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後章
花嫁魔族
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~花嫁魔族~
《バス事故の後、いきなり異世界なんて言われたとき、私は意味が良くわからなかった。しかも透夏が何故かここにいるもんだから、余計に理解が及ばなかった。だけど透夏はすぐに適応して、お世話になった村では扇を作ったり花火を応用した魔法花火を開発したりと、あれはもう異世界に馴染みすぎていたといった方がいい。
だからこそ、私は過信していた。
あの子はどこへ行ったって、適用できると。
いっそのことあの子はあの村で永住出来たのなら…だなんて、馬鹿なことを今日もまた、考えてしまうんだ。》
トールに起こされ続けて十分、ようやく俺は目が覚めた。
「ふわああ…」
良く寝た。色んなことがあったからか、中々良く寝られるもんなんだな。
「あ、おはよう総」
いつもの通り、優しい顔をする。隣のトールはいつも通りに見えて、目の下に隈があった。
「はよー、眠れなかったのか?」
「え」
多分驚くほど激しく跳ねた俺の髪を無意識に整えてくれていたトールは手を止めて、目を見開く。
うんうん、トールは俺に心配させまいといつも通りを装ったんだろうけど、俺にはわかるぞ。きっとこれからが不安で仕方がないんだな。
俺は珍しいトールの姿を見て、弱みを見せないトールが俺にたまーに見せてくれる弱さをみれた気がして、俺はトールを心配する反面俺は少し嬉しくなる。
左手でバシバシトールの背中を軽く叩きながら励ます。
「だいじょーぶだって、トールには俺がついてるからな!」
「そ、それは頼もしいな」
「だろだろー!」
なんたって歌の大会で、優勝したんだもんな!景品は正と同じで特別な味付けがされた保存食だった。これで、長旅も少しは持ちそうだ。
「なんでも相談に乗るからな、頼れよな!」
「…じゃあ、昨日今日でうまく寝られるようなコツはありますか」
「コツ?コツはないぞ?」
「そっか…」
何故敬語、そしてなんだその質問。結構、寝心地良かったけどな。
「さ、そろそろ行こうか。正さん達と会いに行こう」
「おう!」
髪型も出来るところまで整えて支度も終わり、トールの合図で俺達は立ち上がり、天幕の先の朝を浴びた。
朝の挨拶もそこそこに、俺達は用意してくれた朝食をいただいた。広場で皆で頂くご飯は美味しくて、本当に、至れり尽くせりでありがたい。
いつまでもここに居座るわけにはいかないが、しかし魔法花火以外で何か恩返しでも出来ないものだろうか。
そんな思いから、俺はあの唸り声の事を村長さんにむけて話す。もしかするとあの声はこの村に攻めようとしているのかもしれないし、美味しい肉を持つかもしれないからな。
ついでに、一緒にアニエにも話す。すると二人は揃ってスープを飲む手を止めてしまった。
「本当か!?ソウ、その話は!」
「うん、俺、耳はいい方だから」
「そ、それはどっちの方から?」
俺は音が聞こえたあの時を思い出す。確か、村長さんの席の、右斜め後ろだったはず。
…そういえば、あそこって丁度俺達の進む方向なんだよな。
「ほら、あっちだよ。」
「それって…」
途端、アニエ達だけでなく、近くの村人達も一斉に騒ぎ始めた。
「まさか、花嫁魔族じゃ」
「嘘だろ、あんな奴がまた…」
「?俺、まずいこと言ったか…?」
言うことミスったのか、俺は…
しかしアニエは首を振って、手を握った。
「ソウ!」「はっはい!?」
「セイジュ!」「ん?」
「トオル!」「な、なんでしょうか」
「ヒカル!」
「なに。」
「頼みがある、その声の方まで連れてってくれないか!」
立ち上がって、頭を下げられる。俺達は理解できなかったが、それでも深刻な状況であることだけはわかった。
スープはすっかり冷めてしまって、けれど外の温度でかろうじてぬるくなるだけですんでいた。
それくらいの夏だと言うのに、それでも俺は、悪寒がした。
