上 下
2 / 25

第2話樹海での出会い

しおりを挟む
「はぁ~、どうしようかな。いつのまにかこんな所まで来ていたとは…」

ルクシオの目の前に広がっているのは、壮大すぎる樹海。

セルベスト王国を出てからルクシオは二週間程大陸を歩き続けていた。
初恋の相手にして生きる目的でもあったミリアからの明確な拒絶に心は打ち砕かれ、唯大陸を彷徨するアンデットと化していたルクシオだったが、人の心は存外現金なものらしく、二週間も経てば心の傷は自然に回復し、多少のゆとりが生まれていた。

そんなルクシオは、大陸でも高ランクの魔獣が跋扈している危険エリアーーーリアス大森林にいた。

この森林は、一言で言うならば未知だ。
人類の数少ない未到達エリアにして、数々の伝説の聖地である森林に、ルクシオは来てしまったのだ。

(なんと運悪ことかな)

正直この森は迂回するべき場所なのだが、その判断は厳しいと言うのが現実だった。

約二週間、本当に唯ひたすらに歩き続けていた為、食料は既に底をついてしまっている状態だ。
このまま迂回すれば、まず間違いなくミイラの一途を辿ることとなる。

「行くしかない…か」

ルクシオは若干の不安を持ち合わせつつ、重い足を動かした。



◾️◾️◾️



恐らく人類最初の一歩を踏んでから早1時間。
早速食べ物らしき果実を発見する事に成功した。

「これ…食べられるのか?」

ルクシオの右手には、収まりきらないほどの赤く実った立派な果実がある。
匂いを嗅ぐとほのかに甘い。

(大丈夫なのか?ここは高ランクモンスターが蔓延る大森林。そんなおっかない所に実る果実が人間の舌に合うのだろうか?)

訝しみながらも、結局は何か食べなければ死んでしまうので意を決して口に運ぶと…。

「うっ、うまい!」

とても瑞々しく、そして丁度良い甘さが疲れ切った体にじんわりと浸透していく。

「ほわ~、生き返る。早くも美味な食料を手に入れた!バックに出来るだけ詰めよう」

同じ木に実っていた実をいくつか回収する。
今のところは魔獣に遭遇してはいないが、万が一という事もあるので、いつ遭遇しても逃げられるよう勿体無いが必要最低限の量にする。

ここで空腹をある程度満たしたルクシオはふと感じた。

(この大森林、思っていたよりかは静かだ)

もっと魔獣の咆哮や死体がそこら中に転がっていると思っていた。

神盟騎士隊の育成機関での座学は人一倍勤しんでいたルクシオは、図書館の本もあらかた制覇している為、この大森林の事には多少の知識はある。

ある本曰く、必要のなくなった古代兵器を破棄しただとか、伝説の種族が大地を支配していて、侵入してきたイレギュラーを殺し回っているだとか。
そんな物騒なイメージしかなかったので、案外普通の森の一面があり内心ホッとしているルクシオであった。

しかし束の間の休息も過ぎ去る速度は意外と速い。

「グルウゥゥゥゥゥ…ッ」

獣らしき唸り声が聞こえた。

ルクシオは警戒態勢を取りつつ、早急に対処できるようその姿を確認する為草木を払いながら進んでいく。

後この草を払えば声の正体に迫れる。
心臓の脈打つ速度が異常な程に速い。
本音を言うと逃げ出したい。
だかそれは良策とは言い難い。

どんなモンスターが近くにいるのかを確認する事でこの付近にはこの系統のモンスターが住み着いているなどといった情報を得る事ができる。

それはこの大森林で生きる為には必要な事だ。

そう言い聞かせ心に纏わりつく恐怖を払いのけ、ルクシオは声の正体を確認する。

するとそこには、銀の毛に包まれた一匹の狼だった。

「おい!どうしたんだ?大丈夫なのか?」

俺は苦しそうに横たわっている狼の側に近寄る。

狼は苦しそうにしながらも瞼をゆっくりと開けた。

「グルゥゥゥゥゥ…」

さっきの声よりも小さくなっている。
一体何が原因なんだ?
狼をよく見てみても特に目立った外傷はない。
もしかしたら毒物を誤って食べてしまった事も考えられる。

だが生憎と俺には薬草の作り方が分からない。

(どうしよう、このままだと…こいつ死んじゃうぞ)

「なぁ…どうしたらいいんだよ」

そう言っても答えてくれる訳でもないが、狼の体や頭を優しく摩る。

そこで狼は体をゆっくり起こして、匂いを嗅ぎ分けるような動作をする。
俺の右手を少し嗅いだ後、カバンを凝視してきた。

何故か目を輝かせている。

「おい、どうしたんだ?」
「グルゥゥゥゥゥ!」

ちょっと声に元気が出てはいるが、まだ少し辛そうだ。

あれ?ちょっと待て、少し思い出してみよう!

俺はさっきこいつの頭に右手で触れた。
そしてこいつはそれに反応して、匂いを嗅ぎ分けるような動作をして俺のカバンに興味を…持った?

俺の右手とカバンに何が共通する事がある?

