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陥落したその後の話
1.不安
しおりを挟む王都の上空は他国からの魔法攻撃を防ぐため、王城を中心として目には見えない半球状の結界で覆われている。その結界は地上まで続いてはいるが、効果が対人物というわけではない。そのため物理的な侵入を阻止する必要があり、地上は魔術を施した防御壁で囲われていた。
何事もなければ王都を覆う結界に手をかける必要はないが、防御壁はそうもいかない。幾度も攻撃を受けると脆弱になるからだ。特に山や森の近くは魔獣の出現率が高く、瘴気の影響なのかその傾向にある。
「アルフォンス、魔力を使いすぎだ。お前の悪い癖だぞ」
これまでのように戦うわけじゃない。慣れない魔力の使い方に手こずる俺へ声が飛ぶ。
俺の所属は第二騎士団から第一騎士団・第三小隊へ異動となった。魔獣討伐のように現地へ赴いていた第二騎士団とは違い、第一騎士団は王都での任務が主になる。
中でも第三小隊は国の防衛に関する任務が多い。俺は小隊の長であるコンラート隊長に伴なって防御壁を見回っていた。綻びかけている防御壁を修復しているが、より頑丈にしようと必要以上に魔力を注いでしまい、そのことへの指摘をされたのだ。
「見回る場所は残っているんだ。配分を考えろ」
「はい」
コンラート隊長は俺の修復作業を視認し、ここは終わりだとばかりに身を翻した。今日中に他の場所も確かめなくてはならない。
俺は残りの魔力量とこれから巡回する場所への配分を頭に置いた。防御壁の綻びが大事になっていなければ問題ないだろう。十分に補えるはずだ。
コンラート隊長にぞんざいな態度をとられることはないが気遣われたりもしない。急な配置転換で面倒を押しつけられたと思われている可能性はある。それも致し方ないことだ。
俺には構わず歩を進める隊長の背中を嘆息混じりで追いかけた。
ひと月前、レオンとの婚姻によって俺の環境は大きく変わり、とにかく慣れるのに必死だった。戸惑っている暇はない。
騎士団の団員寮はレオンの要望で同室となることが既に決まっていたため、統括団長に割り当てられている広い部屋へ荷物を移動させた。とはいっても私物はチェストひとつに収まってしまうほどで多くはない。ついでに不要な物は手放したこともあって、なおさら俺の身ひとつに近い状態だった。
部屋にある寝台はレオンの体躯に合わせてあるのか二人で寝るにも十分で、新しく俺用の寝台を増やす必要がなかった。別々に寝ることを反対されたことも理由のひとつにある。
ただ多忙なレオンは帰る時間が遅く、夜明け前に出ていくことも多い。婚姻を結んだばかりで蜜月のはずが、一人寝の日もあり、そういった雰囲気になることも少なかった。平日は拍子抜けするほど健全な夜が続いている。触れ合うにしても翌日への影響がないような抱き方しかされなかった。
このひと月でレオンの様々な面に触れた。今まで知らなかった多くのことを知ることができたし、知れたからこそ意外に思うことや案じる事柄もある。
そのひとつ。とにかくレオンは体力がある。身体が資本である以上、大切なことではあるのだが。
俺とはそんな頻度でしか睦み合っていないというのに、性欲を発散できているのか疑問に思った。あのレオンだ。俺を抱き潰した人だというのに。
だからといって毎日相手になれるかというとまた別ではあるが、そうなると俺に遠慮しているのか自分で処理してるのかそのあたりがよくわからない。
(それとも、別で済ませているのか……)
いまだに本当に俺でよかったのかと思うことがある。もちろんレオンを選んだのは自分の意志だ。レオンの気持ちを疑うつもりもない。ただ見目麗しく地位もあり、確固たる立場や家の名を持っているレオンだ。その相手が俺。どういった利があるのかと問われれば、魔力が多いことくらいだろう。剛腕の騎士たちに比べ細身で小柄な俺は、外見からして頼りない。剣に魔力を纏わせ強化することで誰とでも互角に戦えるし、小柄なことを活かした戦法で勝機を見出している。役には立っているだろうが、いってしまえばいくらでも替えの利く騎士の一人だろう。
だからどうしても『俺でいいのか』という考えは拭いきれなかった。
しかしレオンの隣にいると決めた以上やすやすと譲る気はない。少しだけ持ち得ている自尊心を仄かに揺らし、確かめようのないことを気にするのは止めた。
周りの環境が変わる中、一番の変化は騎士団内の異動だった。魔獣の討伐をしていた第二騎士団から、王族や国の防衛に関わる第一騎士団への異動だ。
第一騎士団の中でも防御壁や魔術回路を扱う第三小隊の所属。魔力を要することに変わりなく、わけがわからなくて途方に暮れることはなかった。魔法の扱いと剣術の鍛錬は変わらず続けている。
ただ魔獣を相手にしていた第二騎士団では多くの団員と共に討伐していたこともあり、俺がいようがいまいが多数いる団員の一人でしかなかった。魔法騎士だとしても、個人にかかる負担がそこまで大きくことはない。
ところが第一騎士団ではそうもいかず、個人の責任は重い。王族の警護や国の防衛ということもあり隊長自ら指導がなされている。それもあって中途半端な時期に異動してきた俺は、団員たちから探るような視線を向けられていた。
事情を話せるわけもなく。婚姻を結んだといってもヴァレンシュタインを名乗ればややこしいことになるため、俺は変わらずラトギプのままでいた。これでレオンの伴侶だとわかれば尚更うっとおしさが増しそうだ。
(隊長がたかが一人のために……と思われているんだろうな)
さすがに各団長・隊長たちにはレオンと俺が婚姻を結んだことは知られている。何かあれば対応してもらうことになるが、だからといって無闇に口へ出すような人たちではない。よって俺が特別扱いされることもなかった。
『お前がレオンの弱点でもある。自覚することだ』
コンラート隊長から言われた言葉だ。つまりは婚姻によってレオンの立場を揺るがす存在になってくれるなよ、という苦言でもあった。
防御壁の見回りが終わり騎士団本部までの回廊を歩いていると不躾な視線に晒された。相手にするつもりはないが、されて気分のいいものではない。
チラッと一瞥すればむこうが視線を外して、さも偶然だったかのように立ち去る。面倒だと思いながら俺は事務所へ向かった。
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