俺達はアニエにつれられ、村の隅の人気のない日陰へつれられる。
そしてそこで、花嫁魔族について教えられた。
「十年に一度の花嫁魔族…」
「何百年も前に婚約相手が失踪した魔族が怒ってな、それから魔力を貯めて、十年に一度暴れるようになった、もはや厄災だ。隣町が主な被害を被っているんだが、此村にも被害は及んでいる。この前は六人死んだ。」
「六人!?」
「村の結界の外で門番をしていた剣士達でな。俺は唯一生き残ったんだが…俺はもう十年前とは違う。それにお前らがいれば、今度こそ花嫁魔族を封印できそうなんだ!」
要はクエストってことか。魔法の塊でどうにか出来るのなら、手伝いしたい。恩返しになるだろうし。
隣を見れば、トールと光も頷く。後は正だけだけど…
正は極めて冷静に首を振った。
「せーじゅ的には、せーじゅが役に立つとは思えない、かな。」
「そんなことはねえ、お前さん達はそんなに良い装備をしている!その長袖服だって、来ていて全く暑さを感じないんだろ?」
「装備は貰い物、せーじゅ達は武器もない。それに自分はスライムにも勝てなかった」
「だが…」
アニエは引き下がらず、食い下がる。
確かに、正の言う通り、俺達は武器もなにもない。ゲームと違ってコンティニューもないのだ。魔力の塊が特別って言われて、過信してたな俺。
だがそれでも尚、俺は封印の手伝いをしたいと思った。アニエが真剣だってわかったから。
「正、俺は…」
「総、ちょい黙って」
「はーい…」
駄目だ、俺に援護はできない。正は真剣な目で訊ねた。
「アニエさんは何故せーじゅ達が役に立つと確信しているの?」
「…セイジュは俺の事、気付いているのか」
「…………」
えっ、何が!?
俺の頭では展開に理解が追い付かない。
はあとアニエはため息をついて、観念したかのように右手をこちらに伸ばす。
その腕は…白かった。
色白とかじゃない、白紙のように真っ白で、それに…
段々、ふわりと透けている。
「んなっ…」
「セイジュのにらむ通り、俺は半分人じゃない。」
「…」
「だからこそ十年前、生きられたってのがある。正直今回だって死なない自覚はあるし、隣町がどうなろうと、俺はこの村を守れればそれで良い。だが…」
「だが?」
アニエは長い手袋をはめて、そのまま俺の後ろを指差した。
こちらに気付かないまま、丁度通りすぎる小さな人影は、カラエだ。
「剣士はこの村を守る役目を背負っている、当然カラエも意地でも俺について来るだろう。しかしあいつじゃあすぐに死ぬ。俺は半分人じゃないから、お前らの強さも何となく見抜けるんだ。だから頼む、協力してくれ」
正に安堵の表情が見えた。今なら協力してくれそうである。けれど正に黙れと言われたので、俺は目で訴えてみる。
そんな思いも伝わったのか、やがて彼女は魔力の塊を右手に作り出した。
「今んとここんなんしか使えないんだけど、それでも良いなら。」
「ああ…最高じゃねえか」
「正…!」
思わず顔を綻ばせると、正は俺のおでこを指で弾いた。俺に向けて、パチンと左目を閉じる。
「そうと決まれば、策を立てるよ!」
「おう!」
計画立てて敵を封印…
ひたすらゲームしてレベル上げしてごり押しするだけの俺じゃないってところを、見せてやんよ!
「じゃあセイジュとトオルの言う通り、魔力のより多いセイジュとソウが上手く森の洞窟前に誘導、トオルとカラエであらかじめ魔方陣を書いておいて封じ、俺は集まるだろう回りの魔物を駆除、ヒカルは万一封印できなかった保険として待機する…」
「結構は、今夜。」
「しかしいいのか隊長、『来客に助けを求めたぞー』って、危険すぎじゃねえか?」
時間は進んでもう夕暮れごろ、花嫁魔族の弱点やらを聞いた結果、どうやら俺と正の属性が有効らしい。ただし俺の属性は途中で耐性が出来る可能性が高く、そもそも封印の魔方陣を森につくって誘い込みたいらしい。
というか炎に耐性が出来るって強いな。んん、でもそうすれば寒がりも悪化するのでは。…けどそもそも炎耐性は暑さ耐性とは違うのか?
