ジロウ、体、平気?」
「え、あ……ああ!」
尋ねられて、俺の脳裏に昨夜の出来事がよぎり、赤面してしまう。
シッティはくすりと笑った。
「ジロウ、すごくよかったよ」
「お前! そういうことをだな……!」
年下のかわいい恋人にからかわれる。俺は両手で顔を覆った。
*
朝食を食べ終わった頃、玄関のドアが激しく叩かれた。
「?」
皿を洗っている俺が首を傾げている間に、ドアからガレ第一王子が顔をのぞかせた。
「おい、シルマレッティ! ジロウ!」
「入って来るな侵入者」
シッティが容赦ない言葉を投げかける。しかし、そんなことは意に介さず、ガレは言った。
「賢者が……賢者が……うどんばかり召喚するんだ……!」
俺はその言葉に思わず吹き出す。
「よっぽどおいしかったんだなぁ!」
確か、賢者のスキルは「食べたいものを召喚するスキル」だ。彼がどれだけうどんを気に入ったのかが如実に表れている。
俺は少年の様子を思い出して、ほのぼのした気持ちになった。
しかし、事態はそうほのぼのしていないらしい。
ガレが俺の肩を掴むと、叫んだ。
「ポーションが作れないと困るだろうが!」
「あー……なるほど」
賢者がつくるポーション。ようするにエナジードリンク。賢者の能力で治癒能力まで付与されたこの国最高のポーションである。
ガレは声高に命令した。
「いいか、賢者はそう一日に何回もスキルを使えるわけじゃないんだ。無駄にスキルを使わずにすむように、お前たち、はやく来てうどんを作れ!」
俺とシッティは顔を見合わせた。
俺は笑い、シッティも肩を竦める。
「よし、じゃあ、昼飯はみんなで食べるか」
「……ん」
目をあける。もうすっかり見慣れた天井がそこにある。
隣にいた人物を手で探すが、そこにはぬくもりが残るだけである。
太陽はもう高く上っているらしく、窓からはまぶしい光が差し込んでいた。
俺はそれを眺めたあと、息を吸い込んだ。
――香ばしくベーコンが焼ける匂い。
俺は跳ね起きた。
「シッティ……!?」
どたどたと足音を立てて食堂に行くと、そこでは予想通りシッティが朝食を作っていた。
今日の朝食は目玉焼きとベーコンのようだ。
フライパンの上でベーコンがじゅうじゅうと音を立てていた。
さらにもうひとつのフライパンの上には食パンを焼いている。
シッティは走って来た俺に目を丸くしながら、慣れた手つきで塩をふる。
「おはよう、ジロウ。どうしたの? そんなに慌てて」
「シッティ、お前、今日仕事の日だろ?」
俺は尋ねる。昨日の晩餐会の後片付けを今日の仕事として残して来たはずだ。
仕事がある日、彼はいつも日の出前に家を出ている。
シッティは俺の疑問をよそに「よっ」と小さな掛け声とともに食パンをひっくり返す。
ほどよくきつね色に焼けていた。
シッティはトマトを切り分けながら言った。
「ふふ。休んじゃった」
「いいのか?」
「新婚だからね」
彼はとろけるような笑顔をしている。俺はそれ以上なにも言えなくなった。
「ほら、食べよう」
シッティに促されて、俺は食卓に座った。
食卓はいつものように豪華だ。
パン、野菜、卵、肉。
色どりにうるさいシッティの料理らしく、目で楽しめるくらいにきれいだ。
シッティはぐい、と自分の目玉焼きの皿を俺に差し出す。
「ショウユかけて」
「ああ」
シッティに乞われて、指から醤油を出す。
目玉焼きに醤油。これが、いつの間にか俺たちの当たり前になった。
「いただきます」
どちらからともなく言って、食べ始める。
なんの変哲もない、いつもの朝だ。
しかし、俺たちの関係性は変わった。
「ジロウ、体、平気?」
「え、あ……ああ!」
尋ねられて、俺の脳裏に昨夜の出来事がよぎり、赤面してしまう。
シッティはくすりと笑った。
「ジロウ、すごくよかったよ」
「お前! そういうことをだな……!」
年下のかわいい恋人にからかわれる。俺は両手で顔を覆った。
*
朝食を食べ終わった頃、玄関のドアが激しく叩かれた。
「?」
皿を洗っている俺が首を傾げている間に、ドアからガレ第一王子が顔をのぞかせた。
「おい、シルマレッティ! ジロウ!」
「入って来るな侵入者」
シッティが容赦ない言葉を投げかける。しかし、そんなことは意に介さず、ガレは言った。
「賢者が……賢者が……うどんばかり召喚するんだ……!」
俺はその言葉に思わず吹き出す。
「よっぽどおいしかったんだなぁ!」
確か、賢者のスキルは「食べたいものを召喚するスキル」だ。彼がどれだけうどんを気に入ったのかが如実に表れている。
俺は少年の様子を思い出して、ほのぼのした気持ちになった。
しかし、事態はそうほのぼのしていないらしい。
ガレが俺の肩を掴むと、叫んだ。
「ポーションが作れないと困るだろうが!」
「あー……なるほど」
賢者がつくるポーション。ようするにエナジードリンク。賢者の能力で治癒能力まで付与されたこの国最高のポーションである。
ガレは声高に命令した。
「いいか、賢者はそう一日に何回もスキルを使えるわけじゃないんだ。無駄にスキルを使わずにすむように、お前たち、はやく来てうどんを作れ!」
俺とシッティは顔を見合わせた。
俺は笑い、シッティも肩を竦める。
「よし、じゃあ、昼飯はみんなで食べるか」
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モルトさま
コメントありがとうございます。
そして返信が大変遅れてしまい申し訳ありません。
なかなか続きを書けていないのですが、次の長編が終わったらこちらを完結させる予定ですのでゆるーくお付き合いください。
ありがとうございました!
左手の中指から醤油!
この設定にやられまして、読み進めていたら……すごくお腹が空くお話でした!
ああ美味しそう!
続きを楽しみにしております✨
結城さん✨
感想ありがとうございます。
普段私はあまり料理をしないので、なんとも無茶な小説を書き始めてしまったと思っていたのですが、おいしそうと言っていただけて安心しました!
はじめての感想うれしいです。
どうぞ続きもお楽しみください。