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番外編

5.閑話 事務官によると―1―

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※コメディ色強め第三者視点です。

 レオン・ヴァレンシュタインを名乗る人物といえば侯爵家の子息であり、この国の騎士団を統括するとんでもない人だ。その魔力や騎士としての実力はもちろんのこと、眉目秀麗、頭脳明晰、泰然自若……天は一人に二物も三物も与えたのである。なんと羨ましいことか。
 厳しくも皆から慕われているには理由がある。容貌だけではなく手腕も秀でており、性格まで情が厚いとくれば誰だって彼の下に就きたいと願い出るだろう。

 ちなみに婚姻も結ばれており、伴侶となられた方も大変素晴らしい騎士である。しかもお若い。
 いや、何故一人の人間があれもこれも持ち得ることができるのだろう。謎だ。実はとんでもない性癖をお持ちだとか、他者に見せられない趣味がおありだとか……ないか。あの方に限ってはなさそうだ。

 そのレオン・ヴァレンシュタイン統括団長の伴侶であるアルフォンス・ラトギプ(正式にはアルフォンス・ヴァレンシュタインとなるが便宜上騎士団内ではラトギプを名乗っている)となった魔法騎士も膨大な魔力を保有しており、騎士団の中では重要な役割を担っている。

 さて、そのお二人は二年ほど前に出会われたらしい。に長けている事務官の話によると、統括団長がアルフォンスを見初めたことがきっかけとのことだ。それから紆余曲折あり、結ばれたとか。思い返してみるとその頃、何やら辺境領について調べておいてくれとか、あちらの管轄がとうのこうのと聞かれた記憶が……関係あるのか?

 おれはさておき。

 騎士団の事務官をしている俺は、アルフォンスと顔を合わせることもある。別に親しい間柄という訳ではなく、事務所の受付対応で会うというだけの話である。
 アルフォンスが第二騎士団から第一騎士団へ異動となった詳細は国の重要案件であるため伏せられており、俺のような一般事務官には伝わってこない。しかし、国が保護しなくてはならない存在らしい。という噂。
 本人はまったく自覚がないそうで、周りの団長や責任者たちがやきもきする事態が数回……一人で探索に行こうものなら、無事に戻るまで騎士団内には殺伐とした空気が漂う。我々のような一般事務官の精神が削がれるので、是非御身を大切になさっていただきたい。
 怪我を負ったときどうなるか、おわかりいただけるだろう。診療所へ入れ代わり立ち代わり皆が様子を確かめに行くのだ。そりゃ治癒師のザムエル・ルーマンが怒鳴るはずだ。
『お前ら、仕事しろっ!!』と。

 最近、思っていることがある。いや、以前より顕著になったことがあるので、お二人の間近で職務こなしている俺の話をちょいと聞いてはくれないか?

 騎士たちには城内の宿直当番がある。一人一人に等級、要は魔力量の差があるため任務は数人の班単位で行なう。その班は等級が偏らないよう組まれており、班長以下の騎士は誰でもあたるわけだが。

 城内を巡回をするにしても、警備に立つにしても、楽な時間帯がある一方、過ごしにくい季節だってある。騎士個人がそういったことに応じた策を取るべきなのだが、それはそれとして差し入れなどがあると大変嬉しいのものだ。例えば冷やした汗拭きの布だとか、温かいスープだとか。そういうちょっとしたものである。
 事務官である俺には宿直などないが、間に合わせなければならない急ぎの書簡などがある場合、夜中まで事務所に残ることがある。そのときの出来事をひとつ思い出してみよう。

 あれは空気が澄んでいる少し寒い夜中のことだ。なかなか提出物が揃わず、けっきょく夜の遅い時間になってしまった。眠気を散らすために手を突き上げ背を伸ばしてみたものの、それくらいではどうにも目が冴えない。仕方なくかじりついていた机から離れ、窓際まで歩いて身体を動かすことにしたのだ。

(ああ、今夜は月がきれいだな)

 満月かそれに近い日なのか、外は存外明るかった。夜が深いというのに、警備をしている人物が誰なのかわかるくらいには明るさがあった。

(アルフォンスか、宿直とは珍しい……)

 夜闇に紛れてしまいそうな黒髪。月明かりに照らされ肌の白さが余計に際立つ。
 漆黒の剣シュヴェルトとは彼のことをよく表している二つ名かもしれない。凛とした佇まいは孤高のようで近づきにくいが、大声で笑うようなことはなくても以前よりも表情が柔らかくなったように思う。それはやはり婚姻による影響なのだろう。

(ああほら、あんな風に笑……って、笑ってる!?)

 城内では見たことがないその顔に驚いて、彼が見詰めるその先を辿ってみれば、そこにいたのはあの人であった。そう、我らが騎士団の統括団長でありアルフォンスの伴侶でもあるレオン・ヴァレンシュタイン。

 当たり前のようにお二人は引き寄せられ、そしてアルフォンスは団長の腕の中へその身を預けた……あ、うん。これは見ない方がいいやつだよな、と思いつつ俺は窓の縁に身を隠し、存在を消し、偶然を装って……あ、はい。
 俺にはお構いなしに(それはそう)お二人は互いの存在を確かめるように抱擁なさっていた。

 おそらく会話は小さな声だろうに、このときの俺には何故か聞き取れる能力が備わっていたらしい。聞こえるはずのない声が、すぐ近くで耳にしているかのようだった。
 以下にその様子を示すのでどうか査収してほしい。

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