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シャーロット1

河へ

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雨はまだ小雨だが、随分雲のせいで暗くなってしまったと子爵が思っている時、地響きのような音がした。なんだと思った瞬間に崖から土砂が崩れてきてそのまま子爵は意識を失い亡くなったのだった。

突然のズシンという音とともに馬車が揺れたと思ったら馬車が二転三転した。その時にドアがはずみで空いてしまいリリアがドアから跳ねるように飛び出てしまう。

「きゃあ」
「なんだ」
「土砂崩れだ」
「逃げろ!」

シャーロットも頭を何度もぶつけてしまい意識を失いそうになった時、何、これ?これは私?別人?

それは、近藤美咲としての記憶だった。東華大学医学部の6年生、あとは国家試験を受けるのみで卒業試験にも合格し試験前に勉強をして寝不足になりながら過ごしていたとき。一人で下宿先でインフルエンザにかかってしまい解熱剤を飲んで家でなんとか頑張っていたはず。もしかして、こじらせて死んでしまったの?私。え?今、どこ。

確か私はシャーロットで婚約者のアーサーがいて、お父さま、お母様、ギルバートがいて。

記憶がどんどん混同しつつつも混乱する。

色々なところをぶつけていたい。
でも動かないと。土砂崩れならまた崩れてきたら困る。

ギルバートを揺り起こそうとした時に声が聞こえる。

助かったと思って声を出そうとした時、

「思った以上に上手くいったな。こんなに簡単に土砂崩れが起きるとは思わなかったよ。」

「本当は、盗賊に見せかけて襲うつもりだったのにな。さあ、その倒れて動こうともがいている奴らにトドメをさせ。ナイフは使うなよ。石で殴る口をふさぐなりしてなりして死なせろよ。」

「うわー」と言う声や「うっ」と言う声が聞こえてくる。


「馬車はまだ残っているぞ。中を確認しろよ。暗くならないうちに始末しねえと。雨で松明をつけても意味もねーからな。注意しろよ。」

ザーザーという声とともに遠くの方からズルズルといった足音が聞こえてくる。

このままでは殺される。

ギルバートの頰を叩く。「姉様?」
「しっ、走るわよ。」

反対側のドアを開けてギルバートを連れて飛び降りる。シャーロットなら絶対できないことだ。しかし、美咲なら平気なこと。急ぎ走って行く。

そして草むらにまずは隠れる。

「姉様いたくて足が思ったように動かない。走れないよ」


パニエでギプスを作っている間に男たちは馬車に近づいてくる。

「おい、中には女が一人だけで子供なんかいないぞ。ちっ、反対側のドアも開いてやがる。どこかに転げ落ちたんじゃないか?」


どうも聞き覚えのある声が、
「まずい、さっさと探すんだ。特に男の子の方は必ず殺せ。生かすと厄介だ」

と叫んでいる。

あの声はゲルトラン。いつもなんだか気持ちが悪いと思っていた。特に従兄弟の ヘンドリックはこちらを舐めるように見てきて気持ち悪いと思っていた。

急がないと。

「さあ、できた。ギルバート、走るわよ。」
走り出す。


「あ、見つけたぞ!隠れてやがった。」

「待て、待て。」

「くそ。滑りやがる。」

こちらは、裸足だが、あちらは革靴、かえって滑りやすいに違いない、足は痛いが気にしている時ではない。山道を下り落ちるように降ったが、そこは、崖だった。

ゲルトランがやってくる。後ろは轟々とした河。雨も降ってきておりかなり水量は多い。










この男たち、私たちを子供だと思って舐めている。美咲は決意した。

シャーロットにできないことでも私にはできる。

きっと私は泳げる。ギルバートを抱えながらなんとかなるかもしれない。

着衣水泳は何度も練習している。美咲はもともと島で育っており水泳が得意でレスキューの研修を受けたこともある。


「ギルバート、お姉さまに全てを委ねて。良いわね。ケント嫡男として誇りを持って」

ギルバートがうなずく。

ギルバートを連れて、走る、男たちが「おい、嘘だろっ」ということを後ろに聞きつつ、
ギルバートを抱きしめて崖から河に飛び込んだのだった。
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