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 帰宅した気配に、ソファで飛び起きた悠は、寝ぼけまなこで制止しようとしたが時すでに遅かった。

 口に入れた映人が、何とも言えない表情で一言そういうと悠の瞳には涙が浮かんだ。


「っ、········わかんないっ······兄さんがいつも作ってくれるから·······たまにはと思ったけど········っ、おれ料理の才能ない·········」


 あきらかに落ち込んいた自分のそばに近づいた映人は、ぼんと頭をなで慰めてくれた。


「あまり落ち込むな。実家でもほとんど作ったことなかっただろう? 俺の為に作ってくれて、とても嬉しい········そのうち覚えるさ·······それに、あれはあれで、食べられないことはない」


 優しく微笑まれて、頬にキスを落とされた。

 存分に甘やかされているのだと思う。


「いいなぁ~年上かぁ」 

 

 ぼやいた元原の言葉に現実世界へと引き戻された悠は、浜野と元原の方に顔を向ける。

 酒でぼんやりしている場合ではなく、これも仕事の内としっかりしようと思ったが、次の元原の言葉に絶句してしまった。


「あっちも、テクニックあるだろ? どんだけ年上かわからんけどさ········永原ぁ~そっちで、骨抜きなんじゃねぇの~?」


 一瞬で真っ赤になった悠の顔を二人は見逃さなかった。

 思い出してしまったのは、数ヵ月前の映人の誕生日のことだ。


「品物なんかいらない·······それよりもっと可愛いお前を見たい」そう言ってベットで要求されたのは、陰茎に細い器具を挿入することだった。

 初めは恐怖で拒否をしたが、残念そうな映人の顔をみたら「本当に痛くない?」と確認してしまい、しぜんと受け入れるかたちとなってしまっていた。


 小さな球体が幾重ににもつらなっている細い棒を目にしたときは少し後悔してしまった。

 枕に躰をあずけ、陰茎にそれが挿入された時は少しの痛みと、凄まじい快感で見も世もなく啼いた。


 棒が隘路あいろをゆっくり刺激し、ときどき棒の上部をぐるりと回される。

 そうすると躰が跳ね、声が枯れるほど啼き叫んだ。


 緊張感からか悠の躰が疲労で弛緩すると、映人はゆっくりと棒を抜いたが───そこで漏らしてしまった·········。

 膀胱を刺激されれば当然の現象なのだが、あまりの恥ずかしさに今度はえずきながら泣きだしてしまった。


「泣かなくていい──可愛かった。最高のプレゼントだ」


 そういって風呂に連れていってもらい、躰の隅々まで洗ってもらったことを思い出してしまう。


 にやにやしている二人にこれ以上つっこまれたくなくて、テーブルに置いてあったグラスを手に取り、いっきに飲んでしまった。


「───あっ、それ! 俺の!」


 悠が手にとってしまったのは、浜野が頼んだウオッカだ。

 アルコール度数は低い方だったが、それでも40度はあるもので、ストレートのそれを飲んでしまった悠。

 とたんに喉がやけつくような感覚が襲った。


「········永原? 大丈夫か?」


 飲みなれていない悠に、いささか浜野が青い顔で聞くが、その声も悠にはゆがんで聞こえた。

 口を手で押さえたが、あまりのアルコールのきつさに目が回り、みるみるうちに蒼白になった。


「水飲め、水っ!」


 握らされた水のグラスを受け取った悠は、口をつけようとしたが、すでに遅かった。

 視界がゆらぎ落としそうになったグラスを浜野がキャッチし、意識がとぎれた。




 覚醒したのは、ゆるやかな揺れのなかだった。

 浜野と一緒にタクシーに乗せられ、自宅近くにきた頃だった。


「ながはら········永原! 家この辺りか?」


 肩を揺らされ浜野に起こされた悠は、はっと覚醒した。

 気づけばもう映人のマンションの近くだった。


 酔っていながらも家には映人がいることを思い出していた。

 第一営業部の部長と浜野の鉢合わせはまずいと思い、タクシーの運転手に「ここで降ります」と、要求し一人で降りようとしたが、浜野がタクシー代を払って続いて降りてしまった。


「········先輩·········大丈夫ですから」

「───大丈夫なわけないだろ·······家どこだ?」


 ふらついている悠の腕をとり、歩き出そうとすると先程まで赤かった悠の顔色が、蒼白になった。

 視界がぐるぐるとまわり、膝から力が抜けとっさに浜野に支えられる。

 周囲を見渡した浜野に引きずられるようにどこかのベンチに座らせられた。


「ほら、水買ってきたぞ───ゆっくり飲めよ」


 どのくらいそうしていたのか分からなかったが、気づけば浜野が水を差し出していた。

 ぼうっとした意識のなかでそれを受けとると、丁寧にキャップまで外してくれたそれに口をつける。


 とたんにむせてしまい、浜野がとなりに座り背中をさすってくれた。


「だから、ゆっくり飲めって·······」

「すっ、すみませんっ·····」


 涙目になって浜野の顔をみると、なぜか彼の顔は真剣だった。

 静まり返った公園の薄明かりのなか、精悍な顔が悠の眼前に近づいていた。

────────────────────────────────────────
次回掲載で映人×悠 短編は完結させます。一週間後くらいの予定です。

ちなみに、悠の料理は、私が遥か昔に実際作ったシチューで、いまだに何を入れたか覚えていません(^_^;)それがトラウマで数年は作る気になれませんでしたが……今はちゃんと作れてますよ(^_^;)



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