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シャーロット旋風 王都にて

乗馬と練習

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「姉上、アダムから、明日姉上が乗馬と剣術の訓練に参加されると伺いましたが本当ですか?」

心配そうに尋ねる。

「ええ、ギルバート、乗馬はあくまで訓練というより、体を動かしたいだけなの。このままでは運動不足ですから。さっき話したドレスの話の一環なの。剣術はギルバートの練習を見てみたいと思って。それに、もし自分にもできそうなら練習もしてみたい。この間、ペリエで海賊に襲われた時には怖かったわ。持っていたナイフで相手を刺してなんとか逃げ出せたけど、また同じようなことがあった時に自分でなんとかできればと思って。」

アリストとギルバートは真っ青である。

「え?姉上、ペリエで姉上は襲われたの?無事だって聞いていたのに。それで相手をナイフで刺したの?初めて聞いたけど?」

「あら?言ってなかった?海賊の男に拐われそうになって、男の腕を刺して逃げ出して、追いかけられているところをアーサーが助けてくれたの」

「言ってくれてないです。アーサー兄上もその辺りのことをご存じないのでは?」

「そうね。アーサーに助けられるより少し前だし。ベルグ先生が、ナイフを持っておくようにおっしゃってくださって良かったわ。そうでなければ、捕まえられて、船に乗せられていたかもしれない」

「シャーロット、軽く話しているが、非常に由々しき事態だったということだ。確かにあの頃のそなたは治療師で平民だったが、そうなっていたらと思うとゾッとする。しかも危険が多いのは今も変わらない。アーサー殿が常に護衛をつけてそなたを守るとはいっているが、確かに少し自分でもいざという時に逃げられるように護身術は身につけておいても良いだろう。アダム、手配してくれ。」

「御意。お嬢様、聞いていて驚きました。御身が御無事で良かったです。まずは、アーサー様にお願いしておきます」

うーん、今更だと思うんだけどと思いつつ、皆の深刻そうな顔を見てそれ以上は何も言えなくなったのであった。


翌朝である。
「おはよう、ギルバート」

「姉上、おはようございます。さっそくご一緒できて嬉しいです」

「シャーロット様、おはようございます。ギルバート様を指導させていただいております護衛騎士のクレイグです。今日は、シャーロット様がおいでになると伺っておりましたのでおとなしい馬を用意させていただいております。実は、ペリエのピーターとは従兄弟の関係になります。ペリエにすごい治療師が赴任したんだと帰省した時に聞いていたことがあります。シャーロット様がその時の治療師だと話を聞いて驚きました。ペリエで働いてくださってありがとうございました。」

「まあ、ピーター隊長の従兄なんて奇遇ですね。こちらこそよろしくお願いします。」


さっそく、騎乗して馬を歩かせる。そして、少しずつペースをあげて少し走らせる。久しぶりの乗馬だが体は覚えている。
「楽しいわ。この子が良い子だからかしら」
ギルバートも走らせている。

「上手でいらっしゃる。ギルバート様はたった1ヶ月でずいぶん上達されました。」

「ありがとう。そのうち、遠乗りにも行きたいわ。アーサーとも約束をしたけど、まず練習したいわね」

「わかりました。そのうち、お屋敷外での練習もいたしましょう」


乗馬の後は、剣の練習である。クレイグが木刀をギルバートに渡す。
「あの?最初に少し準備運動とかしないの?」

「え?準備運動?それはなんですか?」

「私は治療師だからよく、急に運動して肉離れを起こしたり転倒したりする人を病院で診ていたの。特に、兵士に多くて、ピーターに先に準備運動をして体をほぐしてから訓練をすることを提案したのよ」


「なるほど、どのようにするか教えていただけますか?」

公爵からどんなに奇異に思えてもシャーロットのいうことに従うように厳命されている。

頷いたシャーロットは、ギルバートに触りながら教える。
そう、ここにある腱を伸ばさないと切れる人がいるの。踵をつけてね。
ギルバートにはそもそも、腓骨神経麻痺で足が動かなくなった頃から、関節の訓練や筋肉を正しくストレッチする方法を教えている。
「これは面白い。護衛兵士たちにも指導するようにいたします」

クレイグはピーターが盛んにエミリー先生を褒めていたことを思い出す。

「ありがとう。少しでも怪我をする人が減ると嬉しいわ」と微笑む。

一緒に運動しようとすると、
「あ、姉上、姉上はお願いですから部屋で準備運動をしてからいらしてください。今日は見学でお願いします」

と断られる。
いや、準備運動は良いのだけど流石に貴族令嬢の姉上が人前ですることはまずいとギルバートは思う。

「そう?今日はもう先に部屋で準備運動をしてきているから大丈夫よ。」

ほっとしながらクレイグも
「では、木刀で練習を始めましょう。」
ギルバートに指導を始める。
「あの、その木刀、私も持って見ても良いかしら?」

「どうぞ、これはギルバート様用に少し本来より軽くしてあります」

手に持つ。確かに思ったより軽い。だが、竹刀よりは当然重い。そして日本の木刀とも形が違う。前世で、中学、高校と、体育で剣道を学ぶ時間があったのを思い出す。柔道と剣道からの選択で、自分は剣道を選んだ。柔道を学んでいたら、この世界でも護身術として使えたのかもと思う。この間、ペリエで襲われた時には足がすくんで怖かった。しかし今更そんなことを振り返ってもどうしようもない。

「ありがとう、重いのね。私も頑張らなくてはね」

「姉上、護身術は確かに覚えていただきたいですが、アーサー兄上に相談しています。きっと、一番良い方法を考えてくださるはずです」

クレイグもウンウンと頷いている。
侯爵様に好きにさせるように言われているものの、好きにさせて何かあったらアーサー副騎士団長に恨まれるに違いない。

「では今日は見学ということで・・・うわ、シャーロット様、何を」


「え?素振りだけど?運動しておかないと、いざという時逃げれないと思うの」

「はあ、わかりました。では、こちらの一番軽い木刀に変更を。ただ、肩を痛めてはいけないので、休憩しながらお願いします」

こうやって朝の訓練がなんとか終了した。

その後、シャーロットの薦めた準備運動をするようになり、護衛兵の肉離れのようなトラブルが減り護衛兵達から感謝されたのだった。
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