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第8話ルクシオ・クルーゼという男の本気2

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フィアナから報告を受けたルクシオとガルドは里の中央広場に向かった。

そこには既に武器を手にし緊迫した表情を浮かべるエルフの戦士達がいた。

誰一人として会話をしていない。

表情と雰囲気が、如実に事の重大さを示していた。

リベア討伐作戦のリーダを務めるガルドが姿を現した事により、皆恭しく道を開けた。

役者が出揃ったところで。

「お主たち、よく集まってくれた!只今より、リベア緊急討伐作戦を決行する!お主達がこの里の最後の砦。どうか頼む」

族長が声を張り上げて言い放った。

リベア……大陸の超危険指定モンスターに名を連ねる、災害級のモンスターだ。

名前にベアが入る通り、外見は熊だが、体躯が他の熊とは逸脱している。

体躯は固体にもよるが平均8メートルを超え、口からは恐ろしく剝きだした牙。
どんな岩でも砕き、切り裂く爪。

リベアは特定の群れを作らない、単体で行動する。

しかし、単体でも十分な脅威で一説によれば、小さな国がリベアの侵入を許し、半壊寸前まで侵略されたそう。

まさに化け物だ。

皆事の重大さを改めて理解し、額に汗をかく。

「ガルド、後は任せた」
「はい族長」

族長からバトンタッチを受け、ガルドが表情を渋くして言う。

「お前達、作戦を考えるぞ」

そう。今回のリベア討伐作戦は、ある意味奇襲という体だが、未だ具体的な作戦は決まっていなかったのだ。

エルフの戦士達は項垂れる。

いい案なんて浮かばないと言った様子だ。

エルフの戦力は個々一人一人の戦闘能力は高いがいかんせん人数が少ない。

戦場は鬱蒼生い茂る森の中で行われるだろう。

足場が悪く、木々が所狭しと並ぶ森林では長モノは得策とは言い難く、リベアが捕食する獲物を狙って別の魔物もやってくるだろう。

混戦は免れない。

作戦は戦闘の肝であり、全てだ。

その重責を自ら進んでする者などいるはずもない。

唯でさえ、各々の家系のやり繰りや仕事などで疲弊している中で、プレッシャーをわざわざ被る事はしない。

万全な状態でなければ、妙案は浮かばない。

誰も発言はせず沈黙が流れた。

「ガルドさん」

ルクシオが手を挙げた。

まさか立案者が現れるとは思っていなかったのか、ガルドは少し狼狽するも、呼吸を整えて促した。

「ルクシオ」
「俺に……策があります」

皆、ルクシオ・クルーゼという男の本気を知る瞬間は、もう直ぐだった。



◾️◾️◾️



現時刻、太陽が天の頂上を翳す今、リアス大森林は伝説に恥じない、不気味な雰囲気を漂わせていた。

それはまるで、おどろおどろしい闇が息を吹き返したかのように。

エルフの里から500メートル離れたそこで、ルクシオとフィアナとガルドは最終打ち合わせをしていた。

「本当に、うまくいくのか?」
「それは皆の働き次第です。確証は持てませんが……やるしかないでしょう」
「ルクシオ様。本当に、身の危険を感じたら直ぐに逃げてくださいね」
「フィアナ、もし俺が逃げればこの作戦は機能しないよ。慎重にやるから、安心して」
「……分かりました」

フィアナが渋々といった様子で了承した。
フィアナとしては、自分の主人にして伴侶のルクシオが危険に晒されるのは気が気ではないだろう。

事実、本作戦の肝を務めるのはルクシオであり、最も危険の高いのもルクシオなのだから、フィアナの心配は当然と言えた。

「リベアを確認した!ルクシオ、そろそろ出番だ!」

森林の中でも一際高い木の上から、リベアを偵察していた兵士から目標の登場を確認した。

「それではフィアナ、ガルドさん。二人とも無事に」
「ああ、お前もな。それじゃ後で」
「 ルクシオ様、本当に、お気をつけて」

ルクシオは行動に移る。

木々が薙ぎ倒される音を頼りに近づけば、目標は思ったより近くにいた。

想像以上の体躯に異常に発達した爪と牙。
地面を踏みしめるたびに地を揺らし、紫がかった瘴気を引き連れて、リベアは歩行していた。

ルクシオの頰を汗が伝う。

ルクシオはリベアの前にのそりと出る。

それに気づいたリベアは飛んで湧いたご馳走を愛でるように不敵に笑った。

「……はぁー」

深呼吸。

瘴気が肺に入り嫌悪感があるものの、
意外と、落ち着いている。
ミリアに拒絶されるまでは、魔獣に憎しみを抱いていた筈なのに、今じゃそれはない。
高ランクの魔獣と戦うのはこれが初めてだ。
昔は、確かに魔獣の全てを駆逐するんだと息巻いていたから、決して鍛錬を怠る事はしなかった。

