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5話
しおりを挟むセレガはイライラしていた。
屋敷からハンストンが姿を消したと大騒ぎになった。彼を乗せたドラゴンは北の空に消えていったという。それが7日前の話だ。
もともとドラゴンに乗ってあちこちに出かけていたハンストンだが、これほど長い留守ははじめてのことだ。
それで、使用人たちはセレガが振られたと思い込んで、セレガを元気づけようと心を砕いてくれるのだが、それはセレガの感情を逆撫でしていた。
そうしてじりじりと行き場のない感情を抱いているときに、父がセレガにこう言った。
「ああセレガ、かわいそうに。大丈夫だ、私が後妻を探しているアルファを連れてきてやるから」
セレガは激怒した。
父を部屋から追い返して、セレガはベッドにひとりで倒れ込んで、ぽかぽかとシーツに拳を叩きつけた。
そうしているうちに今度は涙が溢れ、枕に顔をうずめた。
「ハンストン、どこに行ったんだよ……3日で戻るっ……て……」
セレガは認めた。ハンストンを愛していると。そして今、ハンストンが傍にいないことが何より寂しいのだ。
セレガはハンストンが無事で、早く戻ることを願い続けた。
セレガの願いは神に届いた。
その翌日、まるでセレガが恋心を自覚するのを待っていたかのように、ハンストンはひょっこりと帰ってきた。
「ただいま」
巨大なドラゴンの姿が水平線に見えたと報せを受けて、待ち構えていたセレガは非難の言葉をかけるべく口を開いた。
「……お前っ!」
「セレガ、結婚してください」
セレガが積もりに積もった7日分の感情を吐き出すより前に、ハンストンは膝をついてセレガに約束のものを差し出した。
「……うっそだろ、お前」
「めずしい石でしょ?」
「言ったけども」
ハンストンが手にしているのは婚約指輪として人気のルビーやエメラルドやダイヤモンドではない。それは氷竜王石と呼ばれる氷竜の額にある石だ。
珍しいどころの騒ぎではない。魔力が秘められたその石は、扱い様によっては一国の興亡を左右しかねない。
恐ろしい石を差し出されたセレガだったが、そんな石よりも彼の心にはあたたかいものが満ちていた。
ああ、だめだ、とセレガは思った。
「ハンストン、お前、たまにめちゃくちゃかわいいよな」
「?」
「結婚しよう。もうどこにも行くな」
セレガは大きく腕を広げて、ハンストンを迎え入れた。
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