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洗礼 2
しおりを挟む「兄さん····ここ違うんじゃ·····」
「······いや····ここでいい」
その時だけは····瑛人には珍しい、なにか迷いのある返事だったのは悠の気のせいだろうか?
二人は殺風景な廊下を通り、階段を降りる。
およそ二階分を降りた二人は、また簡素な廊下に出ると、構造の複雑な廊下を何度かまがり、ひとつのドアの前に行きついた。
一人もホテルの人間と出合わなかったのも不思議だが、その扉の前にだけ黒くて丸いカメラがあるようだった。
瑛人が天井にしかけられている監視カメラに顔を向けると、反対側からガチャリと解錠する音が響く。
開かれた扉の向こうは先程とは別世界だった。
「──すごいっ」
広い廊下には緋色の分厚い絨毯に、壁や天井にいたるまで間接証明で照されている洗練された造り。
上階の客室のある廊下がどうなっているかは不明だが、おそらく同等以上の造りだろう。
ただ悠にとって気になったのは、かなり照明がおとされている事による、暗すぎる空間だった。
グレードが高いホテルはこんなに暗いものかと·····。
二人を迎えた妙齢の黒服の男が、頭をいちど下げ前にすすみでた。
「永原様、お待ちしておりました。ただいまオーナーが参ります」
「──あぁ。加賀美、この子を席へ案内してくれ」
「かしこまりました──どうぞ、こちらへ」
加賀美と呼ばれた男は悠をうながし、兄と離された戸惑いもありながら後をついていった。
この場所に連れてきた瑛人は悠の視線に気づきながらも、わざと無視しているようで、一切視線を合わせてくれなかった。
加賀美はある部屋の前にいくと立ち止まり、仮面のようなものを悠にさしだした。
「これを入室する前におつけ下さい。周囲の方の顔もみるのも厳禁です。そして、一度始まりましたらお席を離れないで下さい。この約束を忘れずにお願いいたします」
「·····は·····い」
なにがなんだか解らなかった。
戸惑いながらも、すすめられるまま両眼をおおうような黒のベネチアン仮面を手渡され言われるがまま装着してしまった。
レースでできたその仮面は、相手を認識できないような造りで、悠の小さめの顔の半分を余裕でおおってしまう。
もし知り合いがいても判らないようなものだった。
入室すると広い空間には数十ほどの優美な長椅子が、距離を離して配置されており、客達は悠とおなじく、さまざまな仮面をつけていた。
客層は男性のほうが多いようだったが、一人で来ている者もおおかった。
男性は仕立ての良さそうなスーツかタキシード。
女性は少数ではあるがドレス姿が多い。
それはほとんどの客が富裕層であることを示しているようだった。
それぞれの客達は、仮面の横に棒がついている手持ち仮面や、羽がわきについているもの。仮面の下にベールのように口までおおっているものまであった。
ここまでして何が始まるのだろう·····。
いいしれない不安感が増した。
加賀美にうながされ一番前の席に案内されると、悠はしかたなくその場所に腰をおろす。
中央のステージのような場所にはおおきめの木の椅子がひとつ置かれているだけだった。
───そして信じられないものを観ている。
悠は乾いた喉をえんげして、硬直してしまった。
ひとりの黒服にささえられ、出て来た青年は裸体で、そのイスにM字開脚をさせられ固定される。
特殊なイスは通常よりかなり大きめのサイズで、ひじ掛け部分が、ぼこりと隆起しており、脚をひっかけてしまうと、簡単には外れない仕組みになっていた。
不自然にあげられた脚は奥の秘める場所さえもをさらす。
呼吸をすでにあげている青年は、うるんだ表情であとに出てきた男を見上げた。
「──ファントムだ····」
「初めからなんて──珍しい」
周囲がざわりとし、どこからか驚きの声があがった。
ファントムよ呼ばれた男は、スーツのジャケットを脱ぎ、白のシャツにベストと、スラックスという姿だ。
その彼は黒のファントム仮面をつけて棒のようなもので少年の蜜がこぼれる先端をくじいた。
「あっ! っ、あアッ!」
悠はそのスーツの色と、ネクタイにも見覚えがあった。
兄、瑛人が先程着ていたものだと気づいてしまうと、躰が震えた。
「な····ん·····で?····」
ここに連れて来たのは兄だった。
なぜこんなものをみせるのだろう?
その真意がわからず混乱した。
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