大丈夫、やれる。

「やーい!そこのデカブツ!テメェ森の中で何してるんだ!無駄にデカいくせに無駄に食うから、こっちは迷惑してんだよ」

明らかな挑発にリベアは怒りを露わにし、巨大な爪をルクシオ目掛けて振りかぶった。

ドンッ!

おおよそ、爪を地面に立てたとは思えない轟音が響いた。

ルクシオはうまく回避したが、さっきまで自分がいた場所が。

地面が盛り上がり、爪から放たれただろうカマイタチの後が散見され、戦慄する。

が、ここで怯んではならない。

リベアが攻撃をしてきた、つまり怒りの限界。感情高まっている訳だ。

その時ほど、挑発は絶大な効果を発揮する。

「はっ!なんだ今のへなちょこな攻撃は!弱い、ぬるい、遅いわ!」

(全然そんな事ありません!なんだよ今の碌に力入ってない攻撃でも地面が砕けたぞ!もし当たったら、体が引きちぎれて世界から永久退場してたな。……恐ろしい)

「オラオラどうした!かかって来いや!?」

リベアが極太の両腕を大きく振りかぶってこちらを追ってきた。

どうやらリベア殿の逆鱗に触れてしまったらしい。

後ろを見れば木や他の魔獣が宙を舞っている。

本当に、恐ろしい事よ。

「ーうわぁぁぁぁ!やばいやばいやばいやばいやばい!やばすぎるぅぅぅぅー!」

だからこれくらいの醜態は悪しからず。

「リベア!お前は、罪なき里のエルフ達を蹂躙し、傷つけた!彼らが許しても、俺は許さない」

リベアに届くように、訴えかける。

お前だって、家族がいるだろう。守りたいだろう。

それは俺も同じだ。

こんな俺を受け入れてくれたエルフ達を、これ以上苦しませたくない。
彼等には、幸せに暮らしていてほしい。

だから、俺はお前を討伐すると決めた。

誰が悪いかなんて、そんな審議に意味はない!

誰が始めたなんて、それは現実から逃れる言い訳だ!

己の信念を貫きたいなら、力を示せ。

刮目しろ!リベア!

お前を、理力と資力と知力と才力を尽くして、狩ってやる!

「こいやー!」

今走る道の先に光が見え、そこにルクシオは勢い殺さず飛び込んだ。

そこは……高さ10メートルは硬い、崖だ。

崖の空中に、二つのシルエットが浮かぶ。

「ガルドさん!作戦開始だ!」
「おう!お前ら!」
「「「ウェザーベール!」」」

ルクシオ、リベア共に重力のまま落下するが、ルクシオはエルフ達の風魔法により落下は回避。

リベアは当然落ちる。

落ちたリベアを俺達が見下ろす形になる。

ルクシオは風魔法の補助を受け、無事に崖の上に降り立つ。

「よし!よくやったルクシオ!」
「よくここまで連れてきたな」
「まだ、喜ぶには早いですよ!攻撃魔法を使える人は詠唱準備!武器を持つ人は崖に降りてリベアの足を潰して!」
「「了解!」

そう、ルクシオの作戦は至ってシンプル。

リベアを崖に誘い込み攻撃を仕掛ける。

数十分前。


◾️◾️◾️


『俺達とリベアでは背丈が違う。向こうの方が上な分こちらが不利。なら、崖に誘い込んで背丈で生じるアドバンテージをこちら側になるよう確保する。
成る程。単純だがいい策だ。だが、攻撃方法は?』
『エルフの皆さんは魔法が使えるんですよね?なら、攻撃魔法を使える人は上からリベアに攻撃。リベアは暴れるでしょうが、そしたら奴の足を潰す。唯でさえリベアは狭い崖の底。身動きは取りづらくなるでしょう。後は、各自自分達が得意とする戦法でリベアにひたすら攻撃。これが一番確実です』
『だが、足を潰すなんて、一体どうやって』
『方法は色々ありますが、例えば、足に縄を引っ掛けて体制を崩させる。そうすれば奴の足は無防備になるからそこを剣とかでやれば足は潰れるでしょう。まぁ、暴れられたら手に負えないのが難点ですが。どうでしょうガルドさん?」
『うん~これで行こう!どうせ、俺達じゃこれ以上の作戦は出そうにないかな。可能性は十分にある。やろう』



