彼の城の崇拝者

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彼の城の崇拝者 後編

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~彼の城の崇拝者 後編~

 「ん…俺、は…」
 冷たい床に体が冷えて、ぼやけた視界を擦る。そうだ、俺は。
 「あの赤ちゃん!あれはどうした、というかここは!?」
 飛び起きると、俺は薄暗い空間にいた。ざらざらした汚れの着いた床、苔のつく壁、埃をかぶったベッド。その布団の無いベッドには緩く光るランプがあって、それが辛うじて視界を動けるくらいには明るくしてくれていた。
 握っていたマッチ箱は無く、ポケットにナイフが入っているのみ。
 「とにかく、出ないと…気分悪いし」
 俺が二人分横に並べられるくらいの空間は吐く程ではないのだがしかし、吐き気が込み上げてくる。
 俺は壁の隅の鉄製扉を見つけた。
 二メートルくらいの扉の上の方は小さな窓があり、そこには鉄格子がはめられている。下の方には猫用の出入り口のようなものがあって、どちらも俺が通れそうではない。
 まるで牢屋だな、と悪態をつきながら扉を引く。
 開かない。
 押しても開かず、一か八かスライドしても駄目だった。

 一気に血の気が引く。
 「お、おい!誰かいないか!?閉じ込められたみたいでっ…!」
 叫んでも、一向に誰も来ない。
 と、そこでやっと俺は思い出した。
 ――そうだ、俺シュルに襲われて…
 じゃあこれは、紛れもない意図的な監禁か。これだけの状況証拠、そしてシュルの言動から自意識過剰ではないことが見て取れる。

 どうにかして出れないものか…
 俺は牢屋内を動き回ったが、しかしなにもない。ランプもただのランプだった。
 ヘクシュッとくしゃみをして、そこで改めて危機に気付かされる。
 ここ、すごく寒い。
 多分俺は地下にいるのだろうが、それにしても寒い。地下の構造からして、シュルが初めに向かった方だろう。
 ダンッと出しきらないくらいの力で壁を叩いていたが、地下にいるのならメリファさんには届かないだろうし、シュルは元から助けになら無い。
 「ああくそっ、入るんじゃなかった」
 声を抑えつつ、俺はその場に崩れ落ちるようにへたりこんだ。
 『あの子』がいたら、強く励ましてくれるだろうに、とよくわからないことを考える。

 十分くらい立つことが出来なかったが、それからせめて体温は逃がさないように冷たい床で座るのはやめようと立ち上がる。
 ベッドに座り、崩れ壊れそうなマットレスを憎く思う。駄目だ、相当気が立ってる。深呼吸、深呼吸。
 とにかく寒いし、もう少しすれば冷静さを取り戻せるだろう。
 「どうすりゃいいんだよ…」


 ――という嘆きから、俺はうじうじ言わずに前を向く。
 ――俺の取り柄は多分、冷静さをすぐに取り戻せやすい部分にあると思う。
 ここに閉じ込められて数時間程、脱出しようと考えながらも気は狂っちゃいないのは、履歴書に書ける長所ではないだろうか。
 そんな自画自賛で何とか暴れまわる心情を落ち着かせながら、尚もどうするか考えている。だいたい、シュルもなにか説明くらいしてくれても良いのに…とは思う。
 「まあ、殺す気だろうしなぁ…」
 二度目はない、つまりは一度目は許されたのだろう。俺が気を失った、あの時は…
 幻聴か、遠くでカチコチと時計の音が響く。それが俺を優しく死へ誘うようで、慌てて耳を塞いだ。



 《薄暗がりの街灯の下、マッチを擦って氷を放ったあの一秒、煙草を咥えたあの人が笑顔を邪魔する。
 いずれは全て凍てついて崩れるあの子は、まだ手を伸ばしていた。落ちたナイフをそのままにして、白い花畑を後にする。
 これは私だけの責任なんかじゃない。
 あいつらと、背負っていくのだ。
 私はもう、あいつらと会うことはないだろうけど。

