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突然の追放命令
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「お前はもう必要ない、ルシア。パーティーから抜けてくれ」
「えっ?」
春の陽気を讃える穏やかな夜、それは突然の出来事だった。
なにせ、先程まで酒を飲みながら普段通り他愛もない話を交わしていたパーティーのリーダーであるダストから、突然言われたのだから。
頭の処理能力には多少自身があるが、こればっかりは処理しきれないらしい俺の頭は臨界状態となり、気付けばこんな言葉を漏らしていた。
「どうゆう事だ、ダスト?パーティーを抜ける?えっと…、本気…なのか?」
「本気だよ?ルシア」
問いただしても帰ってくる答えは同じ内容だった。
ダストは冗談をよく言うので、今回もそれなんだろうと思っていた。いや、そう信じたかった。
しかし、今のダストの表情は真剣そのもので、とてもいつも通りの返しを出来る状況ではなかった。
あまりの出来事に愕然としていると、俺が未だ理解できていないのを察したのか、呆れた面持ちでダストが口を紡ぐ。
「君は、このパーティーでは足手まといにしかならない。だから、パーティーを抜けてほしい。そう言ったんだ」
「でも、一体俺の何がダメだったんだ?言ってくれよ。そしたら直ぐに直すからさ?なっ?ダスト、だから」
「それじゃあ、俺の要求は一つだ。大型の魔獣にもダメージを与えられる高火力を身につけろ!そしたらお前がパーティーに残る事を、許す」
分かった、とは言えなかった。
それは俺の課題であり、未だクリアの道筋は見えていないからだ。
俺が所属しているパーティーは、迷宮攻略を専門に行うパーティーとして有名な【蒼穹の牙】と言われるSランクパーティーだ。
実力は世界屈指と言われ、周囲の人気、期待は共に絶大の一途を辿り、誰もが象形を抱くパーティーだ。
故に、迷宮攻略も熾烈を極めるものであり、常に個人の卓越した戦闘能力が必須。
そんな中で一人俺は、戦闘能力に欠けていた。
俺の体格は、同期の奴と比べて少し小柄で細身だ。
その上ジョブは暗殺者。
暗殺者は人を殺す対人戦闘には長けていても、魔物相手では不利なのだ。
「君はよくやってくれていると思う。それは否定出来ない。迷宮に不向きのジョブでその体躯にも関わらず、君は僕達の負担を軽減してくれていた」
「だったら、なんで!」
「もうそれだけじゃダメなんだよ!ルシア!」
「それだけじゃって…なんだよ?」
居心地の悪い沈黙が流れる。
周囲の雑音がうるさい!
心臓の鼓動がうるさい!
過敏になった感覚が無駄に情報を拾ってくる。
徐々に心の内に湧く焦燥が、俺の冷静さを欠きはじめる。
それらを咎めるごとく、ダストの一喝が入る。
「僕達はこれから、本格的な迷宮攻略をするつもりだ」
それは以前も、パーティーメンバー全員を集めたミーティングでダストが皆に話していた。
その時は、これから皆もっと自己修練に励もうという結論で幕を閉じたはず。
「それは簡単な事じゃない。今までのものとは難易度は飛躍的に上昇するだろう。だからこそ、より優れた人材が必要だ」
あっ、察してしまった。俺がパーティーを抜けなくてはならない理由を。
「その表情なら、もう気付いただろう?」
「でも…俺は、俺は」
「それじゃ君は、僕達全員を危険に晒したいと、そうゆう事かい?」
「…っ!」
もう何を言っても、ダストの気持ちは変わらない事に、俺は気付いてしまった。
