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番外編3
七日目 ボーヌ領
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いよいよ、明日の朝は早朝からボーヌの山越えである。今日は、ボーヌの領主の館に泊めてもらっている。ボーヌはケントの領地の隣のため、ボーヌ子爵は、ケント子爵のところに何度かきたこともありシャーロットとは面識もある。
「シャーロット嬢、なんてことだ、よく無事でいてくださった。ご両親も天国できっと喜んでくださっているに違いないよ」
「ボーヌ子爵様、ご無沙汰しております。またお会いできてとても嬉しいです。」
美しくカーテシーをする。
「たった1泊しか滞在しないのが残念だが、王都への移動を考えると仕方ない。今日は、ゆっくり休んでくれ。アーサー卿も先日の事件では大変お世話になりありがとうございました。卿の活躍がなければ、ボーヌは、王太子ご夫妻暗殺を許した不名誉な領となっていたかもしれない。本当に感謝いたします」
一緒に夕食をとる。ロバートの話やゲルトランが子爵をしていたときの時代の話などを聞く。
「結構、ケント領から領民がこちらに流れてきてね。なんせ、税金が異常だったからね。ただ、移住してきても仕事があるわけではない、どうしても安く使われる。私もできるだけ保護するようにはしていたが難しかったのだよ。結構、王都に出稼ぎに行っているものも多かったと思う。ギルバートが後を継げるのか、他の貴族が領地を運営するのか、まだ国の方針が発表されておらんが、これで、きっと流れて行った領民が少しずつケントに帰って行くだろう。私も手伝うから安心しなさい」
泣きたくなる気持ちを抑えつつ、
「ありがとうございます。ボーヌ様、ぜひこれからもよろしくお願いします」
とお願いする。
「お隣なんだから当然のことさ。本当は、シャーロット嬢、小さいときは、父上に我が息子の嫁にと頼んだんだよ。残念ながら、そちらのアーサー殿がとっくに予約済みだったがね」
と笑う。
嫡男も苦笑いをしながら
「確か、ロバート様が王都からご家族を連れて領地に戻ってこられてすぐに頼んだのですが、すでにアーサー殿から頼まれているからと断られたと、子供心に覚えていますよ」
「ふふふ、父とイーズス伯は私が生まれる前から約束していたらしいですから」
とシャーロットは答える。
いやいや、違うだろう、アーサー殿が結婚したいと言いはったという噂だぞと二人は思いながら平然と食事をしているアーサーを見たのだった。
その夜、シャーロットは寝付けない。明日、あのボーヌの山をこえてケントに入るのだと思うときっと山や河をみてあの日のことを思い出すんではないかと思って緊張する。
寝付けずに、バルコニーに出る。
「え?シャーロット?」
横を見ると隣の部屋のバルコニーにアーサーが立っていた。
シャーロットをみてアーサーは真っ赤になる。シャーロット、なんてことだ、ナイトドレスじゃないか、う、見てはいけない、いや、目の前に立っていて見ないなんてできないしと葛藤しつつ、凝視してしまっている。
唾をごっくんと飲み込んだ後
「ど、どうしたんだい?眠れないの?」
「そうなの、なんだか眠れなくて。明日、ボーヌの山と、その後ケントに入ると思うと、河や山を見るだろうなと思ったらなんだか緊張して。情けないわね」
両手で自分を抱きしめる。それを見て、カッとなったアーサーは、なんとバルコニーを飛び越えて、シャーロットの部屋のバルコニーにやってくる。
「あ、アーサー?」
シャーロットをぎゅっと抱きしめて、
「大丈夫、自分が一緒だから怖くない。明日は、ボーヌの山や河を通るときには、ずっと手を繋いでいよう。」
と話してくれる。
シャーロットは、少し緊張が解けていく気分になった。
そして笑顔で、
「ありがとう、アーサー、そうね、アーサーが一緒なんだもの、一人じゃないのだわ。」
「よかった。いつでも君を守るからね、ずっとそばにいるから」
とアーサーもほっとして微笑む。
じっとアーサーを見つめた後、シャーロットは自分から、背伸びをして、口づけをしたのだった。
「ありがとう、アーサー、気持ちがとても楽になったわ。大好きよ。では私はもう休むわね。おやすみなさい」
そうして、バルコニーから寝室に戻って行ったのだった。