 ――ああ。

 この子は、どうしよう。》



 《「魔女だけが住まう町で、二十年ほど前、一人の男が迷い混みました。匿った若き愚か者は恋に堕ち、やがて双子を産みました」
 俺は言い聞かせるようにメリファに語った。猿ぐつわと手の縄は地下の牢屋に閉まっていたものだ。長らく使っていなかったけど、赤崎誠を入れた時に回収したのだ。
 今頃彼奴は気が狂い、叫んでいるだろう。無様で愚かな彼奴の顔が目に浮かび、俺は笑いが止まらなかった。
 メリファは恐れた顔で俺を見る。
 ――どうせ、死なないくせに!
 こいつは赤崎誠の死体を見せてから海に投げてやろう。鮫に喰われたって、岩に頭をぶつけたって死なないんだろ、どうせ。
 この世で極少数の『魔女や魔法使い』は『死ぬまで生きている』のだから。
 「しかしそのせいで男の存在はばれてしまいました。しかも双子の一人は魔法を使えない質でしたので、町は大騒ぎとなりました。罪人と魔法の使えない人間を島送りとする刑が、数百年ぶりに判決されたのです。」
 大袈裟に、手を広げてみる。小さい頃、こうやって感情を昂らせるために絵本を読んでくれた人がいた。親ではない、その人は今では仕事仲間だ。
 「しかし既に男は夜逃げ。仕方がないので、魔女らは魔法の使えない片割れだけを流刑に処しました。けれど相手は赤子。そこでは長く生きられません。」
「…………」
「そこで、残された愚か者はどうしたでしょうか?ねえ、どうしたと思いますか?」
 俺は猿ぐつわをはずしてやり、もう一度答えるよう催促する。しかしメリファは視線をずらして答えまいと固く口を結んだ。
 結んでいた髪もほどけ、小刻みに体は震え、浅い呼吸を繰り返すのみだ。
 本当に、ダサいな。
 「はぁ。じゃあ俺が答えてあげますよ。双子は一卵性でした。珍しく、男女の、です。…あるいはそっくりな二卵性。ともかく村の人はシュルと『ジェル』の違いもわからなかった。そして、魔女は死ぬまで生きられる。一人でも死んでいないと思っていれば、魔女は生きていらる。生きてしまう。」
「…………」
「つまりは、そういうことです。」
 子供騙しの魔法。難しい決断。
 「シュルは今も生きている。世界の全てが『死んだ』と決断するまで、彼女は永久を生き続ける。寒くて熱いあの檻で、ずっと。」
「暑い…?」
 そこでやっとメリファは口を開いた。
 「地下に上手く隠したと思い込んでいる貴女は知らないでしょう。シュルのいる空間の裏側は電気が通っているんですよ。熱が籠ってる。ボイラー室くらい。いや、もっとか。もっともっと、熱い。そして電気は魔法ではないから、魔法製の氷は溶けない。苦しみなく眠らせようとし失敗した氷はね。だけど熱さだけはジェルの体を包んであるのです。」
「そんなっ…」
 メリファは絶望したような顔をする。お前がしたことなのに。寒い拷問に加えて熱い拷問が加わったという事実で、今更驚くほどでもないだろう。どうせ。馬鹿らしい。
 「悲観しないでくださいよ。ね、だってそのお陰で近くの牢屋は熱さの拷問の末死なずにいられるのですから。赤崎誠は体感寒いくらいで済むでしょうね。だから…」
 少しだけ顔が緩むメリファに俺は告げる。
 「何日間飢えに苦しんで死ねますね。」
 熱さで死ぬか、飢えで死ぬか。きっとどっちも、辛いだろう。しかし、俺は許さない。メリファを甘んじて受け付け、許すどころか貴重な魔女だからと重役につかせたトリックも。

 なんにせよ、俺は暫く暇だな。

 ああそうだ!

 「メリファ、赤崎誠が死ぬまで遊んでいませんか?そうだなぁ、かくれんぼとか。貴女の夫もかつて、この島に来たのですよ。貴女が来るよりも、ずっと前。逃げずに来てくれました。逃げて悪かったって。全く、呪いの海を馬鹿な人間がどう抜けてどう来たのかという疑問は置いといて…」
 俺はこの島に来た者を許さない。銀の魚に呪われて、皆海で死んでしまえば良い。幻覚を見て、狂って、何も知らないトリックは何度もここに来て…
 ずっと待ってた。メリファが来るのを。
 「俺はトリックを壊せるのですよ。俺を捨てて辿り着いた心地良い空間を壊されたくなかったのなら、探して。この孤島に、男はずっといますから。」
 放心状態となったメリファに、俺はシュルのナイフを突きつけようとする。
 しかし、シュルはやっぱり人を殺したくないとナイフを通して伝えてくる。
 俺はお人好し、とため息をついて、ゲームに勤しむことにした。》



 多分、数日が経った。何となく、寝てはいけない気がした数日間も、もうじき寝てしまうだろうと思う。
 「永眠か」
 ポツリと哀しく呟いた。
 嫌だ、嫌だなぁ。
 だけど本当にもうやれることとか、手がない。銀の魚の意味もわかった。なにもすることがないからランプを見て、チカチカしてそれが銀色の魚に見えるんだ。銀の魚と言われていれば、それが見えると銀の魚だと思うだろうし、それがやがて本当の幻覚となることもあるだろう。
 ただひとつ、俺がそう冷静な理由を聞かれれば、思い当たる節がひとつある。
 「そんなこと言わないで」
 俺の心の支えになっていた者…

