上 下
21 / 342
CASE2 同調-シンクロ-

13

しおりを挟む
――――――――――

――――――――――



ニャンさんは“時の魔法使い”だった。

ユートピアで数少ない魔法らしく、光の魔法同様に人を移動する事も可能。

一応ルール的なのはあるらしいけど……ニャンさんは別の地下の居住区に全員を移動させた。



アゲハを治療したのもニャンさんとルーラのおかげ。

ニャンさんがアゲハが助かる可能性がある時までルーラとアゲハの時間を戻して、ルーラが小刀を抜いてから治癒の水で傷を塞いだんだって。

時を戻す魔法はかなり高度な技らしく、数年間は使えないだろうって話してた。


「傷は塞いだだけ。私はそんなすごい魔法は使えないからこれが限界。あとは本人次第だけど大丈夫じゃない?新人類なんだから」

ルーラは心底やりたくなかったって様子だったけど助けてくれた。



だけど、もちろん他のみんなの目は厳しくて。

私はアゲハが寝てる部屋から一歩も動かないしアゲハが起きるまで寝ないって決めた。

何が起きるか分からない。そんな空気でピリピリしていたから。




「井黒くん、起きないね…」

桃華と辛島くんも私に付き合って同じ部屋でアゲハが起きるまで待機状態。

たまにうなされて苦しそうにしてるからアゲハの事を放っておけなくて傍にずっとついていた。

「マジで色々言いたいことも聞きたいこともあるけど…それ、本当に井黒?別人みたいだけど……」

「どう見たって井黒くんでしょ!」


馬鹿なの?って言いたげな態度で桃華が聞くから辛島くんが舌打ちをした。


「見た目じゃねーよ!虹野と空から落ちてきた時に魔法で衝撃をなくそうとしたり、でっかい声あげて指示したり……そんなヤツじゃなかった気がする ……」


辛島くんはアゲハをよく知らないから。

だからそう思うのかな?


「私からしたら、アゲハらしい行動だよ。優しい人だから」


「優しい人は私を刺したり両親を殺したりしない」


ルーラにそう言われると返す言葉がなくなる。

どうしてなのか、本人に聞くしかないよね。




アゲハの傍で、手を握りながら起きるのを待っていたら少し、手が動いた。


「アゲハ……?」


顔を覗きこんだらゆっくりと目が開いて、視線は私に移った。


「おはよう、そら」


そう言って私の頭をポンって撫でた。


小さい頃、アゲハが起きるといつもそうだった一連の流れ。

ただ寝てるだけでも、もう起きないんじゃないかって怖くて……だから起きたら必ず挨拶をしてから頭を撫でて慰めてくれた。

だって毎回、私が泣いてるんだもん。

一人で勝手に不安になって、勝手に泣いてるだけなのに。いつもアゲハは謝って慰めてくれる。


「ごめんね。もう泣くなって……大丈夫だから」

「私がっ!大丈夫じゃないのっ!!」

「こんなに泣く姿見たの、久しぶりだなぁ……最近はかっこいい空しか記憶にないのに」


かっこいい私ってなんなんだよっ!?

って普段なら言えるんだけど、今は無理。



だって普通に話してるんだよ?

生きてるんだよ?

私が、殺そうとしたのに。




「色々話そうか、お互いに」

私が泣き止んで落ち着いた頃、アゲハが静かにそう言って身体を起こした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

幼馴染みに恋愛感情がないのは本当みたいですが、だからと言って何をしても許されるとは思わないでくださいね。

ふまさ
恋愛
「女性の中で一番愛しているのはきみだけど、すべての人間の中で一番好きなのは、アデラかな」  婚約者のネイトは何の悪びれもなく、そう言って笑った。  ネイトの元恋人から、どうしてネイトと別れたのかを聞かされたエリンの心が揺らぐ。けれどネイトは、僅かに残る想いを見事にぶった斬ってくれた。 「ねえ、ネイト。わたし、公爵令嬢なんですよ。知っていましたか?」

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...