研ぎ澄まされた洞察力は時にアダとなるとは、よく言ったものだ。
「それに正直なところ、君の事は最初から気に食わなかったんだよね」
「えっ?」
俺の憧れの精悍な顔つきが、憎悪の顔へと歪み果てていく。
「ほら君ってさ、スラムの生まれの癖に顔だけはいいじゃん?そのお陰で僕に言い寄ってきた女どもがみんな君の所に行っちゃうんだよね?本当に嫌いだよ!君は!その点もあって君にパーティー追放を告げる!じゃあね?ルシア。君の今までの行いに免じて、装備品は奪わないといてあげるよ。まぁそもそも、暗殺者としては優秀な君から、装備を剥ぎ取ろうなんて芸当は出来ないんだけどね」
そう言い残しダストは酒場を出ていった。
俺は、仲間だと思っていた人物に、憧れの人に、そんな風に思われていた事に少なくない絶望感に囚われ、ただそこに、佇む事しか…できなかった。
◾️◾️◾️
あれから夜が更け、世界が東の方角から赤に染まる暁の時。
俺は荷造りの準備をしていた。
ートントントン
するとドアをノックする音が聞こえる。
忍びない足取りでドアを開くと、そこには俺と5センチくらいしか違わない銀髪のショートカットの綺麗な美少女。
うちの、いや、俺が所属していたパーティーのヒーラー役を務める貴族の娘、リーゼだった。
「ちょっと、入っていい?」
「ああ」
リーゼは子爵家の令嬢で、俺とは本来相容れない存在だ。
その彼女が、こんな時間に一人で訪ねてくるなど初めてだろう。
おそらく。
今は精神が疲労困憊していてよく物事を考えれない。
リーゼはベットに座るとその小さな口を開いた。
「ダストから、話は聞いたわ」
「…そうか」
「本当にパーティー抜けるの?」
「まぁそうだな。ダストにあそこまで言われたら、そうせざるを得ないかな?」
「行く当てはあるの?」
「以前、俺がこのパーティーに入る前に、とても世話になった町があるんだ。そこに行って、悠々自適な生活を送るのも、ありかなって。今はそんな事くらいしか考えてない」
「…そっか」
リーゼが黙り込んだ。
閑散とした空気。もう春とはいえ、夜はまだ幾分か冷えるので足の指先はもう冷え冷えである。
足の指同士を擦りながら熱を保とうとするリーゼ。
俺は寝間着姿のリーゼを見るのも背徳感が湧くので、朝日に染まりつつある外を眺める。
この街はそこそこ綺麗だと思っていたけど、今は…そうは思えないな。
鑑賞に浸っていると、リーゼが再び言葉を紡ぎはじめる。
「ねぇ。その、ルシアがお世話になった町ってなんていうか名前なの?」
「プレイテスっていう、中規模の町だよ」
「そうなんだ。ルシアはさ、後悔とか…ない?」
突然投げかけられた言葉に、どう答えればいいか迷って、結局この言葉が妥当だと思い答える。
「ないって言うと嘘になるけど、まぁそれなりに楽しい時間だったし、もう…いいかなって感じかな」
「そう…か。ねぇルシア!」
「えっ?なっ何?」
急にリーゼが身を乗り出してきた。
顔が近い!
リーゼは可愛いというか、美人なので余計に照れる。
「私ね、パーティー近々抜けるわ!」
「はぁ?」
遂に血迷ったかリーゼ!
「何行ってんの、お前?」
「だから、私抜けるって言ったの?」
「なんで?」
「疲れたのよ。迷宮攻略」
「おっおう」
「私が迷宮攻略を目指したのは、名声を手に入れる為だったのよ」
意外だった。
リーゼは良くも悪くもそういったものに興味が無いと思っていたからだ。
「でも、それももういいかなって最近感じてたのよ」
諦める理由適当すぎやしないか?
いいのか?そんな簡単に?