どうせなら、俺は寒さ耐性の方がほしいかな、切実に。
「総?」
「悪い、どうでも良い考え事だ。」
正に顔を覗き込まれ、俺はすぐに真剣な話に考えを戻す。
策自体単純な方だけど、花嫁魔族は単純だから、それより問題はどれだけ気を引き付けられるのか、どれだけ機敏に動けるか、か…。
あ、因みにカラエが言った通り、全く俺の意見は採用されていない。やっぱり対話は無理なようだ。
「ふうむ。ちなみに決行は今夜、と…」
「ああ。ソウの聞いた唸り声で、今頃となり町は震え上がって態勢を整えているさ。」
今は夕方だ。
総、夕方……
それってつまり…
今からか!?!?今からこうどうせなばならんのか!?
早すぎじゃね!?
いやね、心の準備が出来ていない訳じゃないんだけどね、ただ声が一度聞こえたくらいだったから、まだ猶予はあったと思ってたんだけどな。
それにほら、今日言われたから十分猶予があると…って今日俺が言ったんだ、アニエがあんなけ切羽詰まってたのも理解できる。
にしてもなぁ、こういきなり来るもんなのか…
ぐぬぬと俺が眉を寄せていると、朝と同じく隣の椅子の正は肩を組んでくる。
「どーした、心の準備がまだなの?」
「うっ、そ、そそそんなわけねえよ!正こそ怖くねえのかよ!」
「まあまあ、やるしかないじゃーん?王城に行くにしても、進行方向にそいつがいるなら倒さ…封印しないとね!」
「おう!」
正は封印の協力を許可した瞬間、持ち前の頭の良さとリーダーシップで積極的に案を提案していた。きっとアニエの頼みを断った時から協力しようと思ってたんだろう。正は大抵の人に対しては人情溢れてるから。
だとしたら、なんで正は一度頼みを断ったんだ…?いや、正ならきっと大きな意味があったんだろう。
正は凄いからな!
「うわっ、今度はなんで笑ってんのさ…」
「いや、笑ってねえよ!」
咄嗟に否定したけど、どうやら顔に出ていたみたいだ。中学の時、すぐに感情にでない技を身に付けたと思ったんだけどな…
「それじゃ、今から行きますか!」
カラエは立ち上がる。
今回の策において、一番アニエが心配していた人物は、誰よりもやる気だ。村に二本しかない剣を背中に携え、立ち上がる。
「母さんの仇討ちだ」
「…!」
ポツリと呟いたその言葉は、カラエが一番やる気な理由には十分すぎる。同時に力がこもった目付きをみて、確信する。
――封印なんかじゃない、殺す勢いだ。
「なあアニエ、花嫁魔族は殺さないのか?」
「殺せば、花嫁魔族に一目惚れしているこの森の精霊が怒り狂うはずだ。殺害者は大変なことになる。それは厄介でな、出来ればでいいが、封印にとどめておきたい。」
「封印なら、森の精霊は怒らないのか?」
「ああ、この森の精霊様は一定の範囲から出られないし、精霊様は花嫁魔族の姿は見ないんだ。生命活動さえ停止しなければ良い。殺すのは最終手段だ。」
そもそも殺せねえけど、と言ったアニエは走って村の中央まで行き、呪文を唱える。
「魔力に呪文に魔方陣…本当なんでも良いんだな…」
いずれ呪文と魔方陣も教わりたいものだ。
にしてもカラエは、アニエがあんなに殺気を出していても気が付いていなかった。それだけじゃない、正とトールも…
「総。」
「光、どうしたんだ?」
「アニエ、変。なんか、わかんないけど、一瞬変。」
「ああ、俺もそう思う。念のため、トールに無茶しないよう見といてって言っとくよ」
光歯一度こくりと頷くと、正の方へ戻っていった。
俺はその後ろのトールに一言声をかける。
「トール!」
「どうしたの、総」
「アニエにさっき、殺気を感じた。」
「殺気…花嫁魔族に対してかな?」
「ああ。出来るか?」