 ――信じてすらいなかった、本物の幽霊だった。


 それは、体感二日くらいが経った頃に現れた。俺のことを赤崎誠と呼ぶあの少女とそっくりな子供はなんとシュルといい、あの例の赤子だと話していた。精神的に成長した姿と聞く。
 「シュルはいるよ」
 驚きつたない言葉で返す。
 「違う、あれは弟のジェル。アタシは死にかけの魔女」
 こうとも返された。

 シュルは実に優しい人だった。
 俺は色々教えて貰った。シュル曰く、全てはジェルから教わったことらしいが…ならばジェルはこの霊が見えているのだろう。俺は死期が近いから、段々はっきり見えるようになったのだ、きっと。
 何を教えて貰ったのか?それは、ジェルやメリファさんのことだった。
 ジェルは数年前からこの孤島に一人でやって来たこと。それから、ジェルはシュルを助けに来たトリック捜査員の精神を病ませ、間接的に殺したこと。ジェルは決まって、助けた後にシュルを研究に利用するだけだ、と言い聞かせていたこと。自らの父親も殺したこと。
 「父親はアタシの為に銀の鏡を用意してくれたの。アタシはジェルに教わった言葉達で必死に鏡を壊さないよう言いつけたわ。父親の鏡は魔女のナイフと同じ効力があったから…」
 だからこそ、深夜に俺と意志疎通が出来たと笑っていた。
 「初め、貴方がジェルの後、立て続けにアタシの前に現れたときはビックリしたわ。驚いて、滑って転んでさ…あのままじゃ死んじゃうかもって思って、ジェルにお願いして、メリファが貴方を運んでくれて」
 そう聞いた時、俺はメリファさんが俺を運んだことに驚きを隠せなかった。というかその時も俺は怪しく思ってジェルの後をつけていたのか。よかった、これで理由がないと言われればいよいよ俺のモラルが危なかった。
 「メリファはジェルが落としたナイフをアタシのナイフと勘違いして、回収しなかった。その事すら隠して、さらに貴方にジェルの後をつけるよう貴方に嘘をついたのはきっと、ジェルに脅されていても貴方は助けていたいと思ったからでしょうね。」
 ナイフを改めて、今度はランプに照らしてみてみる。
 なるほど、思ったよりも掠れていたな。握られ過ぎてジェルがシュルに見えていたのだ。ポケットにあるが、ジェルの殺意がこもっていると言われ、俺はポケットにそっとしまった。貴方が持っても害はないよ、とは言われたけど、ちょっと持ちたくはない。怖い。

 ――俺は、メリファさんの過去も、トリックを利用して脅されていることも、メリファさんはここに来てからジェルに脅されていることも、全てを教わった。衰えていく体に気付く余裕もないくらい、時間が早く過ぎ去った。
 ただし、ここを出ることだけは出来なかった。
 「メリファさんは気付いてくれないかな」
「アタシ、少し上を見てきたんだけど…言葉を伝えるのに負荷をかけすぎて…鏡が割れちゃって、だから今は上手く見えなかったんだ。…でも、ジェルは地下に行くなと言ってあるだろうから、トリックと貴方を天秤にかけて、貴方を選ぶとは、とても…あっ、ごめんなさい」
「いいよ…シュルは悪くない。」
 ばつの悪そうにシュルが落ち込むので、俺は露骨に会話を変えたりもしたものだ。声も上手くは出ない体だけども。


 そんなこんなで時間は経って、俺はもう動けすら出来なかった。シュルは励ましてくれる。けど駄目だということはわかる。
 だって、もうシュルははっきりと見えてきてしまっている。

 駄目だ、俺は『あの子』に会わないと。記憶がなくなる前から、ずっとこれだけは一貫していた気がする。

 手はずっと冷たい。けどまさか、凍死じゃなく餓死で死ぬとは思わなかったな…
 俺は最期の足掻きも終えた体で、ゆっくりと目を閉じた。

 いや。
 最期に、一回。扉の前で、最期にもう一回だけ。
 俺は弱々しく、ちびちび使っていた力を全て出して扉を叩く。
 「助けて…死にたくない!出して、出せ、出して!頼むから!俺はここで死ねないんだよ!」
 出してよ…と消えかけた声は、冷えた風に呑み込まれた。



