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悠を連れて帰宅した映人は、寝室に連れていこうとしたが、その当人は猛烈な吐き気にみわまれた。
「·········きもち······わるい········」
いっそう蒼白になった悠はふらふらになりながら映人から離れトイレに閉じこもってしまい、しばらくは出てこなかった。
廊下に漏れ聞こえるのはえずいているような、苦しそうな呼吸。
映人はペットボトルの水を持っていき背中をさすってやろうと入ろうとしたが鍵が閉まっていた。
仕方なく廊下で待っていたが出てくる気配がない。
しばらくして苦しそうな声は聞こえなくなくなったので控え目に扉をノックしたが、なんの反応もなかった。
「悠、大丈夫か?───悠」
ため息をつき、パンツのポケットから財布をだしてコインを取り出すと、鍵穴にあてて鍵を開けてしまう。
扉を開けると壁にもたれかかった悠が、寝息をたてていた。
「·········まったく、お前は·······」
眉をひそめ、あきれたように嘆息した映人はそう言いながらも表情はあくまでも優しい。
そっと悠をかかえ寝室に連れていった。
スーツを脱がせ、着替えさせても目覚める気配はなかった。
映人の手つきがあまりにも優しく、悠が安心した顔をして寝ているので、起こすのは忍びなかったこともある。
本来ならば、他の男につけいる隙を与えた、悠にはお仕置きしたいところだが、この状態ではさすがに無理矢理起こすこともしなかった。
悠の居場所を突き止めたのは、持たせている携帯の位置情報だった。
懇親会ということは知ってはいたが、都内を数ヵ所移動し、なぜか近所の公園で信号が止まっていた。
「会社の人と一緒だから、電話はしないでね」と、悠に言われていたので携帯を鳴らすのを控えていたが、近くの公園で信号が動かない事にいやな予感がし、探しに行ったことが幸いだった。
遠目だったが、背の高い人物が悠の肩に手をかけ、まさに唇を重ねようとする瞬間だった。
油断も隙もないとはこの事だ。
計画を前倒ししなくてはならない。
先程の浜野とかいう悠の同僚は十分脅かしていたので、しばらくは心配しなくて大丈夫そうだが、それでも悠は魅力的だ。
映人によって磨かれ、ここのところかもしだす色気は本人が自覚していなくても、そっちの方面の趣味がある男達には目の毒だ。
ストレートである浜野も悠に手を出しそうな気配があった。
可愛い弟には自分の目の届くところにいてもらわないと、このままでは自分の仕事にも支障をきたしそうだ。
今の自分には年代的に統括部長になるのは時期が早いが、それを目指すには大いに利点があった。
一部の社員の人事異動に口をはさめる権限が与えられる事だ。
初めて悠を抱いてから、考えていたこと。
2、3年計画にはなるが、その間に悠を育て手元に置くことを改めて決意した。
「·········み········ず·········」
カーテンの隙から差し込む光に顔を歪めながらも、からからに乾いた喉のせいで、無意識に水を欲し目を覚ました。
のろのろと起き上がると、頭痛と喉がひりつく不快感に、再度顔を歪める。
「·········最悪」
気分は決して良くはない。
起こした躰を再度ベッドに倒したが、これはいつも映人と自分が寝ているベッドだ。
昨夜の記憶をさぐってみるが、何時ごろ帰ったのかも記憶になかった。
──── というか、まったく覚えていない。
喉も痛かったのでがばりと躰を起こし、いつもは傍らに寝ているはずの兄の姿もなかったので、リビングに向かった。
「おはよう」
低い声は映人のものだ。
その当人はぴっちりとスーツに着替え、ダイニングテーブルにつき、いつもの出勤風景と変わらぬ顔でコーヒーを飲みながら、昨日の経済新聞を読んでいた。
「え? なんで着替えているの?」
悠は驚きながらも冷蔵庫から水のペットボトルを取りだし、映人が座っている向かいに腰を下ろした。
記憶違いでなければ今日は土曜日で、出勤ではないはずだ。
「あぁ───やり残したことがあったからな、早めに行って帰ってくる」
忙しそうだな········と思いつつ、悠は気のない返事をしたが、それはちょっと寂しさからの返事だった。
せっかくの土曜日、映人とどこかに出掛けたかったのだが、仕事ならば仕方がない。
瞳をふせた悠に、映人がおもむろに聞いた。
「気分は?」
なにかを探っているような問いだったが、悠は気づかず素直に答えた。
「·········ちょっと頭痛いかも。そういえばおれ、昨日何時ごろ帰ってきた?·········というか、帰ってきた記憶もないのだけど········ひょっとして、迷惑かけた?」
「全くないのか?」
呆れたように問い返され、悠はうなずく。
悠自身、あれだけアルコールを飲んで、きちんと帰って来ていた自分に
拍手を送りたい気分だったが、映人は違っていたようだった。
