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CASE10 傷痕

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エドガーがおかゆを用意してレオンが椅子を用意し終えた。


私の前はゼロさんのまま。

私の隣はアゲハ。

アゲハの前はレオンで、アゲハとレオンの横にあたるお誕生日席はエドガー。


そんな座り順に落ち着いた。



「遅くなって、ごめんね」


思ったより時間が経ってからアゲハが現れて、空いた席が私の隣だけだからそこに座った。




「食事の前にいいかな?ちょっとだけ、、」


レオンがおかゆをよそっていて、エドガーがお茶をコップに注いでいる時に

アゲハが俯きながら声をあげた。


「どうした?」

レオンが手を止めて座り直したら、アゲハは膝に置いていた手に力を込めた。



「昨日……酷いことを言って、、ごめんなさい」


俯いたまま、身体をカタカタ震わせて謝ったアゲハ。


みんな驚いた様子だったけど、すぐに表情が和らいだ。



「気にするな!本心じゃないことくらい、全員分かってるって!」

レオンはそう言ってゼロさんに同意を求めた。


「誰かさんは真に受けてショックだったみたいだけどな」

ゼロさんはそう言いながらエドガーを見てて。


「そうだけどっ!!アゲハが我々を信用しないわけないってすぐに分かったから!!」

エドガーは慌てて訂正していた。


全員、アゲハの言葉に救われたみたいで空気が一気に明るくなった。



「とにかくお前ももう気にするな!俺たちも気にしないから。さっ、メシにするぞ!」


レオンの言葉を聞いて、固く握りしめていた手は力が抜けたようだった。



レオンがおかゆを配ってエドガーがお茶を配っていたけどさ

私とアゲハ以外、みんな元気だよね?


なのに全員おかゆにしてもらって、ちょっと申し訳ない気がするよ。


やっぱりアゲハは手を出そうとしなかったから私が先に一口食べて、スプーンごとアゲハに渡した。


「美味しいよ?ちょっとしょっぱいけど……。ちょっとだけ食べてみなよ」


私が差し出しても受けとる気配がなかったから、テーブルに置いてある物を強制的に私とチェンジした。

みんなは何してるんだ?って顔をしながらもアゲハが食べるか食べないかを注視していた。


少ししてからお椀を持ってスプーンで掬って

口に運ぶまで時間がかかったけど、少しだけ、口に入れた。



ようやく何か食べられた姿を見て私がホッとしたら、アゲハの目が見開いた。


「これ……エドガーが作った味、、」


……え?分かるの??

エドガーって、料理できそうにないイメージだったけど……これはエドガー作?



「さすがアゲハ!私の味を覚えていたんだね!!」


エドガー、めちゃめちゃ嬉しそう。


ってか本当にエドガー作なんだ。



「一番優しい味がするから……」


一番優しい味?

私はまぁまぁしょっぱい方だと思ったよ?



「全然優しくねーよ、塩分過多」


私が言えなかった言葉はゼロさんがあっさり言っちゃった。


「ゼロは甘くない人だからちょうどいい味だろ?」


「おかゆって普通薄味じゃねーの?」


エドガーとゼロさんのやり取りを聞きながら、アゲハはまた一口、口に運んだ。



結局、私は全部食べられたけどアゲハはほとんどの残していた。

たくさんあったおかゆも文句を言いながらもゼロさんがたくさん食べていたし、気づいたら鍋の中は空になっていた。



食後はお茶を飲みながらゼロさん・レオン・エドガーの三人がほとんど喋っていて、私がたまに口を挟む。


そんな光景をアゲハは無表情で眺めていたけど、突然静かに涙を流した。


「どうした?何かあったのか?」


エドガーに聞かれたら首を横に振って目元を袖で拭ったけど涙は止まらなかった。



「……なんでも、ない。部屋に戻る、、」


そう言って立ち上がろうとしたアゲハの腕を、エドガーが掴んだ。



「なんでもないはずがない。キチンと話してほしい」


エドガーが真剣な顔で訴えたけど、首を横に振って手を振り払おうとした。

だけど、フラフラな状態のアゲハだとエドガーの手は振り払えるわけなくて。


「時間はあるんだ、ゆっくりでいい。アゲハの話を、聞かせてほしい」


エドガーは優しく声をかけたらアゲハから力が抜けた。

もう振り払おうとしないだろうし、立ち去るとも思えない。


だから、エドガーも手を離して、アゲハが話始めるのを待っていた。









「ずっと、ここにいたいなって、、そう思っただけ……」

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