弟に執着する兄の話  ─執愛─

おーらぴんく

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新たな幸せ 1

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 映人と悠が幸せをかみしめている頃、徳永グランドホテルの最上階のバーで、桃里はひとり甘いカクテルを流しこんでいた。

 映人たちと別れたあと、仕方なく家に帰ってみたものの、気分がすっきりせず二丁目のなじみの店に行ってみた。


 だが、騒がしさに辟易へきえきし、そうそうに退散するとホテルに足をむけた。

 ゆったりした高級感あふれる店内は、こういう気分の時にはここちよかったが、今日は土曜日だ。


 本来だったら地下の倶楽部に出演か、客によびだされば客室に出向いてはいたが、オーナーである伊織には来週からと、連絡はすませていたのでその心配はない。

 馴染みの客はとっくに地下に降りており、目をつけられる心配はなかったので、優雅な時間をすごしていた。


 知り合いはいないが、桃里の存在は目立ちすぎており、バーの客からは注目を集め、周囲はやや浮き足だっているようだった。


「もう一杯ください」


 ただ、優雅というには少々やけ酒の傾向があった。

 つぎつぎと空けてしまうグラスに、バーテンは少々困り顔だが、仕方なく新しいグラスを持ってくる。


「こら、未成年───呑みすぎですよ」


 桃里が差し出されたグラスを取ろうとすると、脇から大きな手が延ばされ取り上げられてしまった。

 手に持ったグラスの中身を、ジュースを飲むようにたいらげてしまうと、その甘さに形の良い眉をしかめカウンターに置いてしまう。


 自分の分を飲まれてしまっても文句を言うことはなく、桃里は瞳をまるくした。


「あれ───伊織さん、今日は倶楽部したじゃないの?」

「加賀美に任せてきた········このホテルの情報、私が知らないとでも········」


 いいながら、伊織はカウンターの桃里の隣に座ると、いつものと言ってバーテンに注文し、桃里にはノンアルコールのものを頼んだ。

 加賀美というのは伊織の秘書でもあり、なんでもこなす男だ。


 悠が初めて倶楽部に来た時、案内したのもその男だった。


「·········いいじゃん、どうせあと半年くらいだし········今日はのみたい気分········失恋したしね·······」


 いつも強気な桃里の言葉にも、きょうは張りがなかった。

 やはり自分はおちこんでいたのかと再確認していると、伊織はあぁ、と頷いた。


「やっと······ですか」

「伊織さん知っていたの!」


「もともと、この世界に引きずりこんだのは私ですし········あの男とはそれなりに付き合いが長いですからね·······成就したのなら、周囲が平和になるというものです」


 その、フラストレーションに付き合わされたのは、いちどやにどではないことを、身をもって知っている伊織はやっと迷惑な行動から解放されることになる。


「仲がいいとは思ってはいたけど、友達なの?」


 その桃里の言葉に、心底いやそうな顔をした伊織は、苦笑しながら言った。


「友達というには、平和な関係ではないですが·······あぁ、鳥肌たちそうです······まぁ、合理的な友人関係ですね·········」


 一般的に学生時代からの付き合いというと、"友達"という定義にあてはまるのだが、自分と映人はそんな健康的なつきあいではない。

 どちらかというと、ただれた合理的なつきあいだった。


 肉体関係などはその最たるもので、お互いに恋愛感情などは全くなく、伊織としても映人に精神的に縛られたいとは、つゆほどなかった。


「·········と、なると·······倶楽部も、もう出演ることはないでしょうね───残念ですが」

「うそっ!! 辞めちゃうの?」

 

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