10 / 45
陥落するまでの話
10.報告
しおりを挟む騎士団本部へ顔を出してから寮へ帰ろうと思い、俺は第二騎士団の事務所へ向かった。おそらく討伐の事後処理班が到着したことは本部にも伝わっている。ということは一緒に俺も戻ったと判断されるが、自分で帰還の報告をしたほうが良いだろう。特に今回は。
何しろあの失態はあまりにも不甲斐ない。
事務所へ近づきたくないというのが本音だがそうも言ってられない。顔を見れば決断した気持ちが揺らいでしまいそうで、レオンの不在を願った。
ゆらゆら揺れ相反する感情の折り合いがつかないまま、第二騎士団事務所の前に着いてしまった。
迷っていても仕方がない。短く息を吐いてから、意を決して事務所のドアを開けた。
視線を動かし室内にレオンがいないことを確認する。ほっとしつつ姿を探してしまった自分に呆れた。
「アルフォンス、ご苦労だったな。怪我はもういいのか?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました。先ほど無事帰還しました」
執務をしていたフェリクス第二騎士団長に声を掛けられ、俺は礼を返した。団長の執務机の前まで進んで経緯や報告を済ませる。
他の在席していた事務官からも『おかえりなさい』という声が聞こえてきた。どう返せばいのかわからず『ただいま戻りました』くらいしか言葉は浮かばなかった。それでも事務官たちに安堵の様子が滲んでいたことがわかり、心配されていたことを知った。
「悪かったな、無理して連れ帰るより回復を優先させた。ここのところ忙しかっただろ、お前。休暇も取らないからな」
「……今回のことは自分のミスです」
「あまり己を責めるな。お前のあの姿を見て肝が冷えたぞ」
「すみません」
掠り傷程度のものは無数にあっても、これまで意識をなくしたことはなかった。それなりに高い魔力を保有している自覚はあったし、傲ることなく技術を磨いてきたつもりだ。自信はあっても過信することなく常に気を張っていたのだが、あれは失態以外の何物でもない。団長にも余計な心配をかけてしまった。
フェリクス団長からスッと真顔を向けられる。ここへ戻る前に俺はこれからのことを手紙に記し、先に伝えていたのだ。
「……お前の考えは変わらないのか?」
「はい」
声の大きさは抑えられている。二人だけにしか聞こえないし、内容も端的でなんのことか知られることもない。
そうか、と溜息混じりのフェリクス団長の声は、何を言っても無駄であると察してくれていた。
俺は王都の騎士団本部から離れたいと申し入れたのだ。もうここにはいられない、覚悟を決めたから。しかしアテのないまま彷徨っても生きていくことは難しい。王立騎士団という組織に属さない俺では信頼度も下がる。そこでフェリクス団長から辺境伯への口添えを頼んだ。
「一週間後を目処に準備してくれ。こちらもそのように話をつけておく」
「ありがとうございます」
無理な願いを叶えてくれたことに感謝の意味で深く礼をとって辞した。周りに聞こえていたとしても職務の話と思われただろう。
俺は自分の魔力と騎士団での経験を活かせる辺境伯領へ行くつもりだった。国境を守る辺境伯が長となるため王立騎士団とは別の組織となる。
あそこならば近くに出現する魔獣の討伐や、国境沿いの争いに駆け付けられるから。王都の騎士団とは違う形で、この国に尽力できればと思っていた。
それに様々な噂話も辺境伯領まで届くことはない。例えレオンが婚姻を結んだとしても、遠地であれば貴族の婚姻として紙面で伝わるはずだ。俺がわざわざ目にしようと思わない限り、そういった話題を知ることもない。騎士団ではないのだから王都のようにそこかしこで耳にすることはなくなる。
団員寮の荷物はそれほど多くはない。元々物欲はないし生活できる最低限の物しか私物を持っていないのだ。すぐに荷造りも終えるだろう。発つまでに一週間あるなら、他にもやっておくべきことができそうだ。
団長ならばともかく団員一人が辞めるくらいで、レオンにはいちいち報告は上がらない。
黙って騎士団から消えることになってしまう後ろめたさはあっても、後悔はしないと決めている。この気持ちごと辺境領へ連れて行き、いつか……想いが消えることを願った。
俺はぎゅっと手を握り締め、団員寮へ向かって歩き出した。
470
お気に入りに追加
966
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
執着系義兄の溺愛セックスで魔力を補給される話
Laxia
BL
元々魔力が少ない体質の弟──ルークは、誰かに魔力を補給してもらわなければ生きていけなかった。だから今日も、他の男と魔力供給という名の気持ちいいセックスをしていたその時──。
「何をしてる?お前は俺のものだ」
2023.11.20. 内容が一部抜けており、11.09更新分の文章を修正しました。
凶悪犯がお気に入り刑事を逆に捕まえて、ふわとろま●こになるまで調教する話
ハヤイもち
BL
連続殺人鬼「赤い道化師」が自分の事件を担当する刑事「桐井」に一目惚れして、
監禁して調教していく話になります。
攻め:赤い道化師(連続殺人鬼)19歳。180センチくらい。美形。プライドが高い。サイコパス。
人を楽しませるのが好き。
受け:刑事:名前 桐井 30過ぎから半ば。170ちょいくらい。仕事一筋で妻に逃げられ、酒におぼれている。顔は普通。目つきは鋭い。
※●人描写ありますので、苦手な方は閲覧注意になります。
タイトルで嫌な予感した方はブラウザバック。
※無理やり描写あります。
※読了後の苦情などは一切受け付けません。ご自衛ください。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる