30 / 45
陥落したその後の話
14.深層
しおりを挟むいつの間にか部屋は二人きりとなっていた。俺はレオンの手を引いて、彼の掌を自分の頬へ押し付ける。その上から自分の手を重ね、存在を確かめたくて。
レオンはいつも俺を支え、包み、繋ぎ止めてくれる人だ。この手と同じように、いつも温かい。
「ちゃんと戻ってきましたよ。ご褒美をいただけますか?」
「そういうことをされたら、俺は遠慮なんてしないよ? でも、今日はさすがに無理はできないからね」
できないと言いながら両手で頬を挟まれ唇が下りてきた。優しく食みながら味わうようにされれば、自然と笑みが浮かぶ。
「アルフォンス……」
いつもより幾分甘く、そして真摯に名を呼ばれた。何かを伝えるための前触れなのだと、俺は少しだけ身構える。
「君のことが大切だ」
「レオン……」
「それなのに……俺はアルを危険に晒す。それでも、近くにいてほしい……アルを手放せない」
コツリ。額と額を合わせ、息がかかる距離。近すぎて、レオンの表情はぼやけて見えない。
「いくらでも俺を理由にしていいから。つらいことも苦しいことも、俺のせいにしていい。でも、必ず生きて」
「あ……」
「俺を欲しがって……全部あげるから。そばにいて」
身を差し出すことを厭わない俺に、レオンを求めればいいと言う。まるで俺が空虚になることを恐れているような、そんな言い方だ。もしも空いた隙間をレオンで埋め尽くすことができるなら、どうなってしまうだろう。そんなありもしないことを考えるなんて、どうかしている。
今でも充分甘やかされていると思うが、これ以上レオンを欲しがったら、彼なしでは生きていられなくなってしまうんじゃないか。それが少し怖いような気もして、無意識に自分の中で気づかぬふりをしている部分があった。
「アルが言ったんだ、『一緒に』幸せになろうって。君が瞳を閉じる瞬間まで、共にいるよ」
俺はその言葉に瞠目し、合わせていた額から少し離れてレオンを凝視した。
例え俺がいなくなったとしてもレオンは一人で生きていける。悲しみや絶望を抱えても、それでも立っているだろう。
けれどレオンがいなくなったら、おそらく俺の足元は崩れる。過ぎ去る時間に身を任せ、空の器になった俺に、色褪せたこの世界で生きることは無意味だ。
だから、一瞬でいい。レオンが姿を消すのなら、どうか俺が瞳を閉じた後に。
「んっ、レオンが……ほしい」
ああ、認めたくなかった。
俺の中に育ってしまった、こんなにも大きな存在を。知ってしまった温もりも、この腕も、もう離せないんだ。欲しがるだなんて、そんなきれいな言葉じゃ足りない。きっと、もっと、醜くて伝えられない激情だ。
そんな俺でもいいとあなたが望むなら、『幸せ』を探すのも悪くない。
俺はレオンの口内へ舌を押し入れた。熱いものを求め舌先で触れる。中でぬちぬち動かしていると、圧倒的な力強さで舌を絡め取られた。
「んんぅ、っ」
引き抜かれそうになって慌てて戻ろうとしたら、余計に強く吸われた。知られている弱い場所を嬲られ、ふるりっと身体が快感を拾う。くちゅくちゅ水音が耳に届けば余計に煽られた。
飲み下せない唾液が口角から垂れ落ち、首筋を伝う。レオンから解放されると熟れた息が漏れ、口元にちゅうっと吸い付かれてから舌先が溢れた唾液の跡を辿った。
首筋の柔らかい場所に赤い跡を残し下方へ向かうが、鎖骨のくぼみを舐められた。くすぐったくて肩を上げると、浮いた骨を噛まれた。
「………つ、っ」
痛みにぎゅっときつく瞼を閉じる。それさえレオンから与えられたものだと思えば喜びに変わった。
笑っている気がして閉じていた目を開けてみれば、やはり碧眼は細められていた。レオンの思う通りの反応をしてしまったのだと知り、少しだけおもしろくない。何か意趣返しできないものか考えても妙案なんて浮かばず、俺はレオンの首に腕を巻きつけた。
「レオン……」
身体の中を埋めてほしい。すべて奪ってほしくて、今はどうなってもいいからレオンに貪ぼられたかった。
レオンを失うかもしれない恐怖と、自分自身を投げ出してもいいと思えた切迫感。そして自覚したレオンへの深い恋情と、与えられたこの先の約束。感情がぐちゃぐちゃになる。
受け止めきれずに興奮している身体は、レオンを求めた。
ゆっくりベッドへ横たえられ、真上からとろりと蕩けた瞳で見つめられる。顔中にキスが降り、唇は寛げた胸へと触れる先を移動していった。
幾度も肌を強く吸われては朱印が付けられる。執拗にその行為は続けられ、チクリとする感覚がそこかしこへ散っていた。
いつも以上に優しく扱われ、胸への愛撫も丹念に施された。かえって刺激が弱くもどかしい。何度もレオンに愛されているうち、身体はすっかり作り変えられてしまったようだ。
焦れったさに腰が揺れ、もっと酷くしてほしいような、直接的な刺激を求めてしまう。淫らに強請る俺の様子に、レオンが仕方ないとばかりに小さく笑った。
「一回だけしようか」
それは濃厚な情事からすると、とても足りない回数だ。互いを求め何度も吐精しぐちゃぐちゃになり、俺は意識を保てないこともあるというのに。
一回という制約で、熱くなっている身体の欲が満たされるのかと疑問に思ってしまう。
すると俺の身体は横向きに変えられた。何をするのかわからず身を任せていると、背後から腕が回った。それから俺の太腿の隙間へ、レオンの猛った肉棒が突き入れられた。
「っひ……っ!」
ぬぽぬぽ出し挿れされているうちに、互いの先走った体液で徐々に動きは加速していく。隙間からレオンの雄が突き出るたび、俺の陰茎にも刺激が与えられた。
普段とは違う昂り方と裏筋の誘引に、快感が広がった。
「んっ、これっ、いつもと……ちがっ、あっ」
「気持ちいい?」
「ぅんっ、きもちぃ」
身体の負担を考えてくれてのことなのか、挿入することなく昂められる。初めての行為は淫猥でまた違った体感になった。
太腿を擦る熱さや感覚、突かれて擦れるという陰茎への刺激。レオン自身で奥孔を埋められるときは全然違う。それなのにもたらす快感はたまらない。
「レオ、んっ、……っ」
これだとキスができない。背後から抱き込まれるような体勢で難しい。顔が遠くて近くに寄ることはできなかった。いつもは塞がれるために、くぐもって漏れない喘ぎ声も、ひたすら俺の口から溢れていく。
手の甲で塞ごうとしたがうまくいかず、ひっきりなしに甘ったるい声が続いた。ゆさゆさ揺られるたびに、張りつめた先端からも蜜が伝い落ちる。
「あっ、もうでる……っ」
「イっても、いいよ?」
「ふっぁ、ァ……っうん……っ!」
前に回された手の扱く速度をあげ、達くことを促された。耳元から聞こえるレオンの息も荒くなり、共に白濁の液を吐き出す。俺の腹や足に二人分の精液を撒くことになり、青臭さと欲の熱量が漂った。
互いの整わない息が交差する中、俺は背後へ身をよじり、最中にしてもらえなかった口付けを強請る。
「ん、っ」
舌を絡ませ何度も吸い付いた。それでもまだ足りなくて、手を伸ばし縋って引き寄せ、いつの間にか寝落ちるまでレオンの存在を貪った。
他のことは何も考えられなかった。レオンだけに満たされたとき、ここにいればいいと、ただそれだけしか思えなくて──
472
お気に入りに追加
1,251
あなたにおすすめの小説
白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜
西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。
だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。
そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。
◆
白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。
氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。
サブCPの軽い匂わせがあります。
ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる