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幼馴染

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ニーナを無事に助ける事が出来、難なく崖を登り終えると、孤児院のみんなが何故かその場所にいた。

どうやら我慢出来ずに来てしまったらしい。
流石にこれは叱らないと駄目だろうと思い子供達に近づいたら、ニコルさんが激怒した為俺は冷静になった。

ニーナは相当怖い思いをし、まだ俺の服に顔を埋めている。
恐らく鼻水と涙でぐちょぐちょになっている事だろう。(ごめんな、俺の服。もう少しの辛抱だ)

まぁ何はともあれ、子供達が全員無事で良かった。

その後、孤児院に帰る途中で子供達に沢山群がられた。
なんでも、俺がニーナを助ける為に自ら崖にダイブした事をニコルさんに聞かされたらしく。
皆に「すごいね!ルシア~」「カッコいい」「やるじゃん!」と褒められた。

ぶっちゃけ滅茶苦茶嬉しかった。

初日から、子供達の信頼を勝ち取る事に成功したのだった。




◾️◾️◾️




孤児院に着き、後の事はニコルさんに任せ、俺は早々に孤児院を後にした。

まだ町の人達の挨拶が終わっていないからだ。

町に着く。

「ルシア?お前…ルシアか?お~いルシア!」

運んでいた荷物を地面に置き名前を読んでくる30代後半の男。(それなりに美形)

「ん?ああ、よぉ~バイゼル、久しぶりだな!今年は浮気何回目だ?」
「やっぱりルシアか?今年の浮気は10回はいったぜ!」

闇深いコミュニケーションを交わしている相手は、イアリングを付け黒い髪を金に染めたチャラ男のバイゼルだ。

この闇深いコミュニケーションは昔と変わらない。

するとバイゼルが営む店の奥から禍々しい殺意を感じた。

(ああ、またいつものが始まる」

呆れ半分期待半分といったところだ。
俺はいつもバイゼルの顔を見るたびに「浮気の回数」を聞いている。そしてその都度、奴の付近では禍々しい殺意が放たれるのだ。

「あなた?今年の浮気の回数は10回はいってるって話、詳しく聞きましょうか?」
「ひぃ!待て、ハニー!誤解だ!今のはほんのジョークで。なっなんだ、その手の包丁は?」

いつ見てもこの二人のやり取りは面白い。

「知ってるあなた?昔の王宮に使える男の役人はこうやって去勢して女を襲えないようにしたらしいわよ、どうかしら?一度私に身を委ねて、あなたも新しい人生を歩んでみない?」
「やっ、やだ!駄目だ、それは男の尊厳に関わる!やめてくれ!ハニー!」

この二人はいつもこんな感じだ。

バイゼルは断末魔を叫びながら妻であるリーシアさんに引きずられ店の奥に姿を消していった。

そして、俺の知り合いは何故か無駄に声の大きい人が多い。

バイゼルが俺の名前を大声で呼んだお陰で、また辺りの家や店から知り合いが飛んで出てくる。

何故そんな勢い良く飛び出してくる?
もういい歳してるんだから体には気を遣ってくれ。

そう言いたかったが、その言葉は口に出る事はなく、直ぐに取り囲まれてしまう。

「よぉ~ルシア!久しぶりだな!ちょっと店手伝ってくれねえか!」
「ルシアちゃん5年ぶりね!今日ちょうどルシアちゃんの好物作ったから良ければ食べて?」
「ルシアの坊主!一丁前の服着やがって!お前はまだ赤ちゃん服の方がいいだろ?」

誰だ最後の奴!
流石に怒るぞ!

誰が誰だかもう分からないが、受け取る物は受け取り、何かしらの勧誘は適当にあしらう。

対応に困りあぐねている時、よく知る声が俺の耳を通過する。

あっヤバ!

「ルシア!あんた何で直ぐに私の所に挨拶しに来ない訳!」

桃色の髪の毛をポニーテールにした美形の女子が怒りながら俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。

「やめろ!胸倉は掴むな!」
「何で私の所に来なかったの?答えなさい!」
「色々あったんだよ!普通こういうのってまず町長に挨拶しに行くだろ?そしたら孤児院の経営してくれないか?って頼まれて今まで視察に行ってたんだよ!」
「100歩譲って町長の所に行くのはいいわ!けど、孤児院に行く前に来れたでしょ?」

駄目だ、シスカはこうなると手がつけられない。

この何故だかいきり立っているのは、一応は幼馴染のシスカだ。
彼女はとある料理店を営む店長の娘で…。

「だから、これから挨拶に行こうとしてたんだよ!
そしたらバイゼルに捕まったり町の人達に囲まれて動けなかったんだよ?俺がお前の事を忘れるわけないだろ?」
「へっ?そっそう。まぁ…そうゆうことにしといてあげるわ!」

シスカは手をしまって頰を紅潮させながらモジモジとする。

何故だかシスカはこう言うと大人しくなるので、その反応を楽しむの俺だ。

「ルシアは…その…変わったね、身長伸びたし、何とういか、かっこよくなった?」
「そうか?それはありがとう、お世辞でも嬉しいよ」

素直に嬉しかった。向こうにいた時は女の子にそんな事を言われたことはなかったからな。

「別にお世辞とかじゃないんだけど…」
「ん?何か言ったか?」
「なっ何にもないわよ、バカ!」

また怒り始めた。
昔も今も、よく分からないな。

でも俺は幸せ者だと思う。
普通、誰かが帰還しただけでこんなに歓迎してくれる事なんて無いだろう。

でもみんなは、俺を歓迎してくれた。
確かに、群がられるのは少し困るけど、それでも…こんな俺に優しくしてくれる人は、とても貴重だ。

この町に来て、正解だと心の底から感じた。

この思いを今にも伝えたくて…俺は満面の笑みで言う。

「ありがとう、みんな!これからもよろしく!」

今はこれで良い。もし、この町の人達が困っていたら、絶対に助けようと決めた。

しかし、ルシアは知らない。
この善人の決断が己の体を傷つける事を…。
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