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王都へ
忘れな草の思い出
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ふうっと息をつく。私は、美咲の記憶を取り戻してから、ギルバートと一緒に生きることを第一に考えていた。なんとかゲルトランの罪を暴きたいとも思っていた。
でも、時折、夜に眠るときや、ふと仕事の合間に思い出すのは、
「忘れるわけがない。来年、君が王都にやってきて婚約式をするのをとても楽しみにしているよ。君も私を忘れないで。」
「シャーロット、君のことが好きだ。大切にする。大人になったら結婚しよう」
忘れな草の花畑でのアーサーの、偽りのない真剣な表情と愛情あふれる言葉だったのだ。
そして、そのたびに、「私もあなたのことが好き」「忘れないで欲しい、でもあなたが忘れても、私はあなたのことを忘れないわ、アーサー幸せでいて」と心の中で、呟いていたのだ。
まだ子供だった10歳、でも、本当に小さい時からアーサーをずっと好きでいた。そして、その後もずっと彼のことを思い続けてきたのだ。
ずっと6年間、そうやって生きてきた。
そして、この間、ペリエで助けてもらった時にわかったのだ。自分は、大人になった今もアーサーを好きなんだと。そして、アーサーに、死んだと聞いても諦められずやはりずっと忘れられずにいたと言われて、とても嬉しかったのだ。
「トーマス、私は、アーサーを愛しています。この気持ちは6年前から変らないわ」
「そうね。そうだわ。私は、アーサーのことを愛している。でも、自分を卑下してアーサーから離れようとしていた。アーサーとも一緒にいたい、でもアーサーのお荷物になりたくない。そして、人を治療するという仕事からも離れたくない、そういう思いがあるのを自分で誤魔化していたのだわ。」
「ようやく、わかられたようですな。よかったです。」
「そうですよ。シャーロットさま。エマと俺は、どんな時でも一緒にいると駆け落ちしたんです。
お嬢様たちお二人も一緒です。伯爵とか治療師とかそんなことは関係ないはずだ。
お嬢様が、アーサーさまと一緒にいたいというお気持ちが一番優先されるべきなんだ。
エマと俺、経験者からのアドバイスですよ」
とニカっとトーマスが笑う。
エマ・・・エマの気持ちを考えると涙が出てくる。
「ありがとう。私もアーサーに愛していることを伝える。そして、もう一度、アーサーと一緒にどうしたら良いか考える。それまで、ここでアーサーを待つことにするわ」
「いやいや、シャーロット様、ペリエでなく、ゼオンに戻ってくだされ。このペリエの街の治療師は、老いぼれと言われるかも知れんが、わしともう一人侯爵が治療師を派遣してくださることになったからの。わしらに任せてゼオンで過ごしてくだされ。」
「そんなことはできないわ。それにここはまた危険になるかもしれないのよ。」
「だからこそじゃ。ペリエの街の人も、砦の兵たちとも話したのじゃ。やはりこの状況下で、女性のエミリーにここにいてもらうのは良くないとな。ここの出身の治療師ならいざ知らず、この間のようなことがあって、エミリーがさらわれるようなことがあってはと思うと、後悔しても後悔しきれんと。
これは、侯爵様も同意見じゃ。侯爵様からは、今やシャーロット様はゼオンのハーブ産業を国一番と言われるまでに拡大させた恩人である、恩人が殺されたり外国に連れていかれたりしてはならんと厳命されてきたんじゃ」
そんなと反発する自分とともに、前世だって、戦時の前線にはなかなか女性は行かないと思うとそうかもしれないという気持ちがせめぎ合う。
悩んでいると、休憩室にベルグ先生をはじめ何人もの町の人がやってくる。
「院長先生、それにみんな。」
「エミリー、この間はよく頑張ってくれた。だからこそ、もう君を危険な目にはあわせたくない。ここで頑張ろうという気持ちはわかるが、これからここは、もしかするとしばらく戦争の前線になる可能性もある。
街の女子供もできれば、避難させようかと話し合っているくらいなんだ。女性は、こういう時足手まといになる。君も前回実感しただろう。」
あの時、海賊に連れ去られそうになったことを思い出すと震えてくる。
「わかりました。おっしゃる通りにします。こんな時にごめんなさい。」
「何を言ってるんです。」「今までありがとう。」「寂しいけど元気でいてくださいよ」と声をかけられる。
