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第二十九話 すこーん

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 なんでなんでこうなっているんだ。

 俺は仰向きでベッドに寝かされている。服はすべて脱がされた。あそこが熱くて、怖くて、しがみつくようにシーツを握りしめている。

 あれ、なんでこうなって……。

 俺は回らない頭で必死に考えるのだが、考える傍からそれはかき消されていく。
「なんだ、考え事か? 余裕だな」
 俺が天井を見上げていると、オルム様が顔をあげて、ふっ、と俺の乳首に息を吹きかける。
 途端に俺の体は跳ねる。
「ひ、あ、ああっ……ん……っ!」
「ちゃんと集中しろ……」

 オルム様が乳首を舌で押しつぶすようになめる。そしてその熱い舌はへそをなぞり、もっと下へ――。
 オルム様は屹立した俺のそれに舌を這わせる。俺は犬のようにはっはっはと短い呼吸を繰り返しながら、首だけ持ち上げてその光景を見た。

 それは、オルム様の舌の動きに合わせてびくびくと震える。オルム様と目が合う。彼はにやっと笑い、俺のそれを口にいれる。

 思わずのけぞる。足先にまでびりびりとした何かが走り、足の指一本一本にぎゅっと力が入る。
「やあっ……だめっ……ああ……あ……」

 ――オルム様。オルム様。彼が俺の……ああ……。

 ああ。背徳的だ。舌がぬるぬるとそれを這う。気持ちよくて、混乱していて、オルム様を汚してしまいそうで申し訳なくて、でも気持ちいい。
 俺はめちゃくちゃに首を振った。そうしていないと頭が破裂してしまうそうだった。

「おるむ、さまぁ……」
 必死で手を伸ばして、彼の頭を遠ざけようと押すのだが、彼は俺の手を簡単にベッドに縫い留めてしまう。手の自由を奪われて、俺はすがるように彼を見ることしかできない。
 先端の割れ目に舌を押し当てられ、ぐりぐりと押し込むようになめとられる。オルム様の唾液が伝い落ちて股を奥まで濡らしていく。

「ひっ……あ、……くぅ……」

 口からは聞いたことのないような自分の声が落ちる。そんなはしたない自分の声をオルム様に聞かせてしまうのが嫌で、俺はぐっと下唇を噛んで我慢する。
 しかし、それもそう長くはもたない。

「声を聞かせてくれ……」
「あああっ!」

 オルム様に尾骶骨を押されると、簡単に俺の口からは嬌声が漏れた。オルム様はそのまままた先端をぐりぐりと攻め立てる。
 俺はどんどん自分が高まっていくのを感じた。

「オルム、さまぁ、だめ、だめ……!」
 無意識に腰が揺れだす。みっともない俺の腰ふりを、オルム様に見られたくない。でも、腰がとめられない。体は熱を孕み、頭はぼーっとして、気持ちよくなること以外考えられない。
「いいぞ、吐き出して……」
「だめ、だめ……ああっ……んっ……!」

 俺の絶頂が近いのを感じ取って、オルム様は俺のそこを手でしごきだす。上下に規則正しく愛撫されて、俺のそこはくちゅくちゅくちゅと耳を覆いたくなるような水音を出す。

「いっちゃ……いっっちゃうう……。オルムさま、はなして、はなして……」
 オルム様の手を汚してしまう。俺は首を振るのだが、彼は容赦しない。
「……イけ」
 オルム様の低い命令に、俺のそこは大きく震えた。
「ああああ……」

 目の前がちかちかして、後頭部はふわふわした。自分の体が、自分のものではないような感覚。
 目の前が白くなって、すべての音が消える。全身に力が入って、呼吸がとまる。
 俺はあっけあくと精を吐き出した。――彼の手の中で。



 次に俺の世界に音がもどってきたとき、最初に聞こえたのは俺の馬鹿みたいに大きい心臓の音と、荒い呼吸の音だった。
「あ……はぁっ……はあ……はぁ……」
 全身気だるく、目を開けるもの億劫だった。このまま寝てしまおうかと意識が浮上しては沈んでいく。

 ――何があったんだっけ。

 俺は薄目を開けて天井を見上げた。この城にやってきてもう二つ目の季節になった。見慣れつつある天井だ。ベッドの真上には染みがふたつある。その染みは俺の頭に冷静さをもたらした。

 ――俺、オルム様の手で……!

