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シャーロット1
自分の訃報とエミリー
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促されて二人はギルドへと向かう。
シャーロットは、「ディラン先生」と声をかける。
「ディランで結構ですじゃ。」
「ディラン、裏庭のハーブが随分枯れかけているようです。私がお世話してきても良いですか?館でもお世話しておりましたから。」
「おう、そうしてくださるなら有難い。」
ディランの庭はさすが治療師だけあって、多数のハーブが植えられていた。
世話は十分できていないようで、枯れかけているものや変色しているもの、雑草と混在しているものも多い。
その一つ一つを丁寧に扱い、枯れかけているが、まだ使えるものは摘み、乾燥に回す。
そうこうしている間に夕方になってきて、エマとトーマスが帰ってきた。
「おかえり。どうじゃった。」
「はい、うまく行きました。ちょうど、今度腰痛で廃業するつもりだった人がいるらしくて、そこの跡をつかせてもらえることになりました。その代わり、しばらくその人にお金は払わないといけないですけどね。」
「いやいや、それが一番円満に行く方法じゃ。ギルドに睨まれると大変じゃからな。」
「そうですね。それと、シャーロット様、これを。」
「これは」
「ギルドなどに配られる王都新聞です。借りてきました。俺は字はほとんど読めないんですが、ケントは解ったから爺様のために借りたいと言って借りてきました」
まだ文字を十分理解できないギルバートのためにも声を出して読む。
「ケント子爵一家全員死亡。土砂崩れで。雨の中。6月20日、王都に向かう途中で土砂崩れが起こり、巻き込まれた12名が死亡。子息と令嬢の遺体は見つからなかったが、現場の状況から川に流されたと判断され、死亡と判断されたため、計14名の死亡事故となった。葬儀は、7月14日に行われる。なお、今後子爵領は、子爵の甥にあたるゲルトラン男爵令息が後継となると思われる。
なお、子爵令嬢は、イーズス伯のご嫡男の婚約者であったことから、改めてイーズス伯爵の婚約者が選ばれる予定。」
「お父様、お母様」
と涙が出てくる。
「なんてひどい。ねえ、今からもう一度王都に行ってアーサー様にお会いしましょう。お嬢様たちは生きていますって。」
「おいおい、ここまで来るのにどれだけ大変だったか。しかももう路銀は尽きているんだぞ。」
「エマ、ありがとう。トーマスの言う通りだわ。まずは、エマたちは、ここでも生活を固めて。私も働きます。それで、王都までの路銀を貯めましょう。こんな身なりでは誰も相手にもしてくれないわ。そうしたら、ギルバートとともに王都の裁判所に訴えに行くわ。」
「お嬢様。申し訳ありません。私たちが貧乏なばかりに。」
「しかし、お嬢様、何のお仕事をなさるんですか?」
「そうね、刺繍の仕事はできるし、ハーブやお花を育てるのも得意だわ。字も書けるし、代筆業だってできると思う。計算だって得意だからお店のお手伝いだって可能ね。」
(本当は、医業が一番とくいな気がするけど、資格もないしね。)
「なるほど。では、お嬢様、とりあえず、我が家のハーブを育てていただけますか?内職で刺繍や代筆業をするのが良いかもしれませんな。代筆業はかなり需要があると思いますぞ。」
「ありがとう。ディランさん。」
「姉様、姉様が働くなんて。でも、それなら僕だって働きます。荷物運びだってなんだって。」
「だめよ。ギルバート、あなたの足を痛めてしまっては大変。できればあなたは学校に行って欲しい。本来であれば9月からあなたは王立学院に通うはずだった。いつか子爵に戻ったときに何も知らないようでは、他の貴族からバカにされるわ。」
「ギルバート様。この領の侯爵様は、ちょっと変ったところがある人じゃが、教育には熱心での。
平民のための学校や治療師になるための学校もある。そこで成績がよければ館に呼んでくれたり仕事を与えてくれたりもする。まずは、そこで力をつけてはどうかの? しかも、図書館があるのでお金を払えば、そこで本を読むことも可能なんじゃ」
「まあ、平民のための学校なんて、素晴らしいわ。よかった。姉さまも全部を教えてあげることはできないのですもの。ぜひそうすると良いわ。」
ギルバートはため息をつきながら、
「わかりました。わたしも、ここからはこの足ではアーサー兄上のように軍で仕事をすることはありえない。勉強して文官としていつか働けるように頑張ります。」
シャーロットはギルバートを抱きしめながら、
「その意気よ。一緒に頑張りましょう。」
と微笑む。
「しかし、髪は染めるとしても、男の子としてはいつまでもは通らないぞ。シャーロットという名前はよくないのう。目立ちすぎる。 」
「そうですね。では、平民の女の子で通して行きます。そうだ、エミリーという名はどうでしょう。私のセカンドネームがミリアなのでちょっと似ていて親近感があります。」
「そうじゃな、あとは、そうだ。治療費の代わりにもらった伊達眼鏡がどこかに。」
「おお、これじゃ。」
「まあ!確かにメガネをすると全然別人です。これにソバカスをつけるとそのあたりにいる平民の女の子に見えます。」
「決まりね。ではまずはお引っ越しからね。私とギルバートはおじいさんのところでしばらく住まわせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、しばらくは構わんが、ずっとはだめじゃ。若い女の子がいるとなると不用心じゃからな。パン屋の方が落ち着いたらそちらに部屋を作ってもらうんじゃぞ。」
「そうだな、引越しの間はバタバタ、いろんな人が出入りして帰ってパン屋も危ないと思う。しばらくはここで過ごしてください。気をつけてくださいよ。」
