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外伝前 呪いの昔話
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~外伝前 呪いの昔話~
数百年前から海辺には可笑しな迷信があった。私は仕事で来た町に、異様を感じていた。団結力が異常な町だった。
町の外れには、皆との協調性がなく『この町はおかしい』と主張を続けている男がすむそれなりに広い家があった。私はそこをたまたま訪れたとき、部屋に招かれた。その男は癇癪持ちで、短期で気まぐれで異常な奴と町の人から聞いていたが、そんなことはなかった。
私はやがて、その男の元へ嫁いだ。
暫くして、子供が出来た。それから夫はおかしくなった。些細なことで怒り、常に愚痴を言い、何かあればすぐ殴る。上機嫌で酒を呑んだタイミングで理由を訊ねてみると、やや不機嫌になりながら、「餓鬼は俺にそっくりだ。俺は二人も要らない、お前からの愛は俺だけが貰えばいい。」といった。所謂重い夫だということに、始めた気が付いた。
やがて心身ともに傷だらけの私は、昔聞いた海辺で夫を深夜に…刺殺した。
気が動転していて、慌てて砂で屍を埋めたが、すぐにばれるだろうと冷静になった気が付いた。
しかし翌日の早朝には死体はなく、それどころか砂に付いた血も、なにもかも無かった。しかも埋めた場所は満ち潮になったとしても、海水は届かない場所に埋めていたのに。
町に買い物に行くと、なぜか町の人々が優しかった。
「調和を乱す危険分子がなくなってよかった」
「心配していたけど、貴女は無事でよかった」
その時は、私の傷の原因が消えてよかったと喜んでいるのかと思ったが、町の人々は既に私が夫を殺したことを知っている事になる。夫は危険分子と村八分にされていたから、きっとあの現場を見た誰かが町に知らせ、あの屍を消したのだろう。
私は子供と町を出たかったが、危険な町で迂闊に他の町へ逃げるのは、誰かに見られているような気がして出来なかった。
そして同時に、我が子は町に弾かれない子供にしようとした。今となっては屍のあれは愛が重かったから、愛は軽くで言いと教えた。変に反抗するなと教えた。この町がすすめることは全てやれといった。
やがて町一番に優秀となった息子は町に紹介された仕事につき、町を出た。
そしてある日、妻子を連れて帰ってきた。息子は私に妻の妹は大変美人だとか、妻とは本当は籍を入れていない等といった。不倫しそうだったが、それも私が教えてしまったので、なにも言えなかった。
やがて、息子はこの町に訪れず、音信不通となった。ただ、息子に仕事を紹介した町人は良い働きっぷりだと教えてくれた。また、ほんのたまに孫の女の子からも連絡が来た。
やがて時は過ぎ、孫は二人の男の子を連れて遊びに来た。皆良い子だった。だけどある晩、聞いてしまった。孫がここに来た真の目的は、男の子の内の一人をある組織から助けるためだと。
でもそんなこと、孫はそんな冗談をつけないと僅かな関わりの間で確信した私はともかく、もう一人の男の子は簡単には信じられないだろう。一人の男の子に孫は、私は孫のしようとしていることを知っている協力者だという嘘を付き、男の子に説得力と安心感を増させたのかもしれない。そのような細かいことは分からなかったが、でも私はその時、孫の協力者になると決めた。息子も連絡をくれない中、孫だけはここに来てくれたから。その孫を助けようと思った。
最期にカルタを出来たのは楽しかった。懐かしかった。息子と出来たことがなかった事だったから。
深夜に、皆が出ていった。
結局私は、孫達に何が出来るかわからなかった。だから今からでも、私が唯一出来ることをしようと思った。孫達の布団の中に子供一人分くらいの厚みのものを詰め、ドアの前で包丁をもつ。
やがて、男の人数名…四人程が押し掛けてきた。きっと私は、孫達を庇ったかや死ぬだろうと思っていた。
しかし、男共は私になにも聞かず、殺しにかかってきた。見てくれから怪しく、皆ナイフやら銃やらを持っていた。その内の一人は、かつて息子に仕事を紹介した男だった。私は息子もきっと、孫を困らせている組織に所属してしまったんだと直感で感じながら、そいつの利き腕の右腕を刺した。もうその右腕は使えないくらい、深く。同時に、私の腹にもナイフが刺さった。
