上 下
31 / 45
陥落したその後の話

15.対策

しおりを挟む

 俺が眠り続けている間に、魔術紋を体内へ忍ばせた敵対者──件の騒動を踏まえ、隣国との検閲所にそういった魔術紋を感知する仕組みが推進された。攻撃性のある危険因子侵入を防ぐことが目的だ。
 事の経緯と俺の特異性を把握しているカミルが、数名の魔術師と共に展開する魔術構築担当にあたってくれた。秘匿しなくてはならない事項を伏せながら作業を分担するためには必然である。

 アレクシス王太子殿下や俺の魔力性質については、まだ解明できていない点が多々あるらしい。が、そもそも存在自体の重要性からして、公にされることはないだろう。騒動に関わった騎士団の者たちには箝口令が敷かれているし、単に俺が膨大な魔力で対処したと思われているかもしれない。
 とはいえ、同様の手口がいつ起きるかわからない。懸念を払拭するためにも、早急に対策を講じる必要があった。
 カミルは思うところがあるようで、担当者たちと連帯して数日のうちに仕上げてみせると躍起になっていたそうだ。その結果、『三徹で頭の中身が出てきそう……』と弱音を漏らしつつ、研究室に詰めていると聞いた。それを耳にした俺は邸の料理人に頼み、片手でも食べられる軽食や甘い焼き菓子の差し入れを頼んだ。
 感知する魔術が完成したと報告を受けたのは、つい先程のこと。携わってくれた魔術師たちが屍のようにそこかしこで寝ている惨状らしい。

 その後、俺の体力も無事に回復した。溜まっているであろう雑務と予定の確認をするため、騎士団本部へ顔を出すことに。明日からは通常の職務にあたるつもりだ。



 事務室へ入るとフェリクス第二騎士団長とコンラート第三師団長の姿。俺の顔を見て、フェリクス第二騎士団長が笑顔で迎えてくれた。人のことをとやかく言えないが、コンラート隊長は相変わらず表情が乏しい。いつもより眉尻が動いているかもしれないが、気づかない程度だ。

「アルフォンス、ご苦労だったな。体調はもういいのか?」
「はい、ご心配おかけしました」

 あの場にいたフェリクス第二騎士団長は経緯を目にしている。何が起き、どういったことがなされたのか、おそらく詳細もレオンから聞いているだろう。騎士団に入団してからずっと俺を気にかけてくれている人だ。殊更心配をかけたに違いない。

「無理はするなよ。また飯でも食いにいこう」
「ありがとうございます」

 一回り以上年上で面倒見の良いフェリクス団長に、兄のような親しみを覚えている。もちろん騎士団内の規律を乱すつもりはないから馴れ馴れしくしようとは思わない。ただ辺境への相談をできるくらいには、信頼関係を築けているのではないか。
 すると珍しくコンラート隊長からも声がかかった。

「アルフォンス……悪かったな、探るような真似をして」
「いえ、魔力のことは自認していなかったことですから」
「アレクシス王太子殿下はああいう方だが、先見の明がおありだ。この国は更に栄えるだろう。そうなれば稀有なお前の存在が知られ、狙われる可能性はある。油断しないことだ」
「はい、心得ております」

 コンラート隊長は何を考えているのか伝わりにくいと思っていたが、話してみれば嫌われていたわけではないと知れた。言葉少なであること、あまり動かない表情のせいなのだろう。もう少し感情豊かに話せば……いや、俺の乏しい表情も似たようなものかもしれない。
 ぶっきらぼうな物言いではあっても、どうやら心配されているらしいのだ。横からフェリクス団長に『コンラートなりに案じてる』とこっそり教えられた。

(これから、か……)


 周辺国へ魔力の特異性を知られてしまうと、俺を標的とした侵入者が増える可能性はある。捕えて連れ帰れば、いかようにも利用できるのだ。最悪の事態を想定するに、俺がこの国の脅威となる可能性も大いに有り得る。もちろんそうなった場合、俺は、俺の手で決するつもりではあるが。そうならないためにも改めて自分の立場を認識した。
 その懸念もあり、今後は魔術師団の魔術回路開発にも少なからず関わることになった。代わりがいないからこそうまく開発が進めば、ひいては自分を守ることにも繋がる。

 今日はゆっくり休めと労いの言葉をもらい、俺はいくつか書類を片付け数日分の予定を確認してから騎士団の事務室を出た。
 件の騒動は騎士団全体にも警戒を強めなければならない情報として伝えられたようだ。もちろん詳細は省いているだろうが、騎士団本部はどことなく落ち着きのない緊張感が漂っていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

薬屋の受難【完】

おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。 魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...