彼奴は嘘を信じてる

イヲイ

文字の大きさ
上 下
20 / 21

外伝前 呪いの昔話

しおりを挟む
~外伝前 呪いの昔話~

 数百年前から海辺には可笑しな迷信があった。私は仕事で来た町に、異様を感じていた。団結力が異常な町だった。
 町の外れには、皆との協調性がなく『この町はおかしい』と主張を続けている男がすむそれなりに広い家があった。私はそこをたまたま訪れたとき、部屋に招かれた。その男は癇癪持ちで、短期で気まぐれで異常な奴と町の人から聞いていたが、そんなことはなかった。

 私はやがて、その男の元へ嫁いだ。

 暫くして、子供が出来た。それから夫はおかしくなった。些細なことで怒り、常に愚痴を言い、何かあればすぐ殴る。上機嫌で酒を呑んだタイミングで理由を訊ねてみると、やや不機嫌になりながら、「餓鬼は俺にそっくりだ。俺は二人も要らない、お前からの愛は俺だけが貰えばいい。」といった。所謂重い夫だということに、始めた気が付いた。

 やがて心身ともに傷だらけの私は、昔聞いた海辺で夫を深夜に…刺殺した。
 気が動転していて、慌てて砂で屍を埋めたが、すぐにばれるだろうと冷静になった気が付いた。
 しかし翌日の早朝には死体はなく、それどころか砂に付いた血も、なにもかも無かった。しかも埋めた場所は満ち潮になったとしても、海水は届かない場所に埋めていたのに。
 町に買い物に行くと、なぜか町の人々が優しかった。
 「調和を乱す危険分子がなくなってよかった」
「心配していたけど、貴女は無事でよかった」
 その時は、私の傷の原因が消えてよかったと喜んでいるのかと思ったが、町の人々は既に私が夫を殺したことを知っている事になる。夫は危険分子と村八分にされていたから、きっとあの現場を見た誰かが町に知らせ、あの屍を消したのだろう。
 私は子供と町を出たかったが、危険な町で迂闊に他の町へ逃げるのは、誰かに見られているような気がして出来なかった。

 そして同時に、我が子は町に弾かれない子供にしようとした。今となっては屍のあれは愛が重かったから、愛は軽くで言いと教えた。変に反抗するなと教えた。この町がすすめることは全てやれといった。

 やがて町一番に優秀となった息子は町に紹介された仕事につき、町を出た。

 そしてある日、妻子を連れて帰ってきた。息子は私に妻の妹は大変美人だとか、妻とは本当は籍を入れていない等といった。不倫しそうだったが、それも私が教えてしまったので、なにも言えなかった。

 やがて、息子はこの町に訪れず、音信不通となった。ただ、息子に仕事を紹介した町人は良い働きっぷりだと教えてくれた。また、ほんのたまに孫の女の子からも連絡が来た。


 やがて時は過ぎ、孫は二人の男の子を連れて遊びに来た。皆良い子だった。だけどある晩、聞いてしまった。孫がここに来た真の目的は、男の子の内の一人をある組織から助けるためだと。
 でもそんなこと、孫はそんな冗談をつけないと僅かな関わりの間で確信した私はともかく、もう一人の男の子は簡単には信じられないだろう。一人の男の子に孫は、私は孫のしようとしていることを知っている協力者だという嘘を付き、男の子に説得力と安心感を増させたのかもしれない。そのような細かいことは分からなかったが、でも私はその時、孫の協力者になると決めた。息子も連絡をくれない中、孫だけはここに来てくれたから。その孫を助けようと思った。


 最期にカルタを出来たのは楽しかった。懐かしかった。息子と出来たことがなかった事だったから。


 深夜に、皆が出ていった。
 結局私は、孫達に何が出来るかわからなかった。だから今からでも、私が唯一出来ることをしようと思った。孫達の布団の中に子供一人分くらいの厚みのものを詰め、ドアの前で包丁をもつ。

 やがて、男の人数名…四人程が押し掛けてきた。きっと私は、孫達を庇ったかや死ぬだろうと思っていた。
 しかし、男共は私になにも聞かず、殺しにかかってきた。見てくれから怪しく、皆ナイフやら銃やらを持っていた。その内の一人は、かつて息子に仕事を紹介した男だった。私は息子もきっと、孫を困らせている組織に所属してしまったんだと直感で感じながら、そいつの利き腕の右腕を刺した。もうその右腕は使えないくらい、深く。同時に、私の腹にもナイフが刺さった。

 痛いが意識はまだ遠退かない中、右腕が血だらけの男ではない誰かが、誰かと電話をしていた。
 聞くと、私が孫達を誘拐されたと勘違いし、問い詰めたから殺したと言っていた。ため口からして、同僚か部下辺りと連絡しているのだろう。そんな近しい人にさえ、私にこの組織の存在がばれ、ナイフをもって迎えられてしまっていたのを悟られてはいけないのだろう。