 「……!誠!」
 名前を呼ばれ、俺はゆっくり目を開ける。
 「あ…メリファ、さん?」
「ああ、メリファだ!」
「俺は…」
 まだ、牢屋だった。しかし違うのはドアが開けられ、赤い茎の花を持ったメリファさんが俺を見つめていることだ。
 「その花は…?」
「あの大木の裏に生えてた花だよ!花は凍っちまったが、それでも瀕死のやつを回復させられる。」
「そう、ですか…」
 呂律も回る。俺は嬉しさを体感しながら、そこでシュルの姿を探した。
 「ありがとうございます、メリファさん。」
「いや、詫びなければならないのは私の方だ。」
 メリファさんは目が赤い。泣き腫らした後なのだろう。
 しかし、今は…
 「メリファさん、ジェルってどこにいるかわかりませんか?」
「……ジェ…は…」
「シュルも今、ここにはいないし…とにかく、俺はジェルを止めないと。それで、シュルに聞きたいんです。なんで俺を助けたかって。あと、お礼も…」
「!誠、お前なんでそれを…」
「教えてください。ジェルは今、どこにいるんですか?」
 俺がまっすぐに見つめ返すと、やがてメリファさんは俯いていった。

 「今、私とジェルは…

 かくれんぼ中なんだ。もう、あの人と私じゃなく、ジェルと私の。

 鬼は、ジェルだ。」



 「ナイフは、私にくれないか。」
 ナイフのことを話した俺は、メリファさんに懇願された。少し悩んだが、断る理由もない。
 なんせジェルに脅されているのに俺を助けてくれたのだ。それにジェルの母親がメリファさんなら、俺より血縁者が持っていた方良い気がする。

 俺たちは地下に出る前、もう一度シュルに会いに行った。ランタンで照らすと、シュルはやっぱり俺が最後に見た時と何も変わらない。死んでいるかのようだ。
 「ごめんな、シュル…ごめんな…。」
 メリファさんはそう言って、俺達はシュルに一時の別れを惜しむ。


 地上は明るかった。眩しすぎる空に目を擦り、グッと伸びをする。
 「さて、探すか。」
 鬼を探すかくれんぼはかくれんぼというのか疑問ではあるが、それでも行かなければ。メリファさんにどこへ行くかと訪ねようとすると、そこでメリファさんの目の腫れが思った以上に酷いことを知る。
 「メリファさん…少し休憩してからでも、俺は」
「いいや、駄目だ。早く見つけないといけない。あまり私は見ないでくれ。」
 はっきりきっぱりと言われたので、俺はそれ以上は言えない。
 「小さい孤島ですからね。すぐに見つかると思いますよ。」
「ああ。…私は、やらねばならないんだ。子不孝な私がしないといけないこと。」
 私がしなければいけないこと、そういう彼女はどんな顔なのか、俺はわからなかった。


 一階から四階の全てを手分けして探しても、ジェルはいなかった。
 俺は元気だけど、ついさっきまで死にかけてたんだ。ジェルにいかなる事情があろうとも、ちょっと苦情は申し上げたい。強い恨みはないと言えば、メリファさんに昔からお前は基本お人好しと微笑まれた。俺はお人好しだったのかとわかった反面、わざと強調した基本が突っかかる。
 ここを出れたら、基本についても深掘りしようか。俺って、慌てたらやばくなるのか。前みたいなからかい口調だったので、冗談であってほしいが…

 どこを探しても、キッチンにもジェルはいなかった。
 「全然いないですね…」
「となるともう、あとは屋上しか…」
「屋上?あるんですか、そこ。」
「え?ああ。というかなんで気付かなかったんだ?梯子がかかってたろ?」
「そうだっけな…」
「観察眼が乏しいな…」
 がっかりされる。しかし四階の隅の部屋に白い布がかけられてあって、それを捲ると花畑の絵画があって、それをどかすと見つけられる梯子を初見で見つけろはそもそも基準が高い。

 真っ白な梯子を、メリファさんが先に上がる。俺も続けて上がろうとした時、どかした絵画の前に少女の幻覚が見えた。

 一瞬過ぎて、ジェルか霊体で成長していたシュルかはわからない。あるいは、どちらもかもしれない。
 「あの絵は、きっとジェルに向けて贈られたものだろう。誰が、かはわからない。父親か、ジェルがお世話になった人か…シュルもきっと、大切にしてくれそうな絵だな。」
「わかるんですか?」
「なんとなくだよ。ジェルが、シュルが…私と趣味が同じなら…な。」
 そうして目に焼き付く絵画は、俺も好きな色合いだった。


 屋上は学校のようにひらったく、楕円形の地面の中央だけは水色のタイルだった。
 その奥に、肩から先の腕を全て放り投げる形で複雑な形をした外壁から外を眺めていた。
 つまりは、城を象徴する屋根の複雑な見た目は飾りで、このお城は楕円形の筒上の建物だったんだ。

 「まだ、数えてます。逃げなくて良いんですか?あ、それじゃ鬼ごっこか。一万四千六十二、六十一…」
 声が聞こえた。
 いったい、どこから数えてどこで終わるのか。きっと今、適当に思い付いたんだろう…多分。
 ジェルは俺が外にいることにも驚かないで、また海を見て潮風で髪を乱している。

