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自覚 6

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 手渡されたのは、映人が好んで着ているブランドの紙袋だった。
 
「········じゃあ、これで」
 
 うつむいたまま身をひるがえし、エレベーターにひきかえそうとする。
 その背中に映人は声をかけた。

「悠、帰るな·······」

 桃里の存在など、もはや眼中になかったようだ。
 その視線は弟にしか向けられていない。

「······なに言ってるの? 恋人がいるのにおれが残ったら失礼だよ·······もう·····兄さんが解らない········」

 背中をむけたままそれだけ答えると、ふたたび歩きだそうとする。
 早くこの場から逃げ出したい気分だった。
 
 映人が他の少年と仲良くしているしている姿が、かなりこたえ悠の心のなかに深い傷をつけていた。
 
「こいつは、そういうものじゃない」

 玄関先で熱烈なキスをしていおて、どういう理屈だよと、おもった。
 映人がなんと言おうが、みたままが現実で········強引に抱かれ、この数週間はいたずらされ、躰をもてあそばれ、精神すら兄のことでいっぱいだった。

 それに今日きたのは、母親が来週にでも会社で渡してくれ、といっていたのを「ひまだから、今日いってくるよ」と、いって、無理やり出てきたのだ。
 それは言った悠自身が驚いてしまうくらいの、衝動的しょうどうてきな行動だった。

 映人が出張するまえに会議室にひきこまれ、頬にキスをおとされてから、くすぐったい気持ちを感じていた。
 退社前に映人のオフィスに行かなくてもよい、安堵すべきなのにこの三日間はほっとするどころか兄のことで頭がいっぱいだった。

 気が付がついたらあの指先と、甘い言葉や横暴ともいえる言葉を思い出していた。
 住んでいるところを知らなかったので、住所を聞きここまで来るのにどれだけ勇気が必要だったか、映人はしらない。

 恋人がいる片手間で、自分にいたずらをし、精神的にふりまわし、その後はどうするつもりだったのであろうか?
 のこのこ来てしまった自分が、ものすごくおろかに思えて、映人にたいして怒りさえもこみ上げてきた。

「───兄さんの、ばかっ! だいっきらい!」

 くるっと映人の方に向くと、うつむいたまま脈絡もなくそんな叫びがでた。
 そのことばに、目がまるくなった桃里は、ぷっとふきだしクスクスと笑いだした。

「───桃里」

 映人がとがめるように呼んだが、本人はごめん、ごめんと言い、笑われたと思った悠は顔を赤くしてエレベーターの方に行き、勢いよく乗り込んでしまった。

「なんか、かーわいい」

 悠の背中を視線で追っていた映人を見上げ、以外と不器用な彼にたいしてもそんな感想をもらしてしまう。
 もちろん、弟の反応も素直でかわいかったのだが、ばかと叫ばれた映人の表情はいままで桃里がみたことのない、とても複雑な顔だった。

 まるで高校生のカップルのような不器用さに、ほほえましさのようなものまで感じてしまっていた。

「········いいなぁ~ こういうの······」
「·······お前、面白がっているな······」

 桃里自身、このような感情をやりとりをする恋愛をしたことがない。
 今までも、ほとんどが肉体関係でしかつながっていないので、ふたりのやりとりをみていて、素直にうらやましいと思った。

 もちろん映人が特定の人をつくってしまうことは、今後このような関係はできなくなるとわかってはいたが、男は映人だけではない。
 倶楽部を休む前、ここ数ヵ月は、躰の関係は映人だけであったが、自分を目の前ににしてあからさまに否定されたら、"二番手"という立場に少々不満がでてしまっていた。
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