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3章

21 幻の魔法

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長い悪夢を見ていた。
ヴァイザーがグレンツェに剣を向け言い放つ。

「無魔力など価値がない、二度と私の前に現れるな」




「っ、!!」

目を覚ませばそこはグレンツェの寝室だ。
(私、建国祭の式典に出てたはずなのに、、)

「っ、いたっ、」

起き上がれば激しい頭痛とめまいが襲う。
(何をしていたんだっけ、、貴族の方に挨拶をして、、、そうだエティーナさんにっ、!)

そこでだんだんと建国祭のことを思い出してきた。
(旦那様はなんて思ってるんだろう?やっぱりエティーナさんと結婚するのかしら、、)

グレンツェはヴァイザーと今後どうなるのかが心配でそのことだけがぐるぐると頭の中を回っていた。しばらくベットの上でぼーっと考えていれば扉が開いた。

「奥様!!目が覚めたのですね!!」

「レイ、、」

レイは目に涙を溜めながらグレンツェの方へ駆け寄ってくる。

「本当に心配してたのですよ、、!3日も目を覚まさないんですもの!」

「3日!?」

どうやらグレンツェは相当寝てしまっていたらしい。

「はい、魔力に当てられすぎてしまったようで中々目を覚まさなかったのです、、。あっ!そうだ!当主様にお伝えしなければ!!少々お待ちください!」

慌ただしく部屋を出ていったレイの背中を見守りつつこれから来るであろうヴァイザーになんと言われるのか不安でグレンツェの目には涙が浮かぶ。
(どうして、、今すぐ追い出される訳じゃない、)

そう頭の中では考えるのに涙は止まらなかった。心の奥底でヴァイザーを取られたくないと叫んでいる。本物の愛はいらないから捨てないで欲しいと。
ぽたぽたとこぼれる涙は握りしめたこぶしに落ちては滲んでいった。
(早く泣き止まなきゃ、旦那様に迷惑だわ、、)


「何をそんなに泣いている?どこか痛いのか?」

「っ!」

声をする方を見ればヴァイザーが心配そうにグレンツェを見ていた。

「だん、、ヴァイザー様、なんでもないのです」

グレンツェはヴァイザーに笑いかける。

「無理に笑うな。呼び方についてもエティーナになにか言われたか?」

「っ、いえ、何もありません、」

本当はここで言ってしまいたかった。エティーナに言われたこと、そしてエティーナの元に行かないで欲しいこと。でもそんなことを言えば確実にヴァイザーを困らせてしまうとグレンツェは分かっていた。
(旦那様は優しいもの、、)

「何も無くてなぜこんなにも泣いているのだ?」

ヴァイザーはグレンツェの頬に手を添えると涙を拭うように優しくまぶたにキスした。

「っ、!旦那様っ!?あっ、、」

「そう呼べと言ったはずだ」

ヴァイザーはまたまぶたにキスをし赤くなったグレンツェを見つめる。

「すまなかった。私の隣にいれば安全だと言いながらグレンツェから目を離した、私の失態だ」

「いえっ、そんなことはありません」

「エティーナがしたことは許せない、だが他にもいろいろ問題があってな、、エティーナはシュバルツ家で一応協力関係でもある。むやみに罰することも出来なければ利用されていた可能性もある。まぁグレンツェを利用しようとしたのはエティーナだが、」

「だ、旦那様は、、エティーナさんがす、好きなのではないですか?」

「エティーナがそう言ったのか?」

「いえっ!ですがとてもエティーナさんを信頼していたように思いましたし、、」

「確かにエティーナは小さい頃から一緒だったが私が好きなのは、、、っそんなことよりもグレンツェに想い人がいるというのは本当か?」

ヴァイザーは急に真剣な顔になるとぐっとグレンツェに迫ってくる。

「え、あっ、いや、いません」

(旦那様のことは自分でも好きかどうか分からない、そもそも誰かを好きになったことなんてないもの。旦那様はなんというか、特別?な気持ちだ)

ヴァイザーははぁーと深いため息をつくと言った。

「まぁ、誰にも渡すつもりはないが」

「え、?」

「私の妻はグレンツェしかいないということだ」

「え?でもエティーナさんが『運命』として、、表向きのつ、妻となるのではないですか?」

「そんなことあるわけないだろう、全てまともに受けるな。信じるのは私の言葉だけでいい。」

「っ、はい、、!」

(旦那様の隣にいられるってことよね?うれしい、、)

グレンツェは安心のあまりまた涙が溢れた。

「泣くほど私の妻になれることが嬉しいか?」

「はいっ!!」

からかうように言ったヴァイザーに対し真剣な返事をしたグレンツェは嬉しさと安心でヴァイザーが顔を赤くし俯いていることに気づかなかった。

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