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曖昧な温度に惑う
しおりを挟む「うふふふ、相変わらず仲がいいわね」
「うるさい!」
飾らず艶やかに笑う彼女の前でノエインが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
あら、珍しいわね!
「ノエったらぁ! あはははっ! もぅ可笑しすぎるぁ~!」
ついに彼女の笑いのダムは決壊したようです。
ますます眉間の皺が増えるノエイン。
米神がピキピキしてますね。
少しマズイかも……眉間の皺を伸ばそうと指で撫でると、その指を捕まれ、彼の口許に運ばれキスされてしまった。
彼の私を見る表情は甘いーーますますリジーに笑われてしまいますね。
「もぅダメぇ~!」
やっぱり……リジーがヒイヒイと苦しそうにお腹を抱えています。
「まさかこんなあからさまな態度を取るなんて思ってもみなかったわ」
「希望が叶ったんなら、帰れ!」
「ノエイン、煽ってはダメじゃないですか! リジーが笑いすぎて涙目になっていますよ。それにノエインのお顔が残念な状態ですし……」
「……………………」
そうでしょう、そうでしょう、言い返せませんよね?
「あの、ノエがねぇ……」
「ノエって呼ぶな。俺はノエインだーー!」
リジーには反発できるんですね。
「私もノエと呼びたいですわ」
と、あざとく下から見上げてうるうるしてみます。
上手くいくかしら?
「ウッ!!」
なんか唸ってますね。
「リ、リアにはノエじゃなくてノインと呼んで欲しい……」
ノエイン改めてノインが縋るような視線を向けてきます。
はい、ノインと絶対に呼んで欲しいんですね。
本当に……まぁ以前に比べたら、かなり素直にはなってきましたが、長年の教育の賜物でしょうか?
どんな教育? だなんて突っ込みしないで下さいませね。
笑いがやっと収まったのか、リジーが優雅に紅茶のカップに口を付ける。
「ああ、お茶が美味しいわ」
「ふん!」
ノインはまだ機嫌が戻っていないせいか、粋がっています。
ここはいつものお気に入りのテラスです。
私とノイン、そしてノインの姉リジーとで湖を見下ろしながらお茶会をしています。
リジーがノインの膝に座る私を見てから、またノインに視線を戻す。
「普段、無愛想なノエノエがデレる様を見たくて押し掛けちゃったけど、あっさり見せつけられて……ツマンナイ」
「散々笑って感想はソレか!!」
ピキピキが上回ってバキバキになってしまったようですね、ノインは……どうどう。
「それにノエノエと言うなーー!」
「くくくっ、弟をからかうのは面白いわぁ! 止められないわね」
ノイン……完全にリジーの手のひらの上で遊ばれてますわね。
御愁傷様です。
「それで? 単にノイン遊びだけで来たわけじゃありませんよね?」
「そうそう、勿論それだけじゃないわよ」
私もお茶をひとくちいただきましょう。
「俺たちの邪魔だな」
ノインたら……リジーの仕打ちによほど腹に据えかねたようですわね。
「それもあるけどこの国の王族の動向が変だから確認も兼ねて来たのよ」
やっぱり本音はそっちですよね?
「別にどうにもならんだろう。今までと同じだ。王家は盟約を忘れ、我らの存在を言い伝え、存在しないものとしている」
申し訳無いと思います。
人と精霊の時間の長さが違いすぎるせいで盟約が時の彼方に埋もれてしまっています。
私はこうして精霊であるお二人や私のお世話をしてくれる彼らを知っていますから、真実であることとわかっていますけど。
何も知らない人から思えばお伽噺の世界にだけ存在するものの認識になりますわね。
「リア、お前が悔やむことはない。ましてやお前のせいではない。最初からいずれこうなるだろうとは思っていた」
ノインは私を優しく抱き締めてくれる。
「そうね。分かってたけど、その時は精霊も人が好きだったから力になってあげたかった。で、信じたい気持ちもあった……しかし」
けじめをつけるためか、リジーが砕けた様子から態度を改める。
「王宮をこっそり覗きに行ったら、あいつら何を企んでたと思う?」
「ええ、わかってますわ。セレスティアのお披露目に何かが起こる……ですよね?」
「そうよ~、私たちの大切なセレスティアの日をアイツらは泥を塗る真似を計画してるのよ~。 許せるわけないわ!!」
リジーはその妖艶に微笑むが目は笑っていませんね。
ノインも同様の微笑みがをしています。
全く瓜二つ、さすが姉弟ですわね!
「予想通り過ぎてこちらもツマンナイ」
少し何かを期待していたのですが、この反応ですかーー。
「姉上よ、ただツマラナイだけじゃないよな?」
「勿論よ~、ノエノエ。わかってるじゃん!」
二人とも、微笑みが怖すぎて寒いんですけど……
そこへ聖獣たちが呼ばれたかのように現れました。
グリフォンがリジーに、フェンリルが私にお菓子をねだります。
今日のお菓子も私特製自慢の逸品ですわ。
ノインは湖に現れた怪獣のように大きなクリスタルドラゴンにねだられてます。
ドラゴンは大きさを自由自在に変化することは出来ないのかしら?
どちらにしろ精霊と聖獣と人との穏やかなひとときですわね♪
そんな穏やかな時間をぶち壊すように、バタバタと侍女二人が慌てて駆け込んできました。
「お、お嬢様っ!」
「どうしましたか?」
「お、王太子殿下が、お、お見えになられました!」
大変珍しいですね。
今まで数えたこともないくらい来たことないのに!
彼とは幼馴染みでして、幼い頃はよく遊びに来たものです。
ですが、大きくなるにつれて愚かになり、全く来なくなりました!
今では『来るな!』と思うほどです。
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