「わかった。魔方陣も意外と簡単だったし、一緒に気にしてみるよ、ありがとう」
俺はこくりと頷いた。どうやらトールは多少余裕がありそうだ。
そういえばさっき封印の魔方陣を見たけど、十メートルの花嫁魔族を覆うように複雑化されてるって言ってたっけな。
あれを秒で覚えたんだ、さすがトール、記憶力が凄まじい。
「今度効率良い暗記法教えてくれよな」
「うん、良いよ!」
よしっ、これで期末のテストの赤点も免れる!トールと言う心強い相棒が使用する暗記法だ、きっと俺も平均点は越えて…
いつも一週間前から焼付刃で教わってたもんな。けれど異世界にいる間に暗記を効率良くできれば、きっと俺は期末テストをより良い点数が…
期末テスト、あると良いけどな…
俺はらしくないことを思いながら、村の皆に心配されつつ封印へ向かう。
そして村の出入り口に付いた時、トールは右手を左腕の方まで持ってきて、それから魔力の塊を作り出した。
「どした?」
「いやね…」
首をかしげた途端、魔力の塊は砕け、風と共に入り口を塞いだのだ。
「アニエさん、これで良いんですよね?」
「ああ、これで少なくともモンスターがこの村に来ることはねえ、バリケードの完成だ。」
風は散ることなく、いつまでも入り口辺りを吹き回っているのが目に見えた。魔力の塊から散ったときに出た光りのエフェクトの粒が、まだ微かに残っているからだ。
トールに聞くに、魔力の塊に強い意思込めれば、魔力をより操りやすくなるそうだ。自分の魔力であるその限界まで、その場に留めることも、なんなら軌道変更も出来るそうな。
となると…俺が気になってたあれ、恐らく魔法花火も元は空に散れ!という思いから出来た魔力の塊か。そりゃ、他にも色々しているかもしれないけど、基本的な原理は今と同じだ。
覚えておくと、役に立つ…だろうん多分!
《バス事故の後、いきなり異世界なんて言われたとき、私は意味が良くわからなかった。しかも透夏が何故かここにいるもんだから、余計に理解が及ばなかった。だけど透夏はすぐに適応して、お世話になった村では扇を作ったり花火を応用した魔法花火を開発したりと、あれはもう異世界に馴染みすぎていたといった方がいい。
だからこそ、私は過信していた。
あの子はどこへ行ったって、適用できると。
いっそのことあの子はあの村で永住出来たのなら…だなんて、馬鹿なことを今日もまた、考えてしまうんだ。》
トールに起こされ続けて十分、ようやく俺は目が覚めた。
「ふわああ…」
良く寝た。色んなことがあったからか、中々良く寝られるもんなんだな。
「あ、おはよう総」
いつもの通り、優しい顔をする。隣のトールはいつも通りに見えて、目の下に隈があった。
「はよー、眠れなかったのか?」
「え」
多分驚くほど激しく跳ねた俺の髪を無意識に整えてくれていたトールは手を止めて、目を見開く。
うんうん、トールは俺に心配させまいといつも通りを装ったんだろうけど、俺にはわかるぞ。きっとこれからが不安で仕方がないんだな。
俺は珍しいトールの姿を見て、弱みを見せないトールが俺にたまーに見せてくれる弱さをみれた気がして、俺はトールを心配する反面俺は少し嬉しくなる。
左手でバシバシトールの背中を軽く叩きながら励ます。
「だいじょーぶだって、トールには俺がついてるからな!」
「そ、それは頼もしいな」
「だろだろー!」
なんたって歌の大会で、優勝したんだもんな!景品は正と同じで特別な味付けがされた保存食だった。これで、長旅も少しは持ちそうだ。
「なんでも相談に乗るからな、頼れよな!」
「…じゃあ、昨日今日でうまく寝られるようなコツはありますか」
「コツ?コツはないぞ?」
