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シャーロット旋風 王都にて
パンの試食
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6日目である
「お嬢様、ギルバート様、パン屋のパウルが参りました。厨房に待たせております」
朝の練習を終えて、ハーブティーを飲んでいるとアダムが伝えにきた。
ギルバートと厨房に向かうと、パウルが、深々とお辞儀をする。
「シャーロットお嬢様、この度はお声をかけていただきありがとうございました。街の噂で、ケント様のご子息さまとお嬢様が実は生きておられて、ゲルトランの裁判で証言されたこと、前の子爵様がゲルトランに殺されたことを暴かれたことは聞いていたんです。ですが、よもや、兄のことを知ってらっしゃるなんて思いもよらなくて」
「トーマスが駆け落ちしたのは、私の侍女だったエマなの。そして、トーマスとエマは、私とここにいるギルバートの命の恩人なのよ。なので、その弟に手を差し伸べるのは当然のことだわ」
「パウル、ギルバートだ。トーマスには弟のように可愛がってもらったんだ。昔パウルの事はトーマスから聞いたことがある。とても心配していたんだ。」
「そんなに・・」
パウルは涙ぐんでいる。
「兄さんが駆け落ちしたことは関係ないです。前の子爵様は粉問屋を叱ってくださったしその後店もなんとかなっていたんです。ただ、ゲルトランの税金が重くて、いっそのこと王都に出た方が稼ぎがよくなるんじゃないか、俺や親父の腕前だったら王都でも人気店になれるかもなんて夢を見てしまったんです。でも、実際は、自分たちのパンの腕は、その辺のパン屋と変わらなくて。それでもギリギリなんとかなっていたんです。ところが親父が先月、怪我をしてしまって。それからどんどん売上が減ってしまって、この有様です」
「まあ、お父様が怪我をなさったなんて、心配ね。よければ、診察・・」
「姉上、父上から言われたことをお忘れですか?」
小声で諌められる。そうだった。しばらく治療師としては仕事をしないように言われているのだった。
「パウル、パンを持ってきてくれたんだろう。食べて良いかい?やっぱりトーマスのパンに似ているのかな?」
ギルバートが声をかける。
「は、はい、兄さんのパンには敵うかどうか。あの頃から兄さんのパンは美味かったですから」
料理長やアダムも一緒に食べてみる。
「・・・」
料理長もアダムも、
「うーん、可もなければ不可もなしって感じですな」
と唸っている。
ギルバートも
「うーん、トーマスと比べると美味しいとは言えないけど普通な感じかな・・・(トーマスの弟だし褒めてあげたいけどこれじゃあ・・・)」
「パウル、このパンの何が駄目かははっきりしているわよ」
シャーロットがはっきり言う
「「「!」」」
「お父様が怪我をしてからと言っていたでしょ。このパンはこね方が足りないのね。小麦粉は水と混ぜてこねるとグルテンという成分が作られるのだけど、しっかりこねないとグルテンが十分作られないの、そうするとふっくらしたパンにならないのよ。多分、力が足りないのだわ」
皆がパウルを見る。確かにヒョロッとして腕力はなさそうだ。
「そ、そうか、親父が怪我をして今までこねたりするのをやってくれていたのが自分でやるようになったからなのか」
ショックを受けている。
「お、お嬢様、パン作りにまで精通されているんですか・・」
アダムたちが驚いている。
「あら、エマとトーマスと私は一緒にいて、パン屋さんを手伝っていたこともあるのだから当然でしょ。」
いやいや、普通はそんなことはないですと心の中で二人は呟いている。
「パウル、やっぱりお父様のところに行きましょう。診察させてちょうだい。何かアドバイスができるかもしれないわ」
「姉上、よろしいのですか?」
「ギルバート様、旦那様からは、シャーロット様の好きなようにさせてやりなさいと言われております。お嬢様、よろしければ手配しますので、店まで行かれてはいかがでしょうか?」
「ありがとう。アダム。大丈夫よ、ギルバート、ちゃんと護衛兵を連れて行くからね。ちゃんと貴族の令嬢として節度を守って対応するから安心して。ギルバートは7日後には入学式でしょ。勉強していてね。」
ついて行きたい気持ちでいっぱいではあるが、これから家庭教師がやってくる。今更変更はできない。
「わかりました。姉上、くれぐれも、くれぐれも無茶はなさらないでください。そしてアーサー兄上に心配をかけるようなことはなさらないでくださいね」
ギルバートの懇願である。
「そんなに心配しなくっても大丈夫なのに」
いやいや、絶対わかっていないですよ。お、おかしい、王都に到着されてまだ6日なのに。それで、これだけ何かしら起こっているなんて、これから先大丈夫なんだろうか・・・心の中でアダムとギルバート、二人同じことを考えたのだった。
