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シャーロット2
ゼオン侯爵家
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廊下で窓を磨いていたところで、
「ジル」
と声掛けられる。振り向くと、侯爵が立っていた。慌てて
「あ、旦那様」
と頭を下げる。お一人のようだ。
「そんなに恐縮しなくても良い。王都から新聞が届いていたら執務室に持ってくるようにしてくれ。」
「畏まりました。他に御用はございますか?何かお飲物をお持ちしましょうか?」
ほう?今日のような暑い日に外から帰ってきたばかりであることがわかっていて質問してきたな。
「そうだな。何か飲み物を用意してくれ。何を用意するかはお前に任せる。」
と、にやっと笑って、その場を去る。さあ、何を用意してくるかも楽しみだな。
ジルは、飲み物を任せてくださるなんて、凄いことだが何をお持ちしようと急ぎ、厨房に向かう。
「あの、旦那様に飲み物を持ってくるように言われました。」
「おう、ジル、でなんの飲み物だ?」コックが尋ねる。
「それが私に任せると。」
心配そうにジルが答える。
にやっとコックたちが笑う。テストだな。テストだ。ジル、試されてんな。
コックたちは、最近入ってきたジルが気に入っている。何事にも一生懸命で細かいことにも気がつく。足は少し悪いようだがほんの少しだ。
「じゃあ、ジルが決めなくてはな、どうする?」
「うーん、では、この間、お持ちしたレモンシロップに蜂蜜と塩、そして今日持参したミントの葉をください。 それと氷も」
姉の育てたミントに、姉がみなさんでどうぞと作ってくれたレモンシロップは厨房でも人気が高い。
侯爵家には氷室があり、夏でも氷を侯爵は使える。平民の自分には難しいが、昔ケント領でも小さな氷室があり夏、訓練の後には父上がご褒美と言って氷を食べさせてくれたこともあった。
平民のジルが氷まで求めたことにコックたちはびっくりしつつも用意してくれ、それを混ぜて前世でいうレモネードを作りミントの葉を少しマドラーの代わりのようにする。姉が、氷はないものの暑いときに作ってくれたレシピである。
グラスに注いで新聞とともに執務室にゆっくりと持って行く。
ノックすると侯爵が庭を見ながらくつろいていた。
「お待たせしました。レモネードです。」
ほうこれはまた、珍しいものを。平民のくせに氷も使おうと思ったとはなかなか。おや、少し甘いが塩も入っているような、ミントの清涼感も悪くないな。
「ふむ、うまい。」
「ありがとうございます。」
ジルはホッとする。
「ジル、お前はどこの出身なんだ?」
と尋ねられ、ぎくっとする。しかし、すでにトーマスの出身地は届けられており嘘はつけない。
「ケント領です。」
「ケント、あのケントか?」
と苦々しそうな顔を侯爵がする。ケントという名前の印象があまり良くないらしい。驚いて
「あの、そうです。えっと、申し訳ありません。」
と謝ると、
「お前が謝る必要はない。印象が悪くてな。気にしなくて良い。もう下がって良いぞ。」
下がった後、ケント領というだけで印象が悪いと言われて悲しい気持ちになった。ケント領が他領でそんなイメージが悪いところだったなんて知らなかった。父上は友達も多かったし、一度王都のタウンハウスに連れて言ってもらった時だって、劇場でもいろんな人と楽しそうにしていたのに。という思いもある。
せっかくレモネードを褒めてもらって嬉しかったのに一気に気分が落ち込んで厨房に戻って言った。
そんなジルの表情を見て、コックたちは「ダメだったか」「ダメだったんだな、結構良さそうに見えたんだがなぁ。」「それな。」
と目配せし合う。
「ありがとうございました。旦那様は喜んでくださりました。これも、皆様のお陰です。これからもよろしくご指導ください。」
とジルが頭を下げると、
あれ?どっちだ?と思いつつ、
「おう、よかったな。」「頑張れよ」と声を掛けてやる。はいと嬉しそうに笑ったジルを見てみんなホッとするのだった。
侯爵は、しまった、大人気ない表情をしてしまったと思っていた。先日、王都に赴いたときに、ケント子爵という人物をパーティーで遠目に見て大声で下品に喋っているのを見て気分が悪くなったのだ。本当に下賎な感じだったなと思いながらレモネードを飲む。
ふむ、うまい、これはまた飲みたいな、あとで、執事に褒めさせよう。
執務を始める。
我が地は、海にはやや近いが王都からはかなり離れている。何かここならではの産業を作ってもっとこの土地を富ませないとなと思う。
平民の学校まで作ったのは、教育レベルがある一定高くないと何か事業を始めようとしてもそれが足かせになると思ったからだ。海に近いこともあり、50年ほど前には他国からの戦争に巻き込まれたこともある。もう今はその恐れはなくなったが、いつ何が起きるかはわからない。
何を産業とするか….
