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自覚 8
しおりを挟む泣き濡れた眼は真っ赤になり、顔もほてっていたのですれ違う通行人にも不審な目を向けられた。
これでは電車にのって帰るのもまよってしまう。
なやんでいるあいだも背中のバイブレーションは振動しつづけていた。
太陽もおちかけている、夕暮れどきの空気は悠の心情を現しているようでもあった。
「悠!」
聞きなれた声に脚が止まる。
おそるおそる振り向くと、慌てて追いかけてきたことが説明しなくてもわかる映人の姿だった。
いつも完璧な姿の兄ではなく、髪をみだし、荒い息づかいと、ぬれた顔には汗がつたっていた。
ようやく見つけた弟の姿に安堵の息をつき、映人はゆっくりと近づいた。
左手にはスマホを握りしめており、走りながら何度も悠の携帯を鳴らしていたこともわかった。
「·········なんで?」
その問いは先ほど来ていた綺麗な少年がいるのに、なぜ自分を追いかけてきたのかという質問だった。
「あいつは帰った·······二度と来ない」
言いながら悠に近づくと、息をととのえ逆に質問する。
「ここには、来たことはなかっただろう───どうして?」
それは今日の行動すべてに対する問いだったし、あきらかに充血していた悠の目のふちを、映人は指でぬぐった。
兄の顔を直視することができず、悠はそっと目をふせると頭のなかで整理できていない自分の気持ちを説明しようとした。
「········ずっと、兄さんのこと考えていた······あんなこと·····されているのに、おれ怒れなかった······それどころか······」
映人は止まってしまった言葉の続きを辛抱強くまち、うなずく。
落ちつかせるように、やさしく頬をなで悠の気持ちをはきださせようとした。
「·······呼ばれることを待つように······なった······おれ、おかしくなったみたい······だって、兄弟だよ·····もう、どうしたらいいか·······わからない」
「悠、俺が······お前に手を出すことに、ためらいが無かったと思うか?」
伏せた目を見開き、悠は兄の顔をみるとそこには真剣な表情があった。
「お前が思っているより、ずっと前から、だ·······だから、家をでで疎遠にしてた······距離さえとればお前に乱暴しなくてもすむと思っていた·······だけど、お前が近くに来てからは········自分を抑えられなくなった」
映人は苦く笑い、なおも続けた。
「自分勝手と言われても仕方ない······それでも、お前だけがいい──愛してる」
その言葉に悠が、かたまったように動かなくなった。
今まで、意地悪な言葉や、脅しのような言葉しか映人からはもらっておらず、その決定的な言葉ははじめて聞いた。
目をみひらき、大きな瞳からぼろっと涙がこぼれ、震えながら口をひらいた。
「·········はじめて······だ──それ、いわれたの」
「········そう、か?」
映人自身自覚がなかったが、基本中の基本 "想いを伝える" ということを、きちんとしていなかった事を失念していた。
たしかに今までの行動は、ほぼ強制的で、ほとんどが強制でなりたっていた関係であることに·······。
桃里もそうであったが、映人もまた恋愛のすすめ方さえできていなかった。
「そうだよ······」
悠は今さらな告白に泣きながら笑い、目の前にいる映人に抱きついた。
そしてそのままの姿勢で、素直に自分の感情を告白する。
「愛、とか······ごめん·····まだわからない········でも、兄さんのことは昔から大好き·······だよ」
言葉の重さからいったらこの感情の正体は、"愛"なのであるかは正直にわからなかった。
それでも、映人のかたわらに立った綺麗な少年を目撃してしまったら、醜い感情が支配してしまったのは事実だった。
「───今はそれでいい」
「·······いいの?」
うなずいた映人を胸元で見上げると、あまり感情の出ない彼の表情が嬉しそうにほころんだ。
いつもの酷薄そうな笑みではなく、素直な表情だった。
そしてそんなふたりの様子を、複雑な感情で眺めていた少年は、映人の後方から歩いていた脚を一瞬とめ、すれちがいざまに声をかけていた。
「·······おふたりさん········それ以上は家に帰ってからにしてね」
夕方とはいえ、ときおり歩行者は通る。
映人を追いかけたつもりはなかった桃里だが、駅に行く道はこちらの方向だから仕方なかった。
なにも好きこのんで目撃したくはなかったが、遭遇してしまったら、そんな言葉をなげていた。
片手をあげ、ふたりの脇をとおり過ぎ、かるくウインクする。
そんなしぐささえ、桃里は絵になった。
「──あっ」
ぴったり映人にくっついいた悠は、反射的に映人から離れようとしたが、肩を抱かれ逃げることはかなわなかった。
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