「よし、じゃあ、早速準備をするんじゃぞ。」
ディランが動き始める。
「待って、ディラン、行く前に一つお願いがあります。」
でも、時折、夜に眠るときや、ふと仕事の合間に思い出すのは、
「忘れるわけがない。来年、君が王都にやってきて婚約式をするのをとても楽しみにしているよ。君も私を忘れないで。」
「シャーロット、君のことが好きだ。大切にする。大人になったら結婚しよう」
忘れな草の花畑でのアーサーの、偽りのない真剣な表情と愛情あふれる言葉だったのだ。
そして、そのたびに、「私もあなたのことが好き」「忘れないで欲しい、でもあなたが忘れても、私はあなたのことを忘れないわ、アーサー幸せでいて」と心の中で、呟いていたのだ。
まだ子供だった10歳、でも、本当に小さい時からアーサーをずっと好きでいた。そして、その後もずっと彼のことを思い続けてきたのだ。
ずっと6年間、そうやって生きてきた。
そして、この間、ペリエで助けてもらった時にわかったのだ。自分は、大人になった今もアーサーを好きなんだと。そして、アーサーに、死んだと聞いても諦められずやはりずっと忘れられずにいたと言われて、とても嬉しかったのだ。
「トーマス、私は、アーサーを愛しています。この気持ちは6年前から変らないわ」
「そうね。そうだわ。私は、アーサーのことを愛している。でも、自分を卑下してアーサーから離れようとしていた。アーサーとも一緒にいたい、でもアーサーのお荷物になりたくない。そして、人を治療するという仕事からも離れたくない、そういう思いがあるのを自分で誤魔化していたのだわ。」
「ようやく、わかられたようですな。よかったです。」
「そうですよ。シャーロットさま。エマと俺は、どんな時でも一緒にいると駆け落ちしたんです。
お嬢様たちお二人も一緒です。伯爵とか治療師とかそんなことは関係ないはずだ。
お嬢様が、アーサーさまと一緒にいたいというお気持ちが一番優先されるべきなんだ。
エマと俺、経験者からのアドバイスですよ」
とニカっとトーマスが笑う。
エマ・・・エマの気持ちを考えると涙が出てくる。
「ありがとう。私もアーサーに愛していることを伝える。そして、もう一度、アーサーと一緒にどうしたら良いか考える。それまで、ここでアーサーを待つことにするわ」
「いやいや、シャーロット様、ペリエでなく、ゼオンに戻ってくだされ。このペリエの街の治療師は、老いぼれと言われるかも知れんが、わしともう一人侯爵が治療師を派遣してくださることになったからの。わしらに任せてゼオンで過ごしてくだされ。」
「そんなことはできないわ。それにここはまた危険になるかもしれないのよ。」
「だからこそじゃ。ペリエの街の人も、砦の兵たちとも話したのじゃ。やはりこの状況下で、女性のエミリーにここにいてもらうのは良くないとな。ここの出身の治療師ならいざ知らず、この間のようなことがあって、エミリーがさらわれるようなことがあってはと思うと、後悔しても後悔しきれんと。
これは、侯爵様も同意見じゃ。侯爵様からは、今やシャーロット様はゼオンのハーブ産業を国一番と言われるまでに拡大させた恩人である、恩人が殺されたり外国に連れていかれたりしてはならんと厳命されてきたんじゃ」
そんなと反発する自分とともに、前世だって、戦時の前線にはなかなか女性は行かないと思うとそうかもしれないという気持ちがせめぎ合う。
悩んでいると、休憩室にベルグ先生をはじめ何人もの町の人がやってくる。
「院長先生、それにみんな。」
「エミリー、この間はよく頑張ってくれた。だからこそ、もう君を危険な目にはあわせたくない。ここで頑張ろうという気持ちはわかるが、これからここは、もしかするとしばらく戦争の前線になる可能性もある。
街の女子供もできれば、避難させようかと話し合っているくらいなんだ。女性は、こういう時足手まといになる。君も前回実感しただろう。」
あの時、海賊に連れ去られそうになったことを思い出すと震えてくる。
「わかりました。おっしゃる通りにします。こんな時にごめんなさい。」
「何を言ってるんです。」「今までありがとう。」「寂しいけど元気でいてくださいよ」と声をかけられる。
「よし、じゃあ、早速準備をするんじゃぞ。」
ディランが動き始める。
「待って、ディラン、行く前に一つお願いがあります。」
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