だとしたら……もしかして、

俺はカバンの中からさっきもぎったばかりの赤い果実を取り出して狼の前に見せる。すると…。

「ワオォォォォォーン!」

狼は嬉しそうに鳴く。

絶対これだ!
こいつはこれが欲しかったのか。

貴重な食料ではあるが、このまま見殺しなんてのも気分が悪い。

それに…なんかこの狼可愛いし。

俺は赤い果実を狼にあげる事にした。

地面に置くと、狼はすごい勢いで咀嚼し始めた。

どうやら唯空腹だっただけみたいだ。
なんか心で損したとは思うが、無事で良かったという安堵の方が大きい。

狼はがっつきすぎるあまり、上手く食べられていない。そんな姿がとても微笑ましく思えて、思わず頭を撫でてしまう。
でも狼は嫌がる素振りは見せない。

「よしよし、取ったりなんかしないから、ちゃんとお食べ」
「グルゥゥゥッ!」

 それから狼は俺の持っていた食料までも食して、やっと元気になった。

「グルッ!」
「おっおい、やめよろ、くすぐったいって」

狼は俺の所に飛びついて顔を舐めてきた。

「良かったな元気になって、もうこんな事にならないようにご飯はちゃんと食べろよ」
「ありがとうございます、人間!」
「よしよし、うん?あれ?」

今何が聞こえた気が、それも人間の言葉だ。
一体どこから。

「助けてくれてありがとう!」

まただ。どうゆう事だ?
ここは人間が住み着く筈のない高ランクモンスターの巣、リアス大森林だぞ?

「グルゥゥゥ!ありがとう、本当に死ぬかと思いました」

グルゥゥゥッ?この声、ついさっきまで聞いたことのある声だ。

俺はゆっくりとその声のした方を向くと…。

確か、俺に抱きついていたのは銀の狼だった筈だ。
その筈だよな?

じゃあなんで、今、俺は。

銀髪の獣耳美少女に…抱きつかれてるんだ?

俺は状況が理解できずに固まる。

「ん?どうかしましたか?もしも~し!」
「えっ、ちょっ!えぇぇぇぇぇぇ…ッ!
お前、もしかしてさっきの狼?」
「そうですよ?」

まじか?
そんな事が?

そういえば!聞いた事がある。

騎士育成所の図書室である書物に書いてあった。
伝説の種族の一つーーー狼雅。

狼雅は森の奥地を生活の拠点にし、その高い身体能力や知能。そして狼にも関わらず人間の姿になる事ができる、神話の中にも登場する正に伝説の種族!

「あの、えっと、君はもしかして、狼雅ですか?」
「そうですよ?」

うおぉぉぉぉぉ!まじか!
俺今伝説級の種族に押し倒されてるぞ!
しかも銀髪獣耳美少女ときた。

「えっと、一先ずよろしく狼雅さん、俺はルクシオって言うんだ」
「ルクシオ、…ルクシオ様!改めて助けて下さり本当にありがとうございます!私はフィアナと言います!」

フィアナちゃんか、うんうん、満点!
母性溢れる肉つきに美しい容姿!
伝説は伊達じゃないな。
伝説なんてあるのか?とか言った過去の俺に言ってあげたい。

「ごめんねフィアナ。出会ってばっかりで図々しいかもしれないけど、この辺で比較的安全な場所ってないかな?俺今食料がなくて、結構ギリギリなんだ。できれば…そこまで案内してくれると嬉しいんだけど」

どうだろうか?
フィアナは狼雅、この辺にも俺よりかは詳しい筈だ。それに…本当に今は今日生き残れるか分からない状況だし。正直怖いのが本音だ。
でも、フィアナが嫌なら無理強いをするつもりはない。断られたら仕方ない、一人でやる。

「はい、もちろんいいですよ!」
「だよな~やっぱダメだよな。そっかそれじゃここでお別れだな。ありが…うん?今オッケーって言った」
「はい!もちろんです!私の命、ルクシオ様に捧げます」
「あっありがとう!ほんと助かるよ!でも…本当にいいのか?」
「もう~、何度も聞くのは失礼ですよ、ルクシオ様!私のこの命は、あなたに救われました。私が死ぬまでお共致します!」

フィアナは俺を助けると断言してくれた。

「ありがとう、フィアナ。後俺の事はルクシオでいいよ。様づけは正直苦手だから」
「ですが…」
「ダメ、様はやめて」
「…分かりました。ルク…ルクシオ?」

くそ可愛いなっ!
上目遣いはずるい!
ここまで伝説級か!

「よし、じゃあ行こうか、フィアナ!」
「はい!ルクシオ」

こうして俺は、狼雅と呼ばれる伝説の種族フィアナと出会い、仲間になりました。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】微笑んで誤魔化す息子が、お相手を決めたそうなので神殿長としても祝いましょう。

BBやっこ
ファンタジー
似た者親子の戦い(口撃)を書きたくなって。【長編完結・10話済み】 『VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。』の宣伝っぽく。ショートショート 困った息子に口出したくなるお父さん(神殿の5本指に入る高官)な感じ。 家系の性格がバッチリ出ているなあちぇ思っている親子。それも理解していて 父は楽しんでいるが、息子は苦々しいと経験値の差が出ている親子それぞれの心境。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...