しばらく、呆然と固まってしまって動けなくなったアーサーがボーヌの護衛兵に見つからないうちに、なんとか自分の部屋のバルコニーに戻ったのは幸いであった。しかし、その日も眠れなくなったアーサーであった。
「シャーロット嬢、なんてことだ、よく無事でいてくださった。ご両親も天国できっと喜んでくださっているに違いないよ」
「ボーヌ子爵様、ご無沙汰しております。またお会いできてとても嬉しいです。」
美しくカーテシーをする。
「たった1泊しか滞在しないのが残念だが、王都への移動を考えると仕方ない。今日は、ゆっくり休んでくれ。アーサー卿も先日の事件では大変お世話になりありがとうございました。卿の活躍がなければ、ボーヌは、王太子ご夫妻暗殺を許した不名誉な領となっていたかもしれない。本当に感謝いたします」
一緒に夕食をとる。ロバートの話やゲルトランが子爵をしていたときの時代の話などを聞く。
「結構、ケント領から領民がこちらに流れてきてね。なんせ、税金が異常だったからね。ただ、移住してきても仕事があるわけではない、どうしても安く使われる。私もできるだけ保護するようにはしていたが難しかったのだよ。結構、王都に出稼ぎに行っているものも多かったと思う。ギルバートが後を継げるのか、他の貴族が領地を運営するのか、まだ国の方針が発表されておらんが、これで、きっと流れて行った領民が少しずつケントに帰って行くだろう。私も手伝うから安心しなさい」
泣きたくなる気持ちを抑えつつ、
「ありがとうございます。ボーヌ様、ぜひこれからもよろしくお願いします」
とお願いする。
「お隣なんだから当然のことさ。本当は、シャーロット嬢、小さいときは、父上に我が息子の嫁にと頼んだんだよ。残念ながら、そちらのアーサー殿がとっくに予約済みだったがね」
と笑う。
嫡男も苦笑いをしながら
「確か、ロバート様が王都からご家族を連れて領地に戻ってこられてすぐに頼んだのですが、すでにアーサー殿から頼まれているからと断られたと、子供心に覚えていますよ」
「ふふふ、父とイーズス伯は私が生まれる前から約束していたらしいですから」
とシャーロットは答える。
いやいや、違うだろう、アーサー殿が結婚したいと言いはったという噂だぞと二人は思いながら平然と食事をしているアーサーを見たのだった。
その夜、シャーロットは寝付けない。明日、あのボーヌの山をこえてケントに入るのだと思うときっと山や河をみてあの日のことを思い出すんではないかと思って緊張する。
寝付けずに、バルコニーに出る。
「え?シャーロット?」
横を見ると隣の部屋のバルコニーにアーサーが立っていた。
シャーロットをみてアーサーは真っ赤になる。シャーロット、なんてことだ、ナイトドレスじゃないか、う、見てはいけない、いや、目の前に立っていて見ないなんてできないしと葛藤しつつ、凝視してしまっている。
唾をごっくんと飲み込んだ後
「ど、どうしたんだい?眠れないの?」
「そうなの、なんだか眠れなくて。明日、ボーヌの山と、その後ケントに入ると思うと、河や山を見るだろうなと思ったらなんだか緊張して。情けないわね」
両手で自分を抱きしめる。それを見て、カッとなったアーサーは、なんとバルコニーを飛び越えて、シャーロットの部屋のバルコニーにやってくる。
「あ、アーサー?」
シャーロットをぎゅっと抱きしめて、
「大丈夫、自分が一緒だから怖くない。明日は、ボーヌの山や河を通るときには、ずっと手を繋いでいよう。」
と話してくれる。
シャーロットは、少し緊張が解けていく気分になった。
そして笑顔で、
「ありがとう、アーサー、そうね、アーサーが一緒なんだもの、一人じゃないのだわ。」
「よかった。いつでも君を守るからね、ずっとそばにいるから」
とアーサーもほっとして微笑む。
じっとアーサーを見つめた後、シャーロットは自分から、背伸びをして、口づけをしたのだった。
「ありがとう、アーサー、気持ちがとても楽になったわ。大好きよ。では私はもう休むわね。おやすみなさい」
そうして、バルコニーから寝室に戻って行ったのだった。
しばらく、呆然と固まってしまって動けなくなったアーサーがボーヌの護衛兵に見つからないうちに、なんとか自分の部屋のバルコニーに戻ったのは幸いであった。しかし、その日も眠れなくなったアーサーであった。
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