 二人はやがて、ぼんやりと会話を始めた。
 「……俺はこの瞬間のために沢山の人を殺しました。メリファったら、魔女だというだけであっという間に重役について、中々思い腰を上げなかったものですから。俺、トリック以前に親なら真っ先にシュルに会いに来ると信じてたんですがね。」
「それは…すまないと思っている。言い訳なんてしない。俺は逃げていた。誠の教育係だのなんだので、忙しいふりをしていた。呪いのかかった海を越える方法を見つけたのは、私だというのに。いや、それすらも私は…昔からわかっていたはずなのに」
「そのせいで、沢山の人が死にましたね。貴女さえ殺せれば、俺はトリックの赤崎誠も、あの男ですら赦そうと考えてたんです。」
「…………」
 ゆっくりと、ジェルは振り向いた。彼もやっぱり泣いたみたいだった。
 「メリファとあの男のかくれんぼはつまらなかった。すぐに見つけてしまうのだから。」
「悪趣味だったな。」
「ふふ、褒め言葉ですよ。俺は貴方を苦しめたいから。」
「あー、知ってるさ。」
 ぶっきらぼうにメリファさんは返す。そんな姿を面白く思ったのか、シュルはわざとらしく声を高くして笑う。
 「赤い桜の下には死体が埋まっている。そのお陰で赤崎誠の命も助かって、良かったじゃないですか。」
 俺の観察眼が悪いのだろうか。今、一瞬だけ俺に向けられた視線、それは本当にジェルが安堵したように見えたのは。
 俺が生きていて良かったと、思ってくれていれば嬉しいことはない。

 …………
 ひとつ、気になったことがあった。
 シュルの言い方が気になっていた。
 シュルは、ジェルは父親以外は間接的、直接殺したのは父親だと言っていた。
 …その死体は、燃やしてはいないのだろう。
 もしかして、メリファさんが泣いた原因はこれかもしれない。
 俺の命を助けてくれた、赤いアレはもしかして…

 「なあ、ジェル。」
 冷たくて、哀しくて、冷えた声。メリファさんはゆっくりとジェルに近づいた。俺は二人の邪魔にならないよう、しかし端から近づいてみる。

 ずっとずっと、この親子は哀しい会話を繰り返していた。
 尽きない思いと恨みが、俺にまでひしひしと伝わってきてしまう。

 「私はお前を見捨てた。捨てた。大事な子供だったのに。」
 カツリとヒールが白いタイルから出る。
 「でも、メリファは後悔していない。お前が嬉々として選んだんだろ。不幸な魔女として、幸せに生きてさ。」
 冷たい目が空気を冷えさせる。
 「私は怖かった。誰かが死ぬのが。人のジェルはすぐに死んでしまうから。」
 水色のタイルに影が現れる。
 「それがなんだ。だからシュルを見捨てて良い理由にはならない。」
 長い髪が、靡く。
 「私はずっと苦しかった。一度たりとも、シュルが死んだと考えることは許されず、逃げた愛すべき人への恨み言とジェルへの責任から逃げた苦しさで、毎日死んでいたようなものだ。」
 ポタリと涙の音がしたのは、きっと聞き間違えじゃない。
 「それで!?シュルはずっと瀕死のまま、拷問を受けていた!意識だけは赤ん坊から子供へとなるのに、ずっと痛みを負ったまま!死んだ方がよっぽどましだ!」
 恨みを抱えた少年は母親にゆっくりと近づいた。
 「俺は何度願ったか!俺がお城についた時、シュルが生きていたと見えた時、俺は絶望したね!俺が暖かい場所で、涼しい場所で過ごしていた時、シュルはずっと、ずぅっっーと熱さと寒さに殺されたいた!シュルは俺が話しかけるまでずっと、涙も出さずに声も出さずに苦しんでいた!言葉も知らない、悲鳴も上げる気力もない子供が!」
 彼は、シュルのナイフを振りかざした。

 咄嗟に止めようと手を伸ばしたが、大分遅い。俺より先に、シュルが動いた。
 シュルのナイフは誰を傷つけることもしたくない。ジェルはそのまま体制を崩した。
 「どうして、シュル!姉さんを苦しめたのはこいつなんだ!こんなの母親でもない!死んでしまえばいいんだ!」
 訴えかけるようにナイフに語る。そんな様子をメリファは冷徹な目で見ていた。
 「私は家族を傷つけたくないと、ナイフは持ってこなかった。だが、持ってくれば良かったな。」
 そのナイフは俺が渡した、ジェルの…
 「待って、メリファさ…」
「ナイフごときの意志なんて、大人になればねじ伏せられるんだよっ!」
 メリファさんはナイフを振り下ろす。四つん這いになっていたジェルは咄嗟にナイフを縦にした。
 「んなっ…」
「…ありがとう、シュル。メリファ、俺のナイフとシュルのナイフはあんたの意志より強いようだな」
 アハハっと、ジェルはナイフの隙間から顔を覗かせた。
 二人は、ナイフで親子喧嘩をしていた。どうやっても対応できないし、俺の拾った銀の鏡もシュルのものだ。使いたくない。
 「ジェル、貴方は間違えた。私を殺すにとどまれなかった!回りくどく、沢山殺した!誠だって、本当にシュルを助けるため任務を受けたかもわからない!」
「はあ、なんだよ!」
「誠が何故気が狂うで有名な孤島にわざわざ来たのか、私も理由は知らない!わかるか!?孤島だけじゃない、魔女だけじゃない、私だけじゃない!ジェルがしでかしたことは、沢山のものをおかしくしてしまった!」
「それは、あんたが俺達を守らなかったからだろ!一人だけ幸せになったからだろ!」
 二人とも、必死だった。沢山の言葉をぶつけ合い、涙をポロポロ出している。
 赤い血は出なかった。
 それでも服の裂く音、ヒールが地面をずらす音、全てが見ていてつまらない。