「そっか…」
何故敬語、そしてなんだその質問。結構、寝心地良かったけどな。
「さ、そろそろ行こうか。正さん達と会いに行こう」
「おう!」
髪型も出来るところまで整えて支度も終わり、トールの合図で俺達は立ち上がり、天幕の先の朝を浴びた。
朝の挨拶もそこそこに、俺達は用意してくれた朝食をいただいた。広場で皆で頂くご飯は美味しくて、本当に、至れり尽くせりでありがたい。
いつまでもここに居座るわけにはいかないが、しかし魔法花火以外で何か恩返しでも出来ないものだろうか。
そんな思いから、俺はあの唸り声の事を村長さんにむけて話す。もしかするとあの声はこの村に攻めようとしているのかもしれないし、美味しい肉を持つかもしれないからな。
ついでに、一緒にアニエにも話す。すると二人は揃ってスープを飲む手を止めてしまった。
「本当か!?ソウ、その話は!」
「うん、俺、耳はいい方だから」
「そ、それはどっちの方から?」
俺は音が聞こえたあの時を思い出す。確か、村長さんの席の、右斜め後ろだったはず。
…そういえば、あそこって丁度俺達の進む方向なんだよな。
「ほら、あっちだよ。」
「それって…」
途端、アニエ達だけでなく、近くの村人達も一斉に騒ぎ始めた。
「まさか、花嫁魔族じゃ」
「嘘だろ、あんな奴がまた…」
「?俺、まずいこと言ったか…?」
言うことミスったのか、俺は…
しかしアニエは首を振って、手を握った。
「ソウ!」「はっはい!?」
「セイジュ!」「ん?」
「トオル!」「な、なんでしょうか」
「ヒカル!」
「なに。」
「頼みがある、その声の方まで連れてってくれないか!」
立ち上がって、頭を下げられる。俺達は理解できなかったが、それでも深刻な状況であることだけはわかった。
スープはすっかり冷めてしまって、けれど外の温度でかろうじてぬるくなるだけですんでいた。
それくらいの夏だと言うのに、それでも俺は、悪寒がした。
俺達はアニエにつれられ、村の隅の人気のない日陰へつれられる。
そしてそこで、花嫁魔族について教えられた。
「十年に一度の花嫁魔族…」
「何百年も前に婚約相手が失踪した魔族が怒ってな、それから魔力を貯めて、十年に一度暴れるようになった、もはや厄災だ。隣町が主な被害を被っているんだが、此村にも被害は及んでいる。この前は六人死んだ。」
「六人!?」
「村の結界の外で門番をしていた剣士達でな。俺は唯一生き残ったんだが…俺はもう十年前とは違う。それにお前らがいれば、今度こそ花嫁魔族を封印できそうなんだ!」
要はクエストってことか。魔法の塊でどうにか出来るのなら、手伝いしたい。恩返しになるだろうし。
隣を見れば、トールと光も頷く。後は正だけだけど…
正は極めて冷静に首を振った。
「せーじゅ的には、せーじゅが役に立つとは思えない、かな。」
「そんなことはねえ、お前さん達はそんなに良い装備をしている!その長袖服だって、来ていて全く暑さを感じないんだろ?」
「装備は貰い物、せーじゅ達は武器もない。それに自分はスライムにも勝てなかった」
「だが…」
アニエは引き下がらず、食い下がる。
確かに、正の言う通り、俺達は武器もなにもない。ゲームと違ってコンティニューもないのだ。魔力の塊が特別って言われて、過信してたな俺。
だがそれでも尚、俺は封印の手伝いをしたいと思った。アニエが真剣だってわかったから。
「正、俺は…」
「総、ちょい黙って」
「はーい…」
駄目だ、俺に援護はできない。正は真剣な目で訊ねた。
「アニエさんは何故せーじゅ達が役に立つと確信しているの?」
「…セイジュは俺の事、気付いているのか」
「…………」
えっ、何が!?
