婚約破棄された公爵令嬢は夜の王に拐われる

梨花

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ほんの一時の平和

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目覚めると朝になっていた。

ベッドに入った記憶が無いーー寝ぼけた頭が突然クリアになる。

昨日ノエインとお茶会をしていて、その後で彼に濃厚な口付けを延々とされて遂に記憶が飛んだ!

そこまで思い出した私は見悶えて布団の中に潜り込んでしまった。

ノエインのむっつりスケベ!!

どうせ聞こえないだろう相手に叫ぶ。

普段、無表情の癖にあんな時だけ積極的に攻めてくるのよー。

その反面、彼に求められているんだと思うと嬉しくなる。

うん、女心は複雑ね~

余所事のように現実逃避してみる。





ベッドを出るとグッドタイミングで侍女二人がノックして部屋に入ってくる。

「おはようございます。お嬢様にお手紙が届いておりますよ」

「朝食時にご確認されたいだろうと思い、食堂にお持ちしてあります」

「私に手紙が? 気が利くのね。ありがとう」

二人にお礼を言いつつ、着替えを手伝ってもらう。





食堂までのメイン廊下を二人に案内されて進む。

古いけどしっかりした造りで、装飾も華美すぎず、綺麗に手入れされている落ち着いたお城だわ。

住んでいるのが私一人だけなんて、この広さは勿体無い。

将来、何か活用できないかノエインに相談してみましょう。

案内されて到着したのは食堂ではなくサロンだった。

それも既に着席している人がいたーーノエイン!?

なぜ? どうして? 朝から彼がなんでいるの?

「おはよう、リア。食事が冷めてしまうぞ」

まるで自分の家のように寛ぐ彼に呆然として返事ができない。

あ、でも半分自宅に近いかもーーだってこのお城は私以外の使用人全てはノエインに使える精霊たちだもの。

この国の人を信用できなくてノエインが手配してくれたお陰で彼らとは良い関係を築けていると思う。

「俺のリアは朝から可愛いな。どうした? まだ眠いのか?」

この人、誰? 本当にノエイン? よく喋っていませんか?

私はノエインに手を引かれ、着席するけどなんで彼の膝上なの?!

「ノエイン、どういうことですか? あ、貴方のひ、膝に座るなんてハレンチじゃないですか!? 」

「何故驚く? ここはお前の特等席だ。当たり前のことだろう」

彼は慣れた手付きで一口サイズに用意された朝食を私に食べさせようとして口元に運ぶ。

「リア、あーんして」

えええぇぇぇーー!
あーんって、あのあーんですかぁ?!

もぐもぐもぐーー。

すっかり餌付けされました。

あとから知ったのですが、餌付けは求愛行動の一つだそうです。

獣人や龍人、亜種人に多いそうでーー精霊にも当てはまるんですね。

お腹いっぱいです。








食後のコーヒーを楽しんでいると

「リア、何やら手紙が来ているようだな」

ノエインが手紙ことを言い出す。

気にしてるのかしら?

「ええ、来ているようですね。私はまだ見ていませんが」

後ろのボードの上に置かれている手紙を確認する。

あら、王家の紋章入りですわ!

ノエインの言う通りきな臭いですわね。

優雅に手紙を持ち、ペーパーナイフで切り開けるーー面倒臭いですわ~ハサミでザクッと切りたいですわね!

中身はやはりアレでしょうかーー。

「ノエイン、流石はいい感してますね」

「ふむ。それで?」

「数ヶ月前に異世界より召喚した聖女の教育が終わり、お披露目をするそうです。それもセレスティアの夜に……です」

「ふっ」

ノエインは鼻にかけて嘲笑うかのように笑う。

「わっはっはっはっは。どこまでふざけた連中だ。セレスティアの日だと!俺をドン底まで貶めたいのか!」

目をギラギラとさせて好戦的な口調で話す。

ノエインーー相当頭にきていますわね、私も同様ですもの。

夜の王を讃える聖なる日を汚す真似をしようとしているのですから!

「この挑戦を受けてたとう。そして最後の温情となるだろう」

えっ、生温くないですか?!

「俺のリア、そんな顔をするな。我慢できなくなるだろう」

ノエインが頬に口付けてくる。

そんな顔ってどんな顔???

「その催しにはお前も招待されるのだろう?」

「ええ、その筈ですわ。私はリーベン公爵家の最後の一人ですもの。それに聖女のお披露目であれば呼ばれないなんてありえませんわ」

「だが、お前はだ」

ふうっと小さく溜め息をついてしまう。

そこなのよね、招待されても私一人だけ。

一緒に参加してくれる家族も友人もいない……どうしようもない悩みですわ……

ノエインが私の髪を一房掬い口付ける。

さっきは頬で、次は髪の毛……悔しいほど絵になる男ですわね、貴方は!

私の中の苛立ちに気付かず、彼は私に向かって蕩けるような甘い微笑みを向けて

「心配するな。俺がエスコートする」

は? 何言ってるんですか? この人はぁ!

「無理じゃありませんか? ですよ」

「だからだ。こんな時のために分家の伯爵家一つを残しておいただろう」

「ああ、そう言えば……えっ、そんなために?」

「全てはリアのためだ。あの時、術を使い王族貴族を欺いたことがここで役に立つとは!」

嬉しそうですわね、ノエイン。

「どうせあのボンクラ王太子は婚約者であるお前のエスコートなどしないだろう?」

「悲しいことに全くその通りですわ。と言いますか、今まで一度も婚約者らしいことされたことございませんわ!」

思い出しても腹が立ちますわ。

手紙や花束、贈り物、エスコートさえも、全く無視ですわ。

それならば早々に婚約を解消して解放してくれればいいものを……何年も何年も縛られて……

「可愛い唇を噛むな。血が出る」

チュッとリップ音がーー。

今、何をされた……の……?

私の思考回路が追い付かないままノエインが更に抱き締めてきて

「大手を振ってエスコートできるな。俺たちの仲の良さを見せつけてやろう。皆が羨ましがるらいに♪」

えっ、一泡吹かす予定じゃないの?

どうして惚気を披露する方に変わってるの?





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