 にしても何故私は問答無用で刺されたのだろう。

 そう疑問に思っていると、それに答えるように右腕血だらけの男が愚痴った。
 「にしてもよ、俺らは今後じゃまになりそうな婆さんをとっとと殺したら、総も含めて回収するんじゃなかったのか?それがたとえ死体であろうと無かろうとさ。今逃せば総は回収できねえんだろ?なんたって金持ちの息子だしな」
 すると、電話男がそれに答える。
 「いや、その予定だったんだけどよ。お前、いきなり刺されたろ。治療しなきゃだろ。救急箱とか探さねえとならねえし…で、お前と誰か一人がここに残るから、総を人数的に回収できなくなるから、総は諦める。いやあ良かった、槐の手で殺されてなくて」
「いやいや、二人だけしか槐の所に行けなくても、一人で二つ担げば良いだろ」
「嫌だよ、どっちか一人が死体二つ担ぐのはさすがに重い。総の回収は絶対じゃねえし、もっとお前も気楽に行こーぜー」
「お前は気楽すぎんだよ!」
 そんな言いあいが続き、やがて右腕血だらけの男が折れた。
 と、同時に私の意識もグッと遠退く。
 私、無駄死にだったろうか。
 私、なのに何で痛みより安心感があるのだろうか。

 そっか、私、夫を手にかけた時からずっと世間ばかり気にして、いつか私というものを殺してたんだ。
 だけど、私は幸せだ。最期に孫達と良い思い出が創れたのだから。


 これで、おしまい。
 私の陳腐であっけない人生は幕を閉じた。



 私は、サナコ。『生きていた人生』をあっけなく終えた、サナコ。
 ずっとずっと後のニュースで、総と透が生きていたこと、透は私の血族なことを知った。それと同時に私は完全に天に消え去ったのは、もっともっと後の話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

魔法少女☆優希♡レジイナ♪

蓮實長治
キャラ文芸
九州は阿蘇に住む田中優希は魔法少女である!! 彼女に魔法の力を与えたスーちゃんは中生代から来た獣脚類の妖怪である!!(妖精かも知れないが似たようなモノだ) 田中優希は肉食恐竜「ガジくん」に変身し、人類との共存を目論む悪のレプタリアンと、父親が育てている褐牛(あかうし)を頭からガジガジと貪り食うのだ!! ←えっ?? 刮目せよ!! 暴君(T-REX)をも超えし女王(レジイナ)が築く屍山血河に!! 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)

魔法少女七周忌♡うるかリユニオン

LW
ファンタジー
あれから七年、皆が魔法を拗らせた。 元魔法少女と元敵幹部が再会するガールミーツガール。 ------------------------- 七年前の夏休み、語世麗華は魔法少女の小学生だった。 魔法の妖精から力を受け取り、変身してステッキで戦い、悪の組織を壊滅させ、山麓の地方都市を守った。 それきり世界から魔法は消えて、魔法の夏は終わったはずだった。 しかしそれから七年経って、再び町に魔獣が現れる。 高校生になった麗華はかつて敵幹部だった芽愛と再会し、不完全に復活した魔法の力で魔獣を撃退する。 芽愛と協力して魔獣退治に奔走するうち、元魔法少女や元敵幹部も次々に集まってくる。 七年経ってすっかり色々拗らせてしまったかつての関係者たち。 ロリコンお姉さん、炎上Youtuber、不人気アイドル、年齢不詳の不良ぼっち。かつての敵と味方が入り乱れ、不穏な魔法が渦巻く町を駆け回る。 今年の騒動はいったい誰が何のために? 七年前に積み残した秘密と恋心の行方は? セピア色に染まった魔法の夏がもう一度始まる。 ------------------------- #うるユニ テキスト:LW(@lw_ru) タイトルロゴ:いちのせらいせ様(@ffff02_f) 表紙イラスト&キャラクタ―シート:NaiDiffusionV3

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

18歳(♂)の美人局

靣音:Monet
恋愛
18歳の伊藤佑(いとう ゆう)は、中性的な顔立ちのせいで、女性に間違われる事が度々あった。 そんな佑は高校を卒業すると、すぐに一人暮らしを始める。 しかし、携帯電話は契約しておらず、銀行口座も持っていない。おまけに仕事を探すのもこれからだ。 そんなタイミングで、ある女性に声を掛けられた。「お金欲しくない?」と。 佑は誘われるがまま、翌日にもその女性に会う。そこで佑は、想像もしなかった依頼をされる事になる。彼女は「佑くんだから出来る事」だと言う。 その依頼内容とは……?

ブラックベリーの霊能学

猫宮乾
キャラ文芸
 新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...