僕の策略は婚約者に通じるか

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忘却の婚約者を堕とせ

6.堕とされた婚約者

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「はっ、はっぁー……っ」

「息して、……吸って、吐いて…ん、上手だよ」

 何が起きているのかわからず混乱しているようで、呼吸が浅くなっている。大丈夫、力抜いて、ちゃんとここにいるのは誰なのかわかって。タイミングを見計らって中へ押し入った。落ち着くのを待ちながら乱れた意識を向けさせる。

「フリー、ドっ」

「うん、何が不安だった?」

 猛りを全て含ませてから一度深く息を吐き、こちらも冷静になる。狭い内壁に煽られながらも耐えることはできた。
 眼の前で揺れる瞳に問う。すぐ嘘は露呈するだろうに、何故こんなことをと思った。彼なりにそうしようと決めた理由が知りたい。

「……見たく、なかった。フリードが、…誰かと幸せになるところ、なんてっ」

 また考えながら滲み始めた瞳に、呆れ半分、愛しさ半分で心が埋まる。

「誰かと幸せになるなら、ユン以外にはいないよ。だからその心配は無用だね」

 音を立ててちゅっと眦と唇へ触れる。あとは?気になるなら答えるよ、憂いは全て取り除いてあげたい。そうしたら余計なことは考えることもなくなり、ただ俺に浸っていられるだろう。

「僕はっ、何も取り柄が、ないし……フリードに相応しくない、…」

 何を。と心底ありえない話に否定の言葉しか浮かばない。どうも自己評価が低いようで、どれだけ魅力的な人柄なのかを理解していなかった。
 だが俺が否定したところで納得するかといえばそうではないから、どうしたものかと思案する。

「…この美しい髪も、宝石みたいな瞳も…もちろん可愛らしいと思っているけれどもね」

 髪を梳き、目の下を親指ですいっと撫でる。俺が天使だと思ったほどに、尊く愛しい外見なのはもちろんなのだが。それだけではないとわかってもらいたい。

「誰にでも平等で、困っている人には手を差し伸べて。思慮深く、でも何事も一生懸命で、」

 言いながら少しだけ緩い抽挿を始める。『ぁ、んっ』鼻にかかる甘ったるい啼き声は、もう快感を拾っていることを顕著に示していた。

「人としての魅力をこんなにも持っているのに。他の誰なら相応しいのかな?家名も権力も、それは見せかけでしかないよ」

「あっ、でも、だけどっ……っ」

 まだこだわろうとするものだからわかってほしくて、つい深いところまで切っ先を挿れる。

「っ、フリードっ、まって…ぇ」

「そもそも、」

 色々ユンは言ってくるが、一番大切なことを忘れているようだ。

「俺は、ユストゥスのことを愛している」

 言った瞬間、俺の分身を咥えている内壁がぎゅうっと戦慄いた。こちらが眉を顰めるほどに、強く。

「ぁ、……僕っ」

「だから。他の人では代わりにならないよ?」

 ようやく比べるまでもないことであるとわかってくれたようだ。想い思われ、互いを欲しているというのに、誰が代わりになれるというのか。
『うん、ん、ありがとう』と噛みしめるように閉じた瞼で、涙が伝い落ちた。

 そこからは、ただもう。
 どれだけの気持ちや劣情があるのか分からせるために、ユンが意識を手放すまで貪った。

 抜けるギリギリまで引き、内壁を擦りながら感じる場所を探す。挿れては抜き、抜いては挿れてを繰り返した。右側を、次は左側を。何度も何度も。
 膝裏に手をかけ持ち上げれば、擦り付ける角度が変わる。とちゅんとちゅん水音を鳴らしてやると、力なく勃っているユンの陰茎から残っている精液がたらたら溢れた。

「あー、ぁ、……っは、ん、んっ」

 意味を成さない喘ぎ声は枯れ、掠れた息に混じって言葉らしきものが発せられた。

「ぃや、ぁ……っ……も、でなぃ」

 涙と唾液でぐちゃぐちゃになって、目元は赤く、焦点の合わない視線がかろうじて俺を捉えていた。
 吐息で乾いていく唇を時々舐めてやり、口腔内も蹂躙する。無意識に弱々しく絡めようとする舌を吸ってやった。

「ん、んんっ……ぅ、んっ……ぅん!」

 ひくひく身体が震えている。舌と同時に胸を摘んだからだろう。そして腰を打ち付け中をかき混ぜた。三か所からの刺激でどうやら空イキしたようだ。ぎゅっと窄まることで俺の陰茎も刺激される。搾り取るように蠢き、迸りを中へ吐き出した。