痛いが意識はまだ遠退かない中、右腕が血だらけの男ではない誰かが、誰かと電話をしていた。
聞くと、私が孫達を誘拐されたと勘違いし、問い詰めたから殺したと言っていた。ため口からして、同僚か部下辺りと連絡しているのだろう。そんな近しい人にさえ、私にこの組織の存在がばれ、ナイフをもって迎えられてしまっていたのを悟られてはいけないのだろう。
にしても何故私は問答無用で刺されたのだろう。
そう疑問に思っていると、それに答えるように右腕血だらけの男が愚痴った。
「にしてもよ、俺らは今後じゃまになりそうな婆さんをとっとと殺したら、総も含めて回収するんじゃなかったのか?それがたとえ死体であろうと無かろうとさ。今逃せば総は回収できねえんだろ?なんたって金持ちの息子だしな」
すると、電話男がそれに答える。
「いや、その予定だったんだけどよ。お前、いきなり刺されたろ。治療しなきゃだろ。救急箱とか探さねえとならねえし…で、お前と誰か一人がここに残るから、総を人数的に回収できなくなるから、総は諦める。いやあ良かった、槐の手で殺されてなくて」
「いやいや、二人だけしか槐の所に行けなくても、一人で二つ担げば良いだろ」
「嫌だよ、どっちか一人が死体二つ担ぐのはさすがに重い。総の回収は絶対じゃねえし、もっとお前も気楽に行こーぜー」
「お前は気楽すぎんだよ!」
そんな言いあいが続き、やがて右腕血だらけの男が折れた。
と、同時に私の意識もグッと遠退く。
私、無駄死にだったろうか。
私、なのに何で痛みより安心感があるのだろうか。
そっか、私、夫を手にかけた時からずっと世間ばかり気にして、いつか私というものを殺してたんだ。
だけど、私は幸せだ。最期に孫達と良い思い出が創れたのだから。
これで、おしまい。
私の陳腐であっけない人生は幕を閉じた。
私は、サナコ。『生きていた人生』をあっけなく終えた、サナコ。
ずっとずっと後のニュースで、総と透が生きていたこと、透は私の血族なことを知った。それと同時に私は完全に天に消え去ったのは、もっともっと後の話。
数百年前から海辺には可笑しな迷信があった。私は仕事で来た町に、異様を感じていた。団結力が異常な町だった。
町の外れには、皆との協調性がなく『この町はおかしい』と主張を続けている男がすむそれなりに広い家があった。私はそこをたまたま訪れたとき、部屋に招かれた。その男は癇癪持ちで、短期で気まぐれで異常な奴と町の人から聞いていたが、そんなことはなかった。
私はやがて、その男の元へ嫁いだ。
暫くして、子供が出来た。それから夫はおかしくなった。些細なことで怒り、常に愚痴を言い、何かあればすぐ殴る。上機嫌で酒を呑んだタイミングで理由を訊ねてみると、やや不機嫌になりながら、「餓鬼は俺にそっくりだ。俺は二人も要らない、お前からの愛は俺だけが貰えばいい。」といった。所謂重い夫だということに、始めた気が付いた。
やがて心身ともに傷だらけの私は、昔聞いた海辺で夫を深夜に…刺殺した。
気が動転していて、慌てて砂で屍を埋めたが、すぐにばれるだろうと冷静になった気が付いた。
しかし翌日の早朝には死体はなく、それどころか砂に付いた血も、なにもかも無かった。しかも埋めた場所は満ち潮になったとしても、海水は届かない場所に埋めていたのに。
町に買い物に行くと、なぜか町の人々が優しかった。
「調和を乱す危険分子がなくなってよかった」
「心配していたけど、貴女は無事でよかった」
その時は、私の傷の原因が消えてよかったと喜んでいるのかと思ったが、町の人々は既に私が夫を殺したことを知っている事になる。夫は危険分子と村八分にされていたから、きっとあの現場を見た誰かが町に知らせ、あの屍を消したのだろう。
私は子供と町を出たかったが、危険な町で迂闊に他の町へ逃げるのは、誰かに見られているような気がして出来なかった。
そして同時に、我が子は町に弾かれない子供にしようとした。今となっては屍のあれは愛が重かったから、愛は軽くで言いと教えた。変に反抗するなと教えた。この町がすすめることは全てやれといった。