少し街に視察に出るか。まずは市場や下々の生活を見ないとな。そうだ、ジルにも案内させるか。
コンコンとノックされる。執事のノアが入ってきた。
「旦那様、王都からのお手紙です。」
ため息をつきながら
「どうせ、姉上からの手紙だろう、毎回、毎回ご苦労なことだ。再婚しろ、再婚しろとうるさいからな。」
「旦那様。そうは言っても、このままでは侯爵家を継ぐ方がいらっしゃらなくなります。まだ旦那さまは29歳ではないですか。お姉さまのビクトリア様のお気持ちを考えると、ありがたいばかりです。」
と恨めしげにこちらを見る。
「グズグズ言うな….姉のところにも子供はいる。いざとなったら養子を迎えても構わん。わたしは、10年前に産褥で亡くなった妻と生まれてくるはずだった子供のことを考えるとも再婚したいとは思わないんだよ。」
「旦那さま……」
と再度恨めしそうにこちらをノアがみてくる。
「わかった、わかった。また考えるよ。そのうちにな。責付かないでくれ。」
黙ってお辞儀をしてノアは退室した。
「ジル」
と声掛けられる。振り向くと、侯爵が立っていた。慌てて
「あ、旦那様」
と頭を下げる。お一人のようだ。
「そんなに恐縮しなくても良い。王都から新聞が届いていたら執務室に持ってくるようにしてくれ。」
「畏まりました。他に御用はございますか?何かお飲物をお持ちしましょうか?」
ほう?今日のような暑い日に外から帰ってきたばかりであることがわかっていて質問してきたな。
「そうだな。何か飲み物を用意してくれ。何を用意するかはお前に任せる。」
と、にやっと笑って、その場を去る。さあ、何を用意してくるかも楽しみだな。
ジルは、飲み物を任せてくださるなんて、凄いことだが何をお持ちしようと急ぎ、厨房に向かう。
「あの、旦那様に飲み物を持ってくるように言われました。」
「おう、ジル、でなんの飲み物だ?」コックが尋ねる。
「それが私に任せると。」
心配そうにジルが答える。
にやっとコックたちが笑う。テストだな。テストだ。ジル、試されてんな。
コックたちは、最近入ってきたジルが気に入っている。何事にも一生懸命で細かいことにも気がつく。足は少し悪いようだがほんの少しだ。
「じゃあ、ジルが決めなくてはな、どうする?」
「うーん、では、この間、お持ちしたレモンシロップに蜂蜜と塩、そして今日持参したミントの葉をください。 それと氷も」
姉の育てたミントに、姉がみなさんでどうぞと作ってくれたレモンシロップは厨房でも人気が高い。
侯爵家には氷室があり、夏でも氷を侯爵は使える。平民の自分には難しいが、昔ケント領でも小さな氷室があり夏、訓練の後には父上がご褒美と言って氷を食べさせてくれたこともあった。
平民のジルが氷まで求めたことにコックたちはびっくりしつつも用意してくれ、それを混ぜて前世でいうレモネードを作りミントの葉を少しマドラーの代わりのようにする。姉が、氷はないものの暑いときに作ってくれたレシピである。
グラスに注いで新聞とともに執務室にゆっくりと持って行く。
ノックすると侯爵が庭を見ながらくつろいていた。
「お待たせしました。レモネードです。」
ほうこれはまた、珍しいものを。平民のくせに氷も使おうと思ったとはなかなか。おや、少し甘いが塩も入っているような、ミントの清涼感も悪くないな。
「ふむ、うまい。」
「ありがとうございます。」
ジルはホッとする。
「ジル、お前はどこの出身なんだ?」
