Sランクパーティーを追放された暗殺者は、お世話になった町で小さな英雄になる

白季 耀

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金なしなので護衛任務を受ける

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リーゼとの一夜を、いや。
ひと時を過ごした後、俺は直ぐに荷物を整えて馬車の停留所に向かった。

この街からプレイテスまではざっと20キロはある。その為、プレイテス行きの馬車は早朝から出発する事が良くある。

そして運良く今日がその日だ。

お陰で、気不味い気持ちでまた1日、この街で過ごさずに済む。

停留所に着き、目的地行きの馬車を見つけた。

「すまない、この馬車はプレイテス行きの馬車であっているか?」

馬に繋いだ縄を眠そうに掴んでいる運転手に聞いてみる。一応確認は必要だ。これで違う馬車だと何かと辛い。

唯でさえ、昨夜の出来事で気が滅入っているのだ。

「そうだよ。…にいちゃん、あんた冒険者かい?」
「そうだけど」

俺は腰に剣を携えていた事に気付いた。
おそらくこれを見て、俺が冒険者なのだと思ったのだろう。

「なら丁度いい。あんたこの馬車に乗るんだろ?だったらついでにこの馬車の護衛をしてくれないか?」
「護衛…か?」
「そうさ、護衛だ。最近プレイテスまでの道中で賊やら魔獣の目撃証言があってね。冒険者ギルドに依頼しようと思ったが、何せ今は金がなくてね。勿論其れ相応の報酬は出すつもりだ?どうかな?」

そうゆう事か。確かに最近は、魔獣の出現頻度が増えていると、耳にした事がある。

プレイテスまでの道のりは、もろにその魔獣出現区域だ。

まぁついでみたいなものだし、お金もあって損する訳じゃなし。

「プレイテスまでなら、引き受けよう」
「そりゃ良かった。助かるよ」



◾️◾️◾️



護衛を引き受けて馬車が出発してから約1時間。
今は颯爽と生い茂る草原を走行中である。
世界の主導権が完全に太陽へと移り終える現在。

景色を遮る遮蔽物が少なく、遥か遠方に広がり続ける地平線を一望できる。

素朴だが、人の視線を惹きつけるには十分な絶景と言えた。

「いい景色でしょ、お客さん?」
「ああ、いい景色だ。とても心地良い」
「はっはっはっは。お客さんは見る目があるねぇ。この辺りは何の味気が無いからって、他の馬車はそんなに使わない道なんですよ。今時の若者でこの景色がわかるとは、兄ちゃんは将来大物になるねぇ」
「いやいや。そんなに大層な人間じゃ無いよ。俺はただのしがない冒険者さ」

この馬車を選んだのは正解だった。

馬車の運転手も気の良い人で話しやすいし、馬車の設備も整っている。

ここは草原で魔獣出現地帯。

遮蔽物がないこの一帯だと、身を隠す事ができない為、魔獣に見つかったら逃げられない。
そんな危険なルートを選んだのは、この景色を俺に見せたかったのかもしれない。

別にそうじゃ無くても、とても嬉しい。

心の傷が徐々に癒えていくのを感じる。


それからしばらく進んだ所で遠くから地響きが聞こえてきた。

音の大きさから、恐らくは魔獣だ。

運転手のおっさんは気付いていないようだったので、衝突する前に教える。

「遠くから魔獣が近づいてきますよ?」
「本当かい?どんな魔獣だい?」
「気配の大きさと、この一帯の魔獣出現分布からして、多分ディノサイドンだと思う」
「ディノサイドンか、遭遇すると厄介だな。どうする、兄ちゃん?このまま迂回すると、プレイテスの町に着くには少し時間がかかるが?」
「いや、このままで問題ない、通常通りのスピードとルートで頼む。ディノサイドン程度なら、余裕だ」
「ほほう、それはそれは頼もしい限りだ。信じてるぜ兄ちゃん!」
「任せといてくれ」

そして案の定、この馬車はディノサイドンの、それも群れに遭遇した。
完全に包囲された状態で、ディノサイドン達は縄張りが荒らされると勘違いし激情している様子。

「兄ちゃん?さっきは信用してるぜと言ったが、本当に大丈夫だよな?」

馬車のおっさんもその激情したディノサイドンの形相を見て不安感を煽られたらしくそんな言葉を掛けてくる。

「大丈夫だ、問題ない!大船に乗ったつもりでいて良いぞ!」

その不安の要素を取り除くべく、不敵の笑みで答える。

その笑みを見ておっさんは少し安心したらしく「そうか、なら任せる」と言ってくれた。

無論、問題ない相手だ。
いくら攻撃力に欠けるとはいえ、中級モンスターであるディノサイドンなら、踊りながらでも倒せる。

俺は相棒である夜色の剣を構えて、刹那、一番ガタイの良いディノサイドンの背後に回り込み、首を切り落とす。

集団戦闘において、リーダ格の奴らから狙うのは定石だ。

少したじろぐディノサイドン達も、一斉に攻撃を仕掛けようと突進してくるが、その勇気もご苦労様といった感じで、地面に這わせたミスリル製の糸に躓き倒れたディノサイドン達を一網打尽にしていく。

僅か数秒で、ディノサイドンの群れは壊滅した。

「なっ?だから言ったろ。問題ないってさ」

あまりに一瞬の出来事に呆然としていたおっさんは我を取り戻し高らかに笑った。

「はっはっはっは!いや~お見それした!まさかここまでとは!ふはははははは!」

素直に驚いてくれるのだから、此方としても良い気分だ。

糸を回収して再び馬車に乗り、目的地であるプレイテスの町を目指した。

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