「わかったわ。気をつけます。」
「では、今日から、エミリーとジル、よろしくな。」
シャーロットは、「ディラン先生」と声をかける。
「ディランで結構ですじゃ。」
「ディラン、裏庭のハーブが随分枯れかけているようです。私がお世話してきても良いですか?館でもお世話しておりましたから。」
「おう、そうしてくださるなら有難い。」
ディランの庭はさすが治療師だけあって、多数のハーブが植えられていた。
世話は十分できていないようで、枯れかけているものや変色しているもの、雑草と混在しているものも多い。
その一つ一つを丁寧に扱い、枯れかけているが、まだ使えるものは摘み、乾燥に回す。
そうこうしている間に夕方になってきて、エマとトーマスが帰ってきた。
「おかえり。どうじゃった。」
「はい、うまく行きました。ちょうど、今度腰痛で廃業するつもりだった人がいるらしくて、そこの跡をつかせてもらえることになりました。その代わり、しばらくその人にお金は払わないといけないですけどね。」
「いやいや、それが一番円満に行く方法じゃ。ギルドに睨まれると大変じゃからな。」
「そうですね。それと、シャーロット様、これを。」
「これは」
「ギルドなどに配られる王都新聞です。借りてきました。俺は字はほとんど読めないんですが、ケントは解ったから爺様のために借りたいと言って借りてきました」
まだ文字を十分理解できないギルバートのためにも声を出して読む。
「ケント子爵一家全員死亡。土砂崩れで。雨の中。6月20日、王都に向かう途中で土砂崩れが起こり、巻き込まれた12名が死亡。子息と令嬢の遺体は見つからなかったが、現場の状況から川に流されたと判断され、死亡と判断されたため、計14名の死亡事故となった。葬儀は、7月14日に行われる。なお、今後子爵領は、子爵の甥にあたるゲルトラン男爵令息が後継となると思われる。
なお、子爵令嬢は、イーズス伯のご嫡男の婚約者であったことから、改めてイーズス伯爵の婚約者が選ばれる予定。」
「お父様、お母様」
と涙が出てくる。
「なんてひどい。ねえ、今からもう一度王都に行ってアーサー様にお会いしましょう。お嬢様たちは生きていますって。」
「おいおい、ここまで来るのにどれだけ大変だったか。しかももう路銀は尽きているんだぞ。」
「エマ、ありがとう。トーマスの言う通りだわ。まずは、エマたちは、ここでも生活を固めて。私も働きます。それで、王都までの路銀を貯めましょう。こんな身なりでは誰も相手にもしてくれないわ。そうしたら、ギルバートとともに王都の裁判所に訴えに行くわ。」
「お嬢様。申し訳ありません。私たちが貧乏なばかりに。」
「しかし、お嬢様、何のお仕事をなさるんですか?」
「そうね、刺繍の仕事はできるし、ハーブやお花を育てるのも得意だわ。字も書けるし、代筆業だってできると思う。計算だって得意だからお店のお手伝いだって可能ね。」
(本当は、医業が一番とくいな気がするけど、資格もないしね。)
「なるほど。では、お嬢様、とりあえず、我が家のハーブを育てていただけますか?内職で刺繍や代筆業をするのが良いかもしれませんな。代筆業はかなり需要があると思いますぞ。」
「ありがとう。ディランさん。」
「姉様、姉様が働くなんて。でも、それなら僕だって働きます。荷物運びだってなんだって。」
「だめよ。ギルバート、あなたの足を痛めてしまっては大変。できればあなたは学校に行って欲しい。本来であれば9月からあなたは王立学院に通うはずだった。いつか子爵に戻ったときに何も知らないようでは、他の貴族からバカにされるわ。」
「ギルバート様。この領の侯爵様は、ちょっと変ったところがある人じゃが、教育には熱心での。
平民のための学校や治療師になるための学校もある。そこで成績がよければ館に呼んでくれたり仕事を与えてくれたりもする。まずは、そこで力をつけてはどうかの? しかも、図書館があるのでお金を払えば、そこで本を読むことも可能なんじゃ」
「まあ、平民のための学校なんて、素晴らしいわ。よかった。姉さまも全部を教えてあげることはできないのですもの。ぜひそうすると良いわ。」
ギルバートはため息をつきながら、
「わかりました。わたしも、ここからはこの足ではアーサー兄上のように軍で仕事をすることはありえない。勉強して文官としていつか働けるように頑張ります。」
シャーロットはギルバートを抱きしめながら、
「その意気よ。一緒に頑張りましょう。」
と微笑む。
「しかし、髪は染めるとしても、男の子としてはいつまでもは通らないぞ。シャーロットという名前はよくないのう。目立ちすぎる。 」
「そうですね。では、平民の女の子で通して行きます。そうだ、エミリーという名はどうでしょう。私のセカンドネームがミリアなのでちょっと似ていて親近感があります。」
「そうじゃな、あとは、そうだ。治療費の代わりにもらった伊達眼鏡がどこかに。」
「おお、これじゃ。」
「まあ!確かにメガネをすると全然別人です。これにソバカスをつけるとそのあたりにいる平民の女の子に見えます。」
「決まりね。ではまずはお引っ越しからね。私とギルバートはおじいさんのところでしばらく住まわせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、しばらくは構わんが、ずっとはだめじゃ。若い女の子がいるとなると不用心じゃからな。パン屋の方が落ち着いたらそちらに部屋を作ってもらうんじゃぞ。」
「そうだな、引越しの間はバタバタ、いろんな人が出入りして帰ってパン屋も危ないと思う。しばらくはここで過ごしてください。気をつけてくださいよ。」
「わかったわ。気をつけます。」
「では、今日から、エミリーとジル、よろしくな。」
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