俺の頭では展開に理解が追い付かない。
はあとアニエはため息をついて、観念したかのように右手をこちらに伸ばす。
その腕は…白かった。
色白とかじゃない、白紙のように真っ白で、それに…
段々、ふわりと透けている。
「んなっ…」
「セイジュのにらむ通り、俺は半分人じゃない。」
「…」
「だからこそ十年前、生きられたってのがある。正直今回だって死なない自覚はあるし、隣町がどうなろうと、俺はこの村を守れればそれで良い。だが…」
「だが?」
アニエは長い手袋をはめて、そのまま俺の後ろを指差した。
こちらに気付かないまま、丁度通りすぎる小さな人影は、カラエだ。
「剣士はこの村を守る役目を背負っている、当然カラエも意地でも俺について来るだろう。しかしあいつじゃあすぐに死ぬ。俺は半分人じゃないから、お前らの強さも何となく見抜けるんだ。だから頼む、協力してくれ」
正に安堵の表情が見えた。今なら協力してくれそうである。けれど正に黙れと言われたので、俺は目で訴えてみる。
そんな思いも伝わったのか、やがて彼女は魔力の塊を右手に作り出した。
「今んとここんなんしか使えないんだけど、それでも良いなら。」
「ああ…最高じゃねえか」
「正…!」
思わず顔を綻ばせると、正は俺のおでこを指で弾いた。俺に向けて、パチンと左目を閉じる。
「そうと決まれば、策を立てるよ!」
「おう!」
計画立てて敵を封印…
ひたすらゲームしてレベル上げしてごり押しするだけの俺じゃないってところを、見せてやんよ!
「じゃあセイジュとトオルの言う通り、魔力のより多いセイジュとソウが上手く森の洞窟前に誘導、トオルとカラエであらかじめ魔方陣を書いておいて封じ、俺は集まるだろう回りの魔物を駆除、ヒカルは万一封印できなかった保険として待機する…」
「結構は、今夜。」
「しかしいいのか隊長、『来客に助けを求めたぞー』って、危険すぎじゃねえか?」
時間は進んでもう夕暮れごろ、花嫁魔族の弱点やらを聞いた結果、どうやら俺と正の属性が有効らしい。ただし俺の属性は途中で耐性が出来る可能性が高く、そもそも封印の魔方陣を森につくって誘い込みたいらしい。
というか炎に耐性が出来るって強いな。んん、でもそうすれば寒がりも悪化するのでは。…けどそもそも炎耐性は暑さ耐性とは違うのか?
どうせなら、俺は寒さ耐性の方がほしいかな、切実に。
「総?」
「悪い、どうでも良い考え事だ。」
正に顔を覗き込まれ、俺はすぐに真剣な話に考えを戻す。
策自体単純な方だけど、花嫁魔族は単純だから、それより問題はどれだけ気を引き付けられるのか、どれだけ機敏に動けるか、か…。
あ、因みにカラエが言った通り、全く俺の意見は採用されていない。やっぱり対話は無理なようだ。
「ふうむ。ちなみに決行は今夜、と…」
「ああ。ソウの聞いた唸り声で、今頃となり町は震え上がって態勢を整えているさ。」
今は夕方だ。
総、夕方……
それってつまり…
今からか!?!?今からこうどうせなばならんのか!?
早すぎじゃね!?
いやね、心の準備が出来ていない訳じゃないんだけどね、ただ声が一度聞こえたくらいだったから、まだ猶予はあったと思ってたんだけどな。
それにほら、今日言われたから十分猶予があると…って今日俺が言ったんだ、アニエがあんなけ切羽詰まってたのも理解できる。
にしてもなぁ、こういきなり来るもんなのか…
ぐぬぬと俺が眉を寄せていると、朝と同じく隣の椅子の正は肩を組んでくる。
「どーした、心の準備がまだなの?」
「うっ、そ、そそそんなわけねえよ!正こそ怖くねえのかよ!」
「まあまあ、やるしかないじゃーん?王城に行くにしても、進行方向にそいつがいるなら倒さ…封印しないとね!」
「おう!」
正は封印の協力を許可した瞬間、持ち前の頭の良さとリーダーシップで積極的に案を提案していた。きっとアニエの頼みを断った時から協力しようと思ってたんだろう。正は大抵の人に対しては人情溢れてるから。
だとしたら、なんで正は一度頼みを断ったんだ…?いや、正ならきっと大きな意味があったんだろう。
正は凄いからな!