 つまらない?

 何が、つまらないのか。
 いつか見た劇のようなこれを、俺はあの時のハラハラもなく不快に感じていた。

 ――俺は、やがて一秒ごとに違和感を身に纏う感覚に気付く。
 すぐにそれは、しっかりとした俺の意見となった。

 そもそもこの喧嘩は、本当にメリファさんとジェルの喧嘩なのか?
 決して人を殺したくないシュルのナイフと、ジェルは殺さないジェルのナイフ。
 その二つの意志には勝てないメリファさんと、シュルの思いには勝てないジェル。
 なら、この喧嘩は、シュルの思いを踏みにじろうとする、親子の喧嘩だ。シュルとジェル、メリファさんが喧嘩しているようなものだ。
 俺を支えてくれた、シュル。
 そんなシュルの気持ちを、シュルのためだという二人が踏みにじっている。

 ……俺は…

 「うわっ!」
「やめろ、赤崎誠!」
 走りだし、二人の腕を掴んだ。
 そしてナイフを持つ手を強く握り、無理矢理離させる。
 「すみません…止まって貰いたかったもので。」
「部外者は来んなよ!」
「いや、俺ももう部外者じゃない。ジェルが殺そうとしたんだからさ」
 ジェルを黙らすと、今度は諭すようにメリファさんに言われた。
 「誠、離してくれ。もう駄目なんだ。私達は、殺し合わないといけないんだ。」
 ああ、メリファさんまでそういうのか。
 「……いい加減、気付けよ」
 堪忍袋の緒が切れました。敬語調の文が、頭をよぎる。

 「お前ら、どれだけシュルを苦しめんだよ!いい加減気付けよ!!」
 全て吐き出してやる。
 「恨み言とか私情とか、お前らが傷付けようとするたび、全部シュルが守ってくれてるんだろ!この喧嘩は一生終わらないぞ!誰が悪いとか、誰が死ぬべきとか、それ以前に見ろよ!シュルはどんだけ死にかけでも、苦しくても、哀しくても、誰も殺したくないと訴えてるんだぞ!」
「シュルは餓鬼だ。何も知らない…だから、単に殺したくないって思いだけで動いてるんだ」
「だったらなんだよ!?それで良いだろ!?純粋なんだろ!?なんで世間を知ってるお前らが、そんな優しさを踏みにじろうとするんだ!」
 いい加減、気付け。誰が一番辛いのか、とか、誰が一番悪いとか、そういうもんじゃない。
 もう遅すぎるんだ。それでもまだ、シュルだけは全員の命を助けようとしていた。
 たかがナイフと言われたそのナイフこそ、俺も、ジェルも、メリファさんも傷付けたくないと頑張っていた。

 ――もう、止めてしまえ。
 俺の両手は、二人のナイフを避けられず血が出てしまった。否、それだけで終わらせた。痛くない。
 カランと落ちたナイフ達は、俺の血がつく前に、銀色のまま、反射していた。
 「守ってやれよ…」
 誰を、なんて聞かれなかった。
 俺が泣くように呟くと、二人は押し黙る。手を離したが、二人ともナイフを手に取ることはない。

 俺は恐る恐る、口にする。
 「ねえ、二人とも。まだシュルの体はあるじゃん。二人で協力すれば、シュルを氷から出すことは出来ないの?勿論、俺だって協力するし…!」
 しかし、二人とも俯き加減で俺を見ない。
 代わりに知ったのは、衝撃の事実だった。
 「……私がかけた魔法は、強力だった。私が全力を尽くしても、あの氷は溶かせない。」
「……俺はこのお城ごと壊そうと考えた。けど、海に沈めばそれこそシュルに最悪を与えてしまうのですよ。」
 溺れ、喰われる悪夢が、と。
 「あーあ。自覚してしまいました。はっきりと、言われましたね。」
 ジェルは哀しそうに呟く。わずかな希望は、今、二人が意思を合わせることで打ち砕かれたみたいだ。
 そう、か…
 俺は声が出なかった。