 冷静になると同時に恐慌に陥る。

「お、オルム様……!」
 飛び起きる。と、同時に俺の鼻先に熱いものがあたった。
「オルム様……」

 オルム様はきっちりとシャツを着たままだ。ただ、ズボンだけずらしてそれを露出させている。そこは芯をもち、立ち上がっていた。彼は欲に濡れた目でこちらを見ていた。
 彼の喉がゆっくりと上下に動き、それから言う。

「私もこうなってしまった……助けてくれるか?」
「あ……」

 鼻の奥に、青臭い匂いが届く。俺はゆっくりと口を開いた。

 オルム様はベッドに膝立ちで、俺はその前に四つん這いになる。
 おそるおそる、それに舌を伸ばす。熱い。そして、ぬるぬるしている。ゆっくりと根本に向かって舌を這わす。皮の微妙なしわが舌に伝わって、俺がいま何を舐めているのかをわからせる。何度か往復したあと、オルム様の真似をして先端のくぼみに舌を押し込む。独特の苦い匂いが鼻を抜けていく。
 繰り返していると、そこからとろとろとしたものが流れ出て来る。びっくりして舌をひっこめると、その液体が銀色の糸となって俺の舌とオルム様のそれとをつないだ。

 俺のもどかしい舌の動きに耐えかねたのか、オルム様が俺の唇に触れて口を開けさせる。

 ――く、咥えたらいいのかな……。

 正直、そんなに上手にできるとは思わなかった。オルム様をちらと見上げると、期待のこもった瞳とぶつかる。その目がいつになく熱くて、俺は目をそらした。彼の目で見られている皮膚がじりじりと焦がれた。視線だけで火傷しそうだった。
 俺はその視線に命じられるように、その熱いものを口に迎え入れた。

 ――ちゅ、ぱっ……ちゅ……。

 静かな部屋に、卑猥な水音が響く。
 舌を動かして、顔を振る。頬をすぼめて、それをしごく。やり方があっているかはわからない。ただ、彼に気持ち良くなってほしかった。
 懸命に顔を振っていると、上から「くっ……」という声が聞こえた。
 目だけを動かして彼を見上げると、眉間に皺を寄せたオルム様がいた。

 彼は「あ、ああ……いいぞ、セルジュ……」と言って頭をなでてくれる。
 俺はそれがうれしくて、より激しく顔を振る。
「セルジュ……そんなにっ……」
「ふあ、あひ、ひって……」
 水音はより卑猥に、じゅぼじゅぼと深い音に変わっていく。
「セルジュ……」
「んぐぅ!?」

 その時、オルム様は俺を押し倒した。そして俺の顔にまたがる形になって、また熱いそれを俺の口に押し込む。
「あぐっ……」
 さっきよりも、もっと奥にまでそれは到達した。俺の喉奥まで彼のそれでいっぱいだ。
 オルム様は腰を振る。
「いくっ……セルジュ……セルジュ」
「あ、ああ、ごっ、ああ!」

 オルム様のそれを咥えているうちに、俺の股のそれもまた立ち上がりはじめていた。オルム様はそれに手を伸ばして、激しくこすりあげる。いったばかりのそこは敏感で、脳に直接快感を叩きこまれているかのようだった。思わず俺は腰を突き出してしまう。

「いっしょに、いこうか」
 オルム様の言葉に、目だけでうなずきをかえす。

 ――ぐちょ、ぐぼっ……。

 もうどちらのものかわからない音が耳朶を打つ。
「くっ」
「あああああ!」
 俺たちは同時に果てた。

 オルム様は本当に不能なんだろうか。
 二度も射精したことで俺は少し冷静さを取り戻していた。
 俺の口の端からは彼が吐き出した精がこぼれおちている。

 それとも、薬のおかげで回復したのだろうか。
 俺が脱力しながらそんなことを考えていると、オルム様が起き上がって俺の上にまたのしかかった。
 彼は俺の体をひっくり返してうつぶせにすると、尻たぶを開き、その中心に触れる。

 俺はかっと目を見開いた。
「うわああ! それは駄目ですよオルム様!」

 とっさのことだった。俺の許容量を超えてしまって、もうなにもかも意味がわからなかった。それで、夢中で体を動かした。ベッドの上には俺の脱いだ衣服が散乱している。その中で、硬いものが手に当たった。それが何かを確認せず、俺はそれをオルム様に向けて振った。

 すこーん。と小気味いい音が鳴った。
 俺はエラーブルに渡されたメープルの枝でオルム様の頭をぶん殴っていた。
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