パンのことまでわかるなんて、○○ちゃんすごいね
というセリフが出てきそうです。
「お嬢様、ギルバート様、パン屋のパウルが参りました。厨房に待たせております」
朝の練習を終えて、ハーブティーを飲んでいるとアダムが伝えにきた。
ギルバートと厨房に向かうと、パウルが、深々とお辞儀をする。
「シャーロットお嬢様、この度はお声をかけていただきありがとうございました。街の噂で、ケント様のご子息さまとお嬢様が実は生きておられて、ゲルトランの裁判で証言されたこと、前の子爵様がゲルトランに殺されたことを暴かれたことは聞いていたんです。ですが、よもや、兄のことを知ってらっしゃるなんて思いもよらなくて」
「トーマスが駆け落ちしたのは、私の侍女だったエマなの。そして、トーマスとエマは、私とここにいるギルバートの命の恩人なのよ。なので、その弟に手を差し伸べるのは当然のことだわ」
「パウル、ギルバートだ。トーマスには弟のように可愛がってもらったんだ。昔パウルの事はトーマスから聞いたことがある。とても心配していたんだ。」
「そんなに・・」
パウルは涙ぐんでいる。
「兄さんが駆け落ちしたことは関係ないです。前の子爵様は粉問屋を叱ってくださったしその後店もなんとかなっていたんです。ただ、ゲルトランの税金が重くて、いっそのこと王都に出た方が稼ぎがよくなるんじゃないか、俺や親父の腕前だったら王都でも人気店になれるかもなんて夢を見てしまったんです。でも、実際は、自分たちのパンの腕は、その辺のパン屋と変わらなくて。それでもギリギリなんとかなっていたんです。ところが親父が先月、怪我をしてしまって。それからどんどん売上が減ってしまって、この有様です」
「まあ、お父様が怪我をなさったなんて、心配ね。よければ、診察・・」
「姉上、父上から言われたことをお忘れですか?」
小声で諌められる。そうだった。しばらく治療師としては仕事をしないように言われているのだった。
「パウル、パンを持ってきてくれたんだろう。食べて良いかい?やっぱりトーマスのパンに似ているのかな?」
ギルバートが声をかける。
「は、はい、兄さんのパンには敵うかどうか。あの頃から兄さんのパンは美味かったですから」
料理長やアダムも一緒に食べてみる。
「・・・」
料理長もアダムも、
「うーん、可もなければ不可もなしって感じですな」
と唸っている。
ギルバートも
「うーん、トーマスと比べると美味しいとは言えないけど普通な感じかな・・・(トーマスの弟だし褒めてあげたいけどこれじゃあ・・・)」
「パウル、このパンの何が駄目かははっきりしているわよ」
シャーロットがはっきり言う
「「「!」」」
「お父様が怪我をしてからと言っていたでしょ。このパンはこね方が足りないのね。小麦粉は水と混ぜてこねるとグルテンという成分が作られるのだけど、しっかりこねないとグルテンが十分作られないの、そうするとふっくらしたパンにならないのよ。多分、力が足りないのだわ」
皆がパウルを見る。確かにヒョロッとして腕力はなさそうだ。
「そ、そうか、親父が怪我をして今までこねたりするのをやってくれていたのが自分でやるようになったからなのか」
ショックを受けている。
「お、お嬢様、パン作りにまで精通されているんですか・・」
アダムたちが驚いている。
「あら、エマとトーマスと私は一緒にいて、パン屋さんを手伝っていたこともあるのだから当然でしょ。」
いやいや、普通はそんなことはないですと心の中で二人は呟いている。
「パウル、やっぱりお父様のところに行きましょう。診察させてちょうだい。何かアドバイスができるかもしれないわ」
「姉上、よろしいのですか?」
「ギルバート様、旦那様からは、シャーロット様の好きなようにさせてやりなさいと言われております。お嬢様、よろしければ手配しますので、店まで行かれてはいかがでしょうか?」
「ありがとう。アダム。大丈夫よ、ギルバート、ちゃんと護衛兵を連れて行くからね。ちゃんと貴族の令嬢として節度を守って対応するから安心して。ギルバートは7日後には入学式でしょ。勉強していてね。」
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ギルバートの懇願である。
「そんなに心配しなくっても大丈夫なのに」
いやいや、絶対わかっていないですよ。お、おかしい、王都に到着されてまだ6日なのに。それで、これだけ何かしら起こっているなんて、これから先大丈夫なんだろうか・・・心の中でアダムとギルバート、二人同じことを考えたのだった。
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というセリフが出てきそうです。
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