 今のは、俺が悪かった。
 この二人がまずシュルを助けられるなら助けているはずなんだ。それでも出来ないからこそ、こうなった。
 今さっきのは、生きた人間の愚かな罪滅ぼしだったんだ。

 二人は各々、放心状態だった。メリファさんは崩れ落ち、ジェルは立ち竦んで。
 俺は何か、何か出来ないか。
 まだ何か、出来ることはないか。
 「俺は…」
 そっとポケットの鏡を掴む。
 それは、あの鏡の、一番大きな破片なはずだった。

 鏡を見ると、ああ、やっぱり。

 俺の後ろに、ほんの僅かに少女が写っていた。
 俺が安堵した顔だという違和感気付いた二人は、一緒に顔を覗き込む。
 そこには徐々にはっきりとするシュルが映っていた。

 ゆっくり、ゆっくり。
 シュルが笑っているか、泣いているか、怒っているか、馬鹿にしているか…
 「「シュル…」」
 ジェルはもうシュルのことが見えていないのだろう。そもそも、どこでどうやって見ていたかすらわかっていないのだ。鏡を通じてかもしれないし、ナイフを通じてかもしれない。あるいは両方あるのかも。
 そして、メリファさんは元々ジェルが見えていないようだった。
 つまり、これで最期になるかもしれない。
 『助けられない』と口にした今、メリファさんはシュルは死んだと意志を曲げる。
 確かにそう感じた。
 俺がどう思おうと、そもそも魔法使いでも、その血縁者ですらないのだろうから許されない。
 出来れば感謝をしっかり伝えたかったけど…まだ、間に合うのかな。
 しかし、この二人の前に、俺が何かを口にすることは阻まれた。

 出来れば笑っていてほしい最期のシュルの顔が、もう少しでわかる、その時だった。

 本当に、表情がわかりかけたその時だった。

 俺の目の前、メリファさんのすぐ横を何かが通りすぎた。ジェルと鏡とが、俺の前から無くなる。
 「アッ…」
 通り過ぎたものを目で追うと、それはこちらを見上げた。

 銀の鱗をしていた。目はギョロリと大きく、黒目が白目の何倍もある。大きさは、実にあの大木くらいだろう。魚であるが故にこちらは見上げてはいたが、その顔が不気味でしかたがない。
 まな板の上の鯉のようにじたばた跳ねる、大きな魚。ネックレスをした、大きな魚。
 「その、ネックレス…!まさか…!」
 メリファさんは目を丸くして言う。
 『銀の魚』と。
 「銀の魚…!?幻覚じゃなくて…!?」
「…………」
 そういえば、一人だけ生きて帰ってきた人がいるらしい。
 少しだけ疑問だったんだ。
 銀の魚は何故一人が言っただけなのに大騒ぎしていたのか。俺でもわかるようなことを、凄そうなトリックの誰か一人は解明出来なかったのか、と。
 さらに、ジェルが毎度俺のいた牢屋でトリックの誰かを殺していたなら、声くらいは聞こえたはずだ。そのトリックの人物が「魚が見える」といえば、それはメリファさんのいう『銀の魚』だと考えるのではないか?
 ジェルが言っていた魚の大群と、メリファさんの銀の魚が互いに違う現象なら…
 あるいは、銀の魚にふさわしいのはどちらもかもしれない。
 と、悠長な解析が終わる頃、銀の魚は鏡とジェルを吐き捨てていた。
 間も無く彼はムクリと起き上がる。
 「「ジェル!」」
 俺達が駆け寄ると、ジェルは淡い笑顔を浮かべた。
 違和感があった。

 その顔は、ジェルのようで、ジェルじゃない、そんな…
 「あ、お母さん…それに、誠。」
「へ?」
 俺達は揃って目を合わせる。
 なんたって、ジェルはメリファさんのことをお母さんとは呼ばないし、俺のことも名前ひとつで呼ばなかった。

 まさか。
 「な、ねえジェル、大丈」
「ジェル?アタシは、シュルだよ。」
「…………あ…………」
「なんで…」
 ジェルは行きなり体をおさえ、手で目を覆う。そして叫んだ。
「シュル?いや違う、俺はジェルだ。え?ジェル?本当に?俺は?アタシは?どっちだ?俺は…妹だった?」
「そんな…ジェルだ!お前は私を憎むジェルだ!」
「へ?アタシ、アタシは憎んだこと無いけど…お母さん、大好きだもん!」
 無邪気に笑う。そしてまた叫ぶ。その繰り返し。
 やがてメリファさんは何を言うか悩むように、なにも言わなくなった。人形のように、絵のように。