 ユンは見開いたまましばらく空を見ていた。どこか意識を飛ばしているようだ。

 その間に首筋を強く吸い上げ、軽く歯を立てる。舐めて吸って、また噛んで。鎖骨の窪みへ舌を這わす。れろれろ舐めてはそこも吸い上げた。
 いつくも散る朱印と歯型に満足した。しばらく消えないであろう所有印は、白い肌にくっきりと映える。消える頃にはまた付ければいいだろう。

 ズルッと男根を抜き、ユンをうつ伏せにさせた。細く軽いせいで容易く身体の向きは変えることができてしまう。
 咥えていた孔からはとろとろ精液が垂れていた。その姿は卑猥で、嗜虐心を煽られる。孕むほど注いで、常に満たしておきたい、と。

 力の抜けた身体に手を添え、腰を掴んでまた穿つ。硬度を取り戻した陰茎を押し込み、再び精液を放った。
 抜かないままで少し擦ればまた元に戻る。自分のことだというのに際限ない浅ましさに笑えた。
 どれだけ求めるのか、いやきっと満たされることなくいつまでも求めるのだろうな、という狂気にも似た渇望は消えない。ユンが存在する限り、求める気持ちはなくならないのだから。

 ゆるゆるになった入口からは泡立った白濁がくちゅくちゃ音をさせていた。何度吐き出したかわからない。さすがに俺もそろそろ尽きるだろうか。

「っ……ん、……っふ……っ」

 組み敷く相手からはもう声はあがらず、掠れた息しか聞こえない。背中にもかじり付き、吸いながら舌を這わす。
 どうにかまだ残っている意識は朦朧としているはずだ。されるがままで無惨ともいえよう。

 それでも快感を拾っているらしい反応をされれば、また欲は灯る。
 くるりと正面へ体位を変え、そろそろ眠らせてやろうと思い至った。

「ユストゥス……」

「………ぁ…」

 どうにか、こちらを見た。

「愛してる。だから、にいて?」

「…ん、」

 声とも頷きともいえない小さな肯定をして、瞼が静かに落ちた。





 翌日、目を覚ましたユンは、見事なまでに酷いことになっていた。声は出ないし体中の痛々しいまでに付けた情事痕は数えきれない。
 謝りながら満足している俺のことを、かわいいだけの視線で睨んでくる。緩む口元を隠しながら、どうしたいのか意図を汲んで甲斐甲斐しく世話を焼いた。

 侍女も控えてはいるが、俺に抱かれて色気漂う扇情的な姿を見せるわけにもいかない。もう少し気配が落ち着くまでは、俺が身の回りの世話をしてやろうと思っている。

 ガラガラながらも少し声が出せるようになると『酷い…動け、なぃ。……フリードの、ばかっ』と言う姿は堪らなかった。かわいいと抱きしめてキスをしたら、弱々しくポカポカ叩かれた。それもやはりかわいい。

 侍医や夫人へは、話しているうちにと伝え、彼にも思うところがあったようだから叱らないでやってくれ、と頼んでおいた。その言い回しに察してくれ、今回のことは俺がしっかり説き伏せ解決。転落の打撲を療養し、日常生活へ復帰する流れになった。

 ユンへも今回のことはちょっとした痴話喧嘩で、きちんと話し合い解決したことにしてあると伝えた。

「反応が可愛くて、色々無理させてごめんね。ああそういえば、最初から記憶あることは明らかだったし」

「…ぇ……っ…」

 そう告げると一瞬固まった。
 こんなに素直なのだから、当たり前だろう。隠そうとしたって隠しきれていない。
 不思議そうにきょんと首を傾げ眉を顰めているから、教えてやることにする。

「何年かけて刷り込んだと思ってるの?ユンの目はいつもと同じように、俺のことが好きでたまらないって語っていたよ」

 伝えればみるみる赤くなっていった耳朶をはむっと食んで、逃げてもまた追うからね、と伝えた。


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感想 1

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みんなの感想(1件)

momo
2024.11.09 momo

はじめまして。こちらもエントリーされてたんですね!
痛くて甘い2人が心に残り作者様をブクマしてたので最新作も追いかけてます🫶
懐かしく久しぶりにフリード様のSっ気と可愛いユンを堪能しました(*´-`)

2024.11.09

momoさん。
はじめまして!ご感想をありがとうこざいます✨わあ〜、読んでくださってありがとうございます。前編改稿+書下ろし=秋庭頒布本(6万字)でひとまず二人のお話は完結としております。が、書きたくなったらたぶん書いてしまうので😂フリードにはこれからも執着攻でいてもらおうと思います。
嬉しいお言葉をありがとうございます!引き続きお楽しみいただけるよう頑張ります〜

解除

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