◾️◾️◾️



「崖の下に降りた人は縄でリベアの足を封じて!」
「了解した!」

作戦を心得た魔法を使わないエルフの戦士達は躊躇せず崖下に飛び降り、縄の配置にかかる。

その間に魔法を使える人は詠唱を始めた。

(うん、今の所作戦通りだ。だが、)

「ルクシオ様!リベアに率いられたやってきた別の魔物達が来ました!」
「やはりきたか。詠唱の邪魔をさせるな!崖上に残る戦士達は魔獣の迎撃にかかれ」
「おうよ、ようやく出番がきたな!」
「やるぞお前らー!」
「「「おおおおー!!」」」

武器を持つエルフの戦士達は雄叫びをあげながら果敢に魔獣に突っ込んでいく。

やはりというべきか、戦闘能力は高いエルフ。

難なく魔獣の制圧をしている。

頼もしい限りだ。

「魔法詠唱の準備整いました!ルクシオさん、いつでもいけます!」
「よし、全員積年の恨みをリベアに放て!」
「雷鳴斬!」
「那由多式・氷槍!」
「エクスプロージョン!」

どの名前を聞いても各属性の上位魔法がリベアに向かい降り注ぐ。

その様子だけ見れば荒ぶる大災害だ。

いくらリベアとはいえ、これを一身に食らえばひとたまりもないだろう。

「グォォォォォー」

リベアも堪らず絶叫する。

想像以上のエルフ達の技量を目の当たりにして、油断していた。

「ぎゃあああ!」
「ルクシオ様、後ろ!」
「ルクシオ!」
「なにっ!?」

自分のすぐ後ろに迫る魔獣に気がつかなかった。

どうやらエルフ達の攻撃を掻い潜った魔獣がいたようだ。

ぱっと見でも4体はいる。

俺がこの中で一番弱いと判断したのだろう。

だが、

「あまり、人間を舐めない方がいいよ?」

そう一番近くに迫る魔獣を教えるようにたしなめ、刹那。

魔獣の首が、尾に血糊を引き連れて宙を舞う。

瞬時に次の魔獣に狙いを定め、剣を一振り。

その様は、どちらが蹂躙しているのか判断しかねる光景だった。

ルクシオの剣が次々と魔術の首や胴を跳ね飛ばす。 

ある魔獣には膝蹴りを食らわせ、ふらついたところを首を落とす。

ある魔獣には剣を投げつけ眉間に突き刺し、飛び乗って剣で一閃。

気づけばルクシオの周りには4体の無残に散らばった魔獣の屍が散乱していた。

これにはフィアナやガルドは愚か、上にいたエルフの戦士達は瞠目する。

お世辞にも、ルクシオは強そうには見えない。

その彼が、自分達の中で一番弱いと思っていた彼が、魔獣4体を瞬殺した。

驚愕に値する。

だが、彼はセルベスト王国神盟騎士隊養成所の、仮にも元首席《・・》なのだ。

養成隊員にして各地の戦地に投入され、華々しい功績を挙げた、期待の新星!

綺麗な碧眼の双眸に憎悪を迸らせ、圧倒的な蹂躙劇を繰り広げる故に、ついた二つ名は……【蒼の殲鬼あおのせんき

それが、ルクシオ・クルーゼである。

「すげぇ、瞬殺しやがった」
「あんなに強かったの、彼……」


皆、現在進行形で襲撃をされている事を忘れているように、口々に驚嘆を漏らす。

「下の兵士達!リベアの状態は?」
「足は潰した!さっきまでの威勢は嘘のように静かになってやがる!」
「よし!皆、これが最後だ。留めを刺すぞ!」

驚愕している彼らに気づかずに、ルクシオは命令を告げた。

冷静を取り戻し始めた戦士達はリベアの下に行き攻撃をする。

思ったより魔法が効いたらしい。

リベアは虫の息となっていた。

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