やがて町一番に優秀となった息子は町に紹介された仕事につき、町を出た。
そしてある日、妻子を連れて帰ってきた。息子は私に妻の妹は大変美人だとか、妻とは本当は籍を入れていない等といった。不倫しそうだったが、それも私が教えてしまったので、なにも言えなかった。
やがて、息子はこの町に訪れず、音信不通となった。ただ、息子に仕事を紹介した町人は良い働きっぷりだと教えてくれた。また、ほんのたまに孫の女の子からも連絡が来た。
やがて時は過ぎ、孫は二人の男の子を連れて遊びに来た。皆良い子だった。だけどある晩、聞いてしまった。孫がここに来た真の目的は、男の子の内の一人をある組織から助けるためだと。
でもそんなこと、孫はそんな冗談をつけないと僅かな関わりの間で確信した私はともかく、もう一人の男の子は簡単には信じられないだろう。一人の男の子に孫は、私は孫のしようとしていることを知っている協力者だという嘘を付き、男の子に説得力と安心感を増させたのかもしれない。そのような細かいことは分からなかったが、でも私はその時、孫の協力者になると決めた。息子も連絡をくれない中、孫だけはここに来てくれたから。その孫を助けようと思った。
最期にカルタを出来たのは楽しかった。懐かしかった。息子と出来たことがなかった事だったから。
深夜に、皆が出ていった。
結局私は、孫達に何が出来るかわからなかった。だから今からでも、私が唯一出来ることをしようと思った。孫達の布団の中に子供一人分くらいの厚みのものを詰め、ドアの前で包丁をもつ。
やがて、男の人数名…四人程が押し掛けてきた。きっと私は、孫達を庇ったかや死ぬだろうと思っていた。
しかし、男共は私になにも聞かず、殺しにかかってきた。見てくれから怪しく、皆ナイフやら銃やらを持っていた。その内の一人は、かつて息子に仕事を紹介した男だった。私は息子もきっと、孫を困らせている組織に所属してしまったんだと直感で感じながら、そいつの利き腕の右腕を刺した。もうその右腕は使えないくらい、深く。同時に、私の腹にもナイフが刺さった。
痛いが意識はまだ遠退かない中、右腕が血だらけの男ではない誰かが、誰かと電話をしていた。
聞くと、私が孫達を誘拐されたと勘違いし、問い詰めたから殺したと言っていた。ため口からして、同僚か部下辺りと連絡しているのだろう。そんな近しい人にさえ、私にこの組織の存在がばれ、ナイフをもって迎えられてしまっていたのを悟られてはいけないのだろう。
にしても何故私は問答無用で刺されたのだろう。
そう疑問に思っていると、それに答えるように右腕血だらけの男が愚痴った。
「にしてもよ、俺らは今後じゃまになりそうな婆さんをとっとと殺したら、総も含めて回収するんじゃなかったのか?それがたとえ死体であろうと無かろうとさ。今逃せば総は回収できねえんだろ?なんたって金持ちの息子だしな」
すると、電話男がそれに答える。
「いや、その予定だったんだけどよ。お前、いきなり刺されたろ。治療しなきゃだろ。救急箱とか探さねえとならねえし…で、お前と誰か一人がここに残るから、総を人数的に回収できなくなるから、総は諦める。いやあ良かった、槐の手で殺されてなくて」
「いやいや、二人だけしか槐の所に行けなくても、一人で二つ担げば良いだろ」
「嫌だよ、どっちか一人が死体二つ担ぐのはさすがに重い。総の回収は絶対じゃねえし、もっとお前も気楽に行こーぜー」
「お前は気楽すぎんだよ!」
そんな言いあいが続き、やがて右腕血だらけの男が折れた。
と、同時に私の意識もグッと遠退く。
私、無駄死にだったろうか。
私、なのに何で痛みより安心感があるのだろうか。
そっか、私、夫を手にかけた時からずっと世間ばかり気にして、いつか私というものを殺してたんだ。
だけど、私は幸せだ。最期に孫達と良い思い出が創れたのだから。
これで、おしまい。
私の陳腐であっけない人生は幕を閉じた。
私は、サナコ。『生きていた人生』をあっけなく終えた、サナコ。
ずっとずっと後のニュースで、総と透が生きていたこと、透は私の血族なことを知った。それと同時に私は完全に天に消え去ったのは、もっともっと後の話。
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