と尋ねられ、ぎくっとする。しかし、すでにトーマスの出身地は届けられており嘘はつけない。
「ケント領です。」
「ケント、あのケントか?」
と苦々しそうな顔を侯爵がする。ケントという名前の印象があまり良くないらしい。驚いて
「あの、そうです。えっと、申し訳ありません。」
と謝ると、
「お前が謝る必要はない。印象が悪くてな。気にしなくて良い。もう下がって良いぞ。」
下がった後、ケント領というだけで印象が悪いと言われて悲しい気持ちになった。ケント領が他領でそんなイメージが悪いところだったなんて知らなかった。父上は友達も多かったし、一度王都のタウンハウスに連れて言ってもらった時だって、劇場でもいろんな人と楽しそうにしていたのに。という思いもある。
せっかくレモネードを褒めてもらって嬉しかったのに一気に気分が落ち込んで厨房に戻って言った。
そんなジルの表情を見て、コックたちは「ダメだったか」「ダメだったんだな、結構良さそうに見えたんだがなぁ。」「それな。」
と目配せし合う。
「ありがとうございました。旦那様は喜んでくださりました。これも、皆様のお陰です。これからもよろしくご指導ください。」
とジルが頭を下げると、
あれ?どっちだ?と思いつつ、
「おう、よかったな。」「頑張れよ」と声を掛けてやる。はいと嬉しそうに笑ったジルを見てみんなホッとするのだった。
侯爵は、しまった、大人気ない表情をしてしまったと思っていた。先日、王都に赴いたときに、ケント子爵という人物をパーティーで遠目に見て大声で下品に喋っているのを見て気分が悪くなったのだ。本当に下賎な感じだったなと思いながらレモネードを飲む。
ふむ、うまい、これはまた飲みたいな、あとで、執事に褒めさせよう。
執務を始める。
我が地は、海にはやや近いが王都からはかなり離れている。何かここならではの産業を作ってもっとこの土地を富ませないとなと思う。
平民の学校まで作ったのは、教育レベルがある一定高くないと何か事業を始めようとしてもそれが足かせになると思ったからだ。海に近いこともあり、50年ほど前には他国からの戦争に巻き込まれたこともある。もう今はその恐れはなくなったが、いつ何が起きるかはわからない。
何を産業とするか….
少し街に視察に出るか。まずは市場や下々の生活を見ないとな。そうだ、ジルにも案内させるか。
コンコンとノックされる。執事のノアが入ってきた。
「旦那様、王都からのお手紙です。」
ため息をつきながら
「どうせ、姉上からの手紙だろう、毎回、毎回ご苦労なことだ。再婚しろ、再婚しろとうるさいからな。」
「旦那様。そうは言っても、このままでは侯爵家を継ぐ方がいらっしゃらなくなります。まだ旦那さまは29歳ではないですか。お姉さまのビクトリア様のお気持ちを考えると、ありがたいばかりです。」
と恨めしげにこちらを見る。
「グズグズ言うな….姉のところにも子供はいる。いざとなったら養子を迎えても構わん。わたしは、10年前に産褥で亡くなった妻と生まれてくるはずだった子供のことを考えるとも再婚したいとは思わないんだよ。」
「旦那さま……」
と再度恨めしそうにこちらをノアがみてくる。
「わかった、わかった。また考えるよ。そのうちにな。責付かないでくれ。」
黙ってお辞儀をしてノアは退室した。
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