そう言おうとしたが、リーゼは笑いながらも真剣な目だったのでやめておいた。
意思決定した人を迷わせるような事をしてはいけない。師匠の言葉だ。
その者の意思を甘んじて受け入れられるような心の広い大人になれと、よく言い聞かせられた。
だから口を閉じる。
部屋に入ってきた時は暗い表情をしていたリーゼだったが、今は晴れた面持ちで、立ち上がって可愛らしく背伸びをする。
その際に服の上から浮き出るいい具合の大きさの双丘が強調されさっと視線をそらす。
「ねぇルシア?ちょっと立ってみて」
「えっ?いいけど」
言われるがままに椅子から立ち上がると、
リーゼが頰にキスをしてきた。
「ふふっ。あなた暗殺者でしょ?少しは警戒したら?」
「なっ?お前、何を?」
「じゃあねルシア。健康に気をつけてね」
そう言ってリーゼは部屋から出ていった。
今日は、俺には些か色々、ハードだったな。
ルシアは…静かに…一人で…涙を零していた。
小柄と言ってはいますが、主人公であるルシアの身長は174センチです。
この世界の男性の平均身長を176センチ設定ですので
「えっ?」
春の陽気を讃える穏やかな夜、それは突然の出来事だった。
なにせ、先程まで酒を飲みながら普段通り他愛もない話を交わしていたパーティーのリーダーであるダストから、突然言われたのだから。
頭の処理能力には多少自身があるが、こればっかりは処理しきれないらしい俺の頭は臨界状態となり、気付けばこんな言葉を漏らしていた。
「どうゆう事だ、ダスト?パーティーを抜ける?えっと…、本気…なのか?」
「本気だよ?ルシア」
問いただしても帰ってくる答えは同じ内容だった。
ダストは冗談をよく言うので、今回もそれなんだろうと思っていた。いや、そう信じたかった。
しかし、今のダストの表情は真剣そのもので、とてもいつも通りの返しを出来る状況ではなかった。
あまりの出来事に愕然としていると、俺が未だ理解できていないのを察したのか、呆れた面持ちでダストが口を紡ぐ。
「君は、このパーティーでは足手まといにしかならない。だから、パーティーを抜けてほしい。そう言ったんだ」
「でも、一体俺の何がダメだったんだ?言ってくれよ。そしたら直ぐに直すからさ?なっ?ダスト、だから」
「それじゃあ、俺の要求は一つだ。大型の魔獣にもダメージを与えられる高火力を身につけろ!そしたらお前がパーティーに残る事を、許す」
分かった、とは言えなかった。
それは俺の課題であり、未だクリアの道筋は見えていないからだ。
俺が所属しているパーティーは、迷宮攻略を専門に行うパーティーとして有名な【蒼穹の牙】と言われるSランクパーティーだ。
実力は世界屈指と言われ、周囲の人気、期待は共に絶大の一途を辿り、誰もが象形を抱くパーティーだ。
故に、迷宮攻略も熾烈を極めるものであり、常に個人の卓越した戦闘能力が必須。
そんな中で一人俺は、戦闘能力に欠けていた。
俺の体格は、同期の奴と比べて少し小柄で細身だ。
その上ジョブは暗殺者。
暗殺者は人を殺す対人戦闘には長けていても、魔物相手では不利なのだ。
「君はよくやってくれていると思う。それは否定出来ない。迷宮に不向きのジョブでその体躯にも関わらず、君は僕達の負担を軽減してくれていた」
「だったら、なんで!」
「もうそれだけじゃダメなんだよ!ルシア!」
「それだけじゃって…なんだよ?」
居心地の悪い沈黙が流れる。
周囲の雑音がうるさい!
心臓の鼓動がうるさい!
過敏になった感覚が無駄に情報を拾ってくる。
徐々に心の内に湧く焦燥が、俺の冷静さを欠きはじめる。
それらを咎めるごとく、ダストの一喝が入る。
「僕達はこれから、本格的な迷宮攻略をするつもりだ」
それは以前も、パーティーメンバー全員を集めたミーティングでダストが皆に話していた。
その時は、これから皆もっと自己修練に励もうという結論で幕を閉じたはず。
「それは簡単な事じゃない。今までのものとは難易度は飛躍的に上昇するだろう。だからこそ、より優れた人材が必要だ」
あっ、察してしまった。俺がパーティーを抜けなくてはならない理由を。
「その表情なら、もう気付いただろう?」
「でも…俺は、俺は」
「それじゃ君は、僕達全員を危険に晒したいと、そうゆう事かい?」
「…っ!」
もう何を言っても、ダストの気持ちは変わらない事に、俺は気付いてしまった。
研ぎ澄まされた洞察力は時にアダとなるとは、よく言ったものだ。
「それに正直なところ、君の事は最初から気に食わなかったんだよね」
「えっ?」
