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自覚 2
しおりを挟む心配してくれている浜野には悪いが、まさか本当のことを言えるわけもない。
だから真実とほんの少しだけ嘘をおりまぜて、信憑性をもたせることにした。
「······先輩にはごまかせないなぁ·····そうなんですよ、最近つきあいはじめた·······年上の人なんですけど······おれ、遊ばれてるのかな?」
「まじかっ!?」
悠の言葉に浜野が驚愕のためか目を見開き、給湯室の入口から離れ、あせったように近くに寄ると、やつぎばやに訊いてきた。
「どこの女? 社内か? ───つか、いったいいくつの女と付き合いはじめたんだ? ───ああっ、純粋な永原が年上魔女のエジキにぃ~!」
「なんで、先輩が焦ってるんですか?」
「いいか、永原、女ってイキモノはたくましく·······したたかなんだ──だから何を言われても真に受けるなよ」
「········それって、先輩の経験ですか? ───豊富そうですね」
にっこり笑った悠に、浜野の言葉がつまる。
"夜の帝王"は、女性にふりまわされており浜野の場合それを楽しんでいるが、悠は違うだろう。
当然のように女性が前提での話だったが、悠はおとなしく浜野の言葉をだまって聞くようにし、話が脱線しそうだったので、浜野は年上の男としてのアドバイスをした。
「·······まあ、ようは自分の気持ちじゃね······相手じゃなく、永原自身がどう想うか、が大事だと思うけどな······いちど離れてみるのもいいけど、それでも相手のことが頭からはなれなかったら───ホンモノかなぁ」
さすが場数だけ踏んでいるだけあって、その言葉は悠の胸に突き刺さってしまった。
離れることなんて、できるのだろうか?
自分でじぶんの気持ちが解らなかった。
これ以上関係が進展しても自分達は兄弟で、幸せなさきなどあるのだろうか?
ほんの先週、映人に離さないと宣言されてばかりだった。
その時は恐怖を感じただけだったが········今は、すこしだけ違うような気がしていた·····。
浜野と恋愛相談? をした、数時間後だった。
映人が第二営業部に顔をだし、女性社員たちがざわついた。
自分のデスクでパソコンに向き合っていた悠は、いっしゅんどきりとしたが、気をとりなおし視線を画面上に向ける。
だが意識はどうしても映人の方に向いていた。
悠の背後をすどおりし、映人の視線はちらりと悠に向けられたが、部屋の奥に行き、第二営業部の上司である須藤の前に止まりなにごとか話はじめいた。
「良いオトコよねぇ·······永原部長」
周囲の女子社員が、コソコソとため息まじりにはなし始め、となりの女性が同意しながらうなずく。
「たしか30ちょいだっけ·······彼女いるのかしら」
「そりゃ、将来有望、高収入、イケメンだったらいるでしょ」
「でも、浮いた話ひとつも聞かないわよ」
「あのテのオトコは社内の女には、手をださないわよ───で、突然取引先のお嬢様と結婚しちゃったりするのよね~」
社内の女性ではないが、男に───しかも弟に手をだしています······と、悠はつっこみどころ満載だったが、女性達の会話を聞きながらひっそりと映人をぬすみ視ていた。
その噂の本人は書類を手に持ち、話ながら立ち上がった須藤の顔と書面を交互にみている。
須藤は書面にたいしてなにか指摘されたようで、赤くなったり、青くなったり忙しそうだった。
部長職でもある須藤は映人よりかなり年上だったが、第一営業部と第二営業部では、水面下の力関係があり立場的におなじでも少々ちがう。
そんなやり取りを遠くからみている悠は、ふと映人の指先に目が留まった。
爪が綺麗に整えられた指先で、骨張った掌はまさしく男の手だった。
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