「うわっ、今度はなんで笑ってんのさ…」
「いや、笑ってねえよ!」
咄嗟に否定したけど、どうやら顔に出ていたみたいだ。中学の時、すぐに感情にでない技を身に付けたと思ったんだけどな…
「それじゃ、今から行きますか!」
カラエは立ち上がる。
今回の策において、一番アニエが心配していた人物は、誰よりもやる気だ。村に二本しかない剣を背中に携え、立ち上がる。
「母さんの仇討ちだ」
「…!」
ポツリと呟いたその言葉は、カラエが一番やる気な理由には十分すぎる。同時に力がこもった目付きをみて、確信する。
――封印なんかじゃない、殺す勢いだ。
「なあアニエ、花嫁魔族は殺さないのか?」
「殺せば、花嫁魔族に一目惚れしているこの森の精霊が怒り狂うはずだ。殺害者は大変なことになる。それは厄介でな、出来ればでいいが、封印にとどめておきたい。」
「封印なら、森の精霊は怒らないのか?」
「ああ、この森の精霊様は一定の範囲から出られないし、精霊様は花嫁魔族の姿は見ないんだ。生命活動さえ停止しなければ良い。殺すのは最終手段だ。」
そもそも殺せねえけど、と言ったアニエは走って村の中央まで行き、呪文を唱える。
「魔力に呪文に魔方陣…本当なんでも良いんだな…」
いずれ呪文と魔方陣も教わりたいものだ。
にしてもカラエは、アニエがあんなに殺気を出していても気が付いていなかった。それだけじゃない、正とトールも…
「総。」
「光、どうしたんだ?」
「アニエ、変。なんか、わかんないけど、一瞬変。」
「ああ、俺もそう思う。念のため、トールに無茶しないよう見といてって言っとくよ」
光歯一度こくりと頷くと、正の方へ戻っていった。
俺はその後ろのトールに一言声をかける。
「トール!」
「どうしたの、総」
「アニエにさっき、殺気を感じた。」
「殺気…花嫁魔族に対してかな?」
「ああ。出来るか?」
「わかった。魔方陣も意外と簡単だったし、一緒に気にしてみるよ、ありがとう」
俺はこくりと頷いた。どうやらトールは多少余裕がありそうだ。
そういえばさっき封印の魔方陣を見たけど、十メートルの花嫁魔族を覆うように複雑化されてるって言ってたっけな。
あれを秒で覚えたんだ、さすがトール、記憶力が凄まじい。
「今度効率良い暗記法教えてくれよな」
「うん、良いよ!」
よしっ、これで期末のテストの赤点も免れる!トールと言う心強い相棒が使用する暗記法だ、きっと俺も平均点は越えて…
いつも一週間前から焼付刃で教わってたもんな。けれど異世界にいる間に暗記を効率良くできれば、きっと俺は期末テストをより良い点数が…
期末テスト、あると良いけどな…
俺はらしくないことを思いながら、村の皆に心配されつつ封印へ向かう。
そして村の出入り口に付いた時、トールは右手を左腕の方まで持ってきて、それから魔力の塊を作り出した。
「どした?」
「いやね…」
首をかしげた途端、魔力の塊は砕け、風と共に入り口を塞いだのだ。
「アニエさん、これで良いんですよね?」
「ああ、これで少なくともモンスターがこの村に来ることはねえ、バリケードの完成だ。」
風は散ることなく、いつまでも入り口辺りを吹き回っているのが目に見えた。魔力の塊から散ったときに出た光りのエフェクトの粒が、まだ微かに残っているからだ。
トールに聞くに、魔力の塊に強い意思込めれば、魔力をより操りやすくなるそうだ。自分の魔力であるその限界まで、その場に留めることも、なんなら軌道変更も出来るそうな。
となると…俺が気になってたあれ、恐らく魔法花火も元は空に散れ!という思いから出来た魔力の塊か。そりゃ、他にも色々しているかもしれないけど、基本的な原理は今と同じだ。
覚えておくと、役に立つ…だろうん多分!
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※2023年8月 書籍化
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