俺の憧れの精悍な顔つきが、憎悪の顔へと歪み果てていく。
「ほら君ってさ、スラムの生まれの癖に顔だけはいいじゃん?そのお陰で僕に言い寄ってきた女どもがみんな君の所に行っちゃうんだよね?本当に嫌いだよ!君は!その点もあって君にパーティー追放を告げる!じゃあね?ルシア。君の今までの行いに免じて、装備品は奪わないといてあげるよ。まぁそもそも、暗殺者としては優秀な君から、装備を剥ぎ取ろうなんて芸当は出来ないんだけどね」
そう言い残しダストは酒場を出ていった。
俺は、仲間だと思っていた人物に、憧れの人に、そんな風に思われていた事に少なくない絶望感に囚われ、ただそこに、佇む事しか…できなかった。
◾️◾️◾️
あれから夜が更け、世界が東の方角から赤に染まる暁の時。
俺は荷造りの準備をしていた。
ートントントン
するとドアをノックする音が聞こえる。
忍びない足取りでドアを開くと、そこには俺と5センチくらいしか違わない銀髪のショートカットの綺麗な美少女。
うちの、いや、俺が所属していたパーティーのヒーラー役を務める貴族の娘、リーゼだった。
「ちょっと、入っていい?」
「ああ」
リーゼは子爵家の令嬢で、俺とは本来相容れない存在だ。
その彼女が、こんな時間に一人で訪ねてくるなど初めてだろう。
おそらく。
今は精神が疲労困憊していてよく物事を考えれない。
リーゼはベットに座るとその小さな口を開いた。
「ダストから、話は聞いたわ」
「…そうか」
「本当にパーティー抜けるの?」
「まぁそうだな。ダストにあそこまで言われたら、そうせざるを得ないかな?」
「行く当てはあるの?」
「以前、俺がこのパーティーに入る前に、とても世話になった町があるんだ。そこに行って、悠々自適な生活を送るのも、ありかなって。今はそんな事くらいしか考えてない」
「…そっか」
リーゼが黙り込んだ。
閑散とした空気。もう春とはいえ、夜はまだ幾分か冷えるので足の指先はもう冷え冷えである。
足の指同士を擦りながら熱を保とうとするリーゼ。
俺は寝間着姿のリーゼを見るのも背徳感が湧くので、朝日に染まりつつある外を眺める。
この街はそこそこ綺麗だと思っていたけど、今は…そうは思えないな。
鑑賞に浸っていると、リーゼが再び言葉を紡ぎはじめる。
「ねぇ。その、ルシアがお世話になった町ってなんていうか名前なの?」
「プレイテスっていう、中規模の町だよ」
「そうなんだ。ルシアはさ、後悔とか…ない?」
突然投げかけられた言葉に、どう答えればいいか迷って、結局この言葉が妥当だと思い答える。
「ないって言うと嘘になるけど、まぁそれなりに楽しい時間だったし、もう…いいかなって感じかな」
「そう…か。ねぇルシア!」
「えっ?なっ何?」
急にリーゼが身を乗り出してきた。
顔が近い!
リーゼは可愛いというか、美人なので余計に照れる。
「私ね、パーティー近々抜けるわ!」
「はぁ?」
遂に血迷ったかリーゼ!
「何行ってんの、お前?」
「だから、私抜けるって言ったの?」
「なんで?」
「疲れたのよ。迷宮攻略」
「おっおう」
「私が迷宮攻略を目指したのは、名声を手に入れる為だったのよ」
意外だった。
リーゼは良くも悪くもそういったものに興味が無いと思っていたからだ。
「でも、それももういいかなって最近感じてたのよ」
諦める理由適当すぎやしないか?
いいのか?そんな簡単に?
そう言おうとしたが、リーゼは笑いながらも真剣な目だったのでやめておいた。
意思決定した人を迷わせるような事をしてはいけない。師匠の言葉だ。
その者の意思を甘んじて受け入れられるような心の広い大人になれと、よく言い聞かせられた。
だから口を閉じる。
部屋に入ってきた時は暗い表情をしていたリーゼだったが、今は晴れた面持ちで、立ち上がって可愛らしく背伸びをする。
その際に服の上から浮き出るいい具合の大きさの双丘が強調されさっと視線をそらす。
「ねぇルシア?ちょっと立ってみて」
「えっ?いいけど」
言われるがままに椅子から立ち上がると、
リーゼが頰にキスをしてきた。
「ふふっ。あなた暗殺者でしょ?少しは警戒したら?」
「なっ?お前、何を?」
「じゃあねルシア。健康に気をつけてね」
そう言ってリーゼは部屋から出ていった。
今日は、俺には些か色々、ハードだったな。
ルシアは…静かに…一人で…涙を零していた。
小柄と言ってはいますが、主人公であるルシアの身長は174センチです。
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