思いが重なるとき

やぼ

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戦争の狭間で1

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祖父の嘉孝は、孫娘との初デ-トに
朝からご機嫌だった。

「マヤは、まだ支度出来ないのか。
全く。範子は甘くなってるんだろう。
あと5分待って、来なかったら
今日はキャンセルだ。時間には正確に
行動出来るように教えときなさい。」

いつもなら、時間を守れない家族を
叱責し、不機嫌になって
もうこの話は、キャンセルだと怒る父親が
孫の頼みだからなのか、5分も待つと
言ったことに、娘の春菜も妹の範子も
驚くというよりは、笑いを堪えきれず
今にも吹き出しそうになった。

「おじい様、お待たせしました。」 

そこへ漸く登場した娘。
亡き祖母が16歳の誕生日に買ってくれた
品の良いスモーキ-ミントの
ダッフルコ-トを着て現れた。
チェック柄のワンピースとも合っている。

春菜は、満足そうにしながらも
マヤが遅れたことを叱った。

「マヤ、その前に言うことがあるでしょ」
「あ、はい。」
「大変お待たせして、申し訳ありません
でした。おじいさま。」

「うむ。それでは行こうか」

嘉孝は怒るどころか、顔がほころんでいる。

そして、祖父と孫娘は初めてのデ-トに
向かった。

祖母の実家に。

小一時間、高速を走る車中で二人の会話は
弾んでいた。

「お前は、おばあちゃんに似ているな」
「ママにも、いえお母様にも言われました。
あなたはおばあちゃんに似てるって」

「今は、ママでもいいよ。TPOで
対応出来ればいいんだよ。」

「え?いいのですか。なんだ良かった。
ありがとう、おじいちゃん」

「丁寧に話すのって、とっても肩が
凝りますよね。」

「ハハハ。大したことないさ、慣れだよ
慣れることだ。何でもね。」

「はい。」

範子の話してた通り、祖父は案外
優しくて面白い人だった。

一緒に暮らしていると、祖父の印象も
随分、変わった。

それでも母、春菜が言うには
娘と孫じゃ、対応が全然違う。
ママには、おじいちゃんもおばあちゃんも
厳しかったもの。マヤが羨ましい~
と笑いながら話すのだ。

それでも、母がこんなにも優しいのは
やはり祖父や祖母の愛情があったからだと
マヤには、解っていた。

人は優しくされて、初めて優しさを知る
冷たくされれば冷たさしか分からないと
中学の時、担任が教えてくれたから。

「会長、そろそろ郷田様宅へ着きますが
このまま向かうのですか?」

「ああ、そうしてくれ。瑠璃子の弟にも
伝えているから。お昼を用意して
待ってるそうだから、遅れると申し訳ない。」

「ごめんなさい。私の着替えが遅くなって
おばあちゃんが買ってくれたこのコ-トに
合うワンピを選んでたの。」

「いいんだよ。。それ、おばあちゃんが
選んでくれたのか。そうか。そうか。」

祖父は笑顔で頷いていた。

郷田の家に着いたのは、11時50分だった。 

運転手の相澤さんも時間通りに
運転する技術を持っている。
勿論、法定規則など破らずにキチンと
任務遂行するプロフェッショナルな人だ。

「いらっしゃい、義兄さん。
こんにちは、君がマヤちゃんか
本当に若い頃の姉に良くにているね。」

「初めまして、新田マヤです。」

「さあさ、中に入って。お腹すいたろ
お昼を用意しているよ。」

祖母の弟の郷田一郎は、地元高校の
美術教師をしていた芸術家だと
聞いている。

あちこちで個展も開きながら
教師を引退した今は、陶芸教室を開いたり
絵画教室もやっていると話していた。

元々、子ども達に教えることが
好きなのだと昼食中、話していた。

なかなか終わらない祖父との会話。

切り出せない本題に
マヤは、思い切って聞いてみた。

「すみません。郷田久生さんのお話
聞いてもいいですか?」

すると、すかさず祖父に叱責をうけた。

「マヤ、失礼だぞ。まだ私達は話を
している最中だ。」

「あ、やっぱりいいです。ごめんなさい。」

祖父にたしなめられてシュンとなる
マヤだった。

「ハハハ、こちらこそ、ごめんね。
つい話に夢中になってしまって
そうだったね。私の父のことが
聞きたくて来たんだよね。」

そして、祖母の弟は、話し始めた。

「父の郷田久生は、元々は、海軍士官学校
にいたらしいんだ。分かるかな、要するに
兵隊さんの学校だよ。」

「ああ、そして、祖父の伯父と出会うんで
すよね。」

「うん?そこは知らないけど、新田の
人間と親しかったとは聞いたことは
ないなあ。そうなんですか義兄さん。」

「いや、私も初めて聞いた。瑠璃子が
この日記をマヤに渡したらしい。
これの話は 君も知ってるだろ。」

「ああ、春菜ちゃんが家出した時の…
ハハハ。」

違います。その日記は図書館にあって
いろいろ曰く付きで、と祖父に
説明したかったが、そんなことは
どうでもいいと言われそうで
マヤは黙って、一郎の話を聞いた。


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