「浜野に送ってもらったことは?」
「?────先輩?」
「·········きもち······わるい········」
いっそう蒼白になった悠はふらふらになりながら映人から離れトイレに閉じこもってしまい、しばらくは出てこなかった。
廊下に漏れ聞こえるのはえずいているような、苦しそうな呼吸。
映人はペットボトルの水を持っていき背中をさすってやろうと入ろうとしたが鍵が閉まっていた。
仕方なく廊下で待っていたが出てくる気配がない。
しばらくして苦しそうな声は聞こえなくなくなったので控え目に扉をノックしたが、なんの反応もなかった。
「悠、大丈夫か?───悠」
ため息をつき、パンツのポケットから財布をだしてコインを取り出すと、鍵穴にあてて鍵を開けてしまう。
扉を開けると壁にもたれかかった悠が、寝息をたてていた。
「·········まったく、お前は·······」
眉をひそめ、あきれたように嘆息した映人はそう言いながらも表情はあくまでも優しい。
そっと悠をかかえ寝室に連れていった。
スーツを脱がせ、着替えさせても目覚める気配はなかった。
映人の手つきがあまりにも優しく、悠が安心した顔をして寝ているので、起こすのは忍びなかったこともある。
本来ならば、他の男につけいる隙を与えた、悠にはお仕置きしたいところだが、この状態ではさすがに無理矢理起こすこともしなかった。
悠の居場所を突き止めたのは、持たせている携帯の位置情報だった。
懇親会ということは知ってはいたが、都内を数ヵ所移動し、なぜか近所の公園で信号が止まっていた。
「会社の人と一緒だから、電話はしないでね」と、悠に言われていたので携帯を鳴らすのを控えていたが、近くの公園で信号が動かない事にいやな予感がし、探しに行ったことが幸いだった。
遠目だったが、背の高い人物が悠の肩に手をかけ、まさに唇を重ねようとする瞬間だった。
油断も隙もないとはこの事だ。
計画を前倒ししなくてはならない。
先程の浜野とかいう悠の同僚は十分脅かしていたので、しばらくは心配しなくて大丈夫そうだが、それでも悠は魅力的だ。
映人によって磨かれ、ここのところかもしだす色気は本人が自覚していなくても、そっちの方面の趣味がある男達には目の毒だ。
ストレートである浜野も悠に手を出しそうな気配があった。
可愛い弟には自分の目の届くところにいてもらわないと、このままでは自分の仕事にも支障をきたしそうだ。
今の自分には年代的に統括部長になるのは時期が早いが、それを目指すには大いに利点があった。
一部の社員の人事異動に口をはさめる権限が与えられる事だ。
初めて悠を抱いてから、考えていたこと。
2、3年計画にはなるが、その間に悠を育て手元に置くことを改めて決意した。
「·········み········ず·········」
カーテンの隙から差し込む光に顔を歪めながらも、からからに乾いた喉のせいで、無意識に水を欲し目を覚ました。
のろのろと起き上がると、頭痛と喉がひりつく不快感に、再度顔を歪める。
「·········最悪」
気分は決して良くはない。
起こした躰を再度ベッドに倒したが、これはいつも映人と自分が寝ているベッドだ。
昨夜の記憶をさぐってみるが、何時ごろ帰ったのかも記憶になかった。
──── というか、まったく覚えていない。
喉も痛かったのでがばりと躰を起こし、いつもは傍らに寝ているはずの兄の姿もなかったので、リビングに向かった。
「おはよう」
低い声は映人のものだ。
その当人はぴっちりとスーツに着替え、ダイニングテーブルにつき、いつもの出勤風景と変わらぬ顔でコーヒーを飲みながら、昨日の経済新聞を読んでいた。
「え? なんで着替えているの?」
悠は驚きながらも冷蔵庫から水のペットボトルを取りだし、映人が座っている向かいに腰を下ろした。
記憶違いでなければ今日は土曜日で、出勤ではないはずだ。
「あぁ───やり残したことがあったからな、早めに行って帰ってくる」
忙しそうだな········と思いつつ、悠は気のない返事をしたが、それはちょっと寂しさからの返事だった。
せっかくの土曜日、映人とどこかに出掛けたかったのだが、仕事ならば仕方がない。
瞳をふせた悠に、映人がおもむろに聞いた。
「気分は?」
なにかを探っているような問いだったが、悠は気づかず素直に答えた。
「·········ちょっと頭痛いかも。そういえばおれ、昨日何時ごろ帰ってきた?·········というか、帰ってきた記憶もないのだけど········ひょっとして、迷惑かけた?」
「全くないのか?」
呆れたように問い返され、悠はうなずく。
悠自身、あれだけアルコールを飲んで、きちんと帰って来ていた自分に
拍手を送りたい気分だったが、映人は違っていたようだった。
「浜野に送ってもらったことは?」
「?────先輩?」
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