 おかしくなる。
 俺は慌てて鏡を拾った。魚は、いつの間にか姿を消していた。さっき波の音がしたから、海に帰ったのかもしれない。
 鏡には、俺以外の誰もいない。笑えるくらい驚く俺しかいない。もしかして、シュルの中にジェルが知らずに融合されたのか?
 馬鹿な推測を疑いきれない。
 とにかく、それは駄目だ!
 俺はジェルを連れて帰ると約束したのだから。シュルのことは、後で考えれば良い。
 「違う、ジェルだ!君はシュルじゃない!」
「え…そう…でしたか?」
「ああ、思い出して…」
「待て、誠!」
 グイッと袖を掴まれる。
 「何ですか!」
 苛立ちを隠せずに俺は言う。

 …が、すぐに俺は青ざめた。

 メリファさんは、薄く笑っていた。

 「これが…シュルだったら、最高じゃないか?」
「…………な、なにを?」
「シュルを助けるのには、これしかない…」
「だからって」
「誠は知らないだろうが、ジェルは私を殺したあと、死んでしまおうと言っていた。だったら、もうこれで…」
 なにを。
 馬鹿なことを。
 「駄目に決まってるでしょう!シュルもそんなこと望んじゃいない!」
「…その望みすら、わからない。シュルはきっと、ジェルの体ということすら知らないはずだ…」
「だから、なんで…」
 駄目だ、駄目だ。

 「俺は、シュルにジェルを助けてと言われたんだ!!」

 ――いつ?

 思わず出た言葉は、全く聞いたことがない台詞だった。

 それでも、聞いたことがある。

 どうしようもなく、気持ち悪い。

 ペタリ。

 悩んでいる俺の頬に、ベタついた何かがつく。

 この、ヌメヌメしたものは…

 恐る恐る振り返る。
 跳び跳ねて、ジェル達のように食べてやろうと、口を開けて近づいていた。



 銀の魚の目に映るのは、俺だった。



 俺だけだった。



 「あーあ。はあ、やり直しかぁ。」
 『僕』は倒れ込んだマコトを見下ろした。
 止まったこの場所で、ずっと持つ嘆きを呟く。
 「何度やったって、僕は彼に覚えられないんだよなぁ。だから、間違える。ゴールに届かない。馬鹿らしいよなぁ。」
 僕はマコトの頭を撫でてみる。うーん、なんにも感じないなぁ。暖かくも、冷たくもないや。
 眉を潜め、唸る彼はしんどそうだ。
 この頭は何度あの苦痛を繰り返しているのだろうか。そして何度繰り返しても、僕のことはちっとも覚えてくれなかった。

 死んだようなシュルを見て、滑って転ぶ。あれで記憶が飛ぶ。
 しかしあの時転ぶことを阻止しても、何故か彼は記憶を失う。
 それを知ってから、僕は繰り返す時は転んで記憶が戻るところからにしていた。だって、それ以前はいつも基本は同じだから。枝葉末節で違いはあれど、ねぇ。
 そうすると、一回ごとに少しずつ覚えていることが多くなった。
 この調子なら、僕を忘れずに目覚める日も幻覚じゃない。
 忘れなかったら…
 これは終わる。繰り返しも終われる。
 そしてなによりきっと、一生僕を覚えてくれる。
 それこそが、僕の目的が達されたと言えるだろう。
 覚えてほしい、僕のことを。
 基本的にお人好しで小さなことなら他人に流されやすく舐められやすくて、本当に大事なところでは自分の意思が強くなる彼を。どこまでもお人好しなと彼を。今回彼にシュルが助けをも止めなかったのも、記憶を取り戻しつつあり、迷いが減ってきたマコトには求めるまででもないとシュルが判断したからだろう。
 「大丈夫、マコトは死なないよ。だから、もう一回、行こう。僕は何度でも付き合うよ。」
 彼は何も言わない。銀の魚に苦しめられ、歪んだ顔を浮かべるだけだ。
 『あの子』に会いたいだろう?会うためにはまず、思い出さなくちゃ。
 「僕はこんなお城を創り上げた、神様さ。マコトはいつか、崇拝者になってよね。」

 さあ、目覚める前に。
 また戻ろう。



 「あっ、起きた!」
 ぼんやりとした視界には、見慣れない二人が映っていた。
 「えっと…」
 あれ、俺は。
 俺は誰だっけ。
 「赤崎誠!」
 ああそう、そんな名前だった。
 俺は赤崎誠、年齢は二十一歳、誕生日も覚えてるし、職業は今は訳あって『トリック』ってところに。

 ……それで?

 俺は何を忘れて何を覚えているのか。
 俺は何をしようとしていたのか。
 俺は誰かを助けなければいけない。
 『連れ出さなければならない』
 誰を?何で?
 俺は、他に何を覚えている?



 俺は、何者だ。
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