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陥落するまでの話
6.討伐
しおりを挟むあの警備下見という名の食事以降、レオンの様子に変わりはない。騎士団内で見かけても統括団長として多忙な日々を過ごしているようだし、俺への態度は団員に対するもの以上でも以下でもなかった。
輝く金の髪はあの日と同じだけれど、ここでは令息というより獅子のたてがみのごとく雄々しい。防衛の要、騎士団の長。纏う雰囲気はまるで違う。つまりはそういうことだ。
レオンは切り替えがうまいのか、休息日の気を抜いた緩やかな雰囲気は皆無。あれはやはりただの挨拶で、深い意味はなかったと思い知らされる。自分ばかりがこんなに意識して滑稽だ。『挨拶』もしくは『感謝の意』……俺が気にするようなことじゃない、意味なんてないんだから。
指先に触れた熱を思い出しかけ、慌てて頭の中から追いやった。
ただ魔獣討伐の準備や試したい魔術があるときなど、レオンに呼び出される回数は増えたかもしれない。剣術を得意とし魔法も使いこなせる俺は有用な団員だからだ。
見回りや討伐で現地に出向いているからこそ、実状を把握した意見を求められた。
「アル、君から見て、南の魔獣は水魔法で対応するべきだと思う?」
「南……確かにあの地域は火属性の魔獣が多く出現します。だからといってすべての個体が水魔法に弱いわけではなく、例えば砂状の物理的な攻撃も一定の効果が得られます」
「なるほど、砂状か……編成を見直すいい機会かもしれないな……ありがとう、参考にするよ。ああ、事務所へ戻るかい? それならこの書類も頼む」
「わかりました」
レオンの机上に積み重ねてあった書類の山が半分に減っただろうか。魔獣討伐に関する内容だからと、俺も処理を手伝った。
統括団長の執務室でこうして二人だけになるときがある。職務中だから『統括団長』と呼ぶことにしているのに、笑顔で圧をかけてくるので、最近はレオンと呼ぶようになっていた。もちろん周りに誰もいないからできることだ。
入団から多くの経験を積み、忙しくも平穏な日々はこうして過ぎていった。討伐に行けば身に危険が迫ることもたまにはあったが、怪我を負うことなくこれまで対処できている。
俺が属している第二騎士団の中でも大型魔獣に応戦する小隊にいるため、一度討伐に向かうと戻るまでにひと月かかることもあった。国の防衛としてそれだけ重要な役目を担っているともいえる。
いつも通り冷静でいれば。外音なんて気にしなければ、剣の実力も魔力もある俺にとって何てことはない闘いばかりだった。
その日は僅かな隙が生まれていたのだ。
第二騎士団員と第三騎士団員を前に、レオンから現状報告があった。数日前、混沌の森のはずれに魔獣が数体出現したのだ。すぐに先行部隊が投入され状況を把握、凶悪な個体ではないと伝達が入った。
しかし騎士団本隊が到着するまで足止めをしているものの、想定以上に手強く押されているらしい。刺激しないよう気を逸らす攻撃を仕掛けているのだろうが、致命傷とならない分、相手をうまく操らなければならない。
一定量以上の魔力を有する騎士たちが取り囲み、一気に伐たなければ絶命させることはできないからだ。それができる団員をこれから向かわせる話をしている。
「あまりよくはない状況だけど、難しい討伐ではないかな」
「第二騎士団から三人出すか?」
「そうだね、第三騎士団からは二人ほど。総指揮はフェリクスに頼むよ。無理はさせず撤退の判断は各自に任せる」
「承知した」
フェリクス第二騎士団長の指示のもと、各団が慌ただしく動く。俺も出征の命を受け、身支度を整えた。出立する後発組にレオンから詳しい現地の状況とこれから行う戦術や注意点等の話がなされる。難しい討伐ではないが、決して油断もしてはならない。小さな慢心は命取りだ。
「アル、気を付けて行っておいで」
「はい」
レオンに頬を撫でられた。まるで守りの付与みたいなものだった。
今回はフェリクス第二騎士団長を筆頭に、第四小隊、第五小隊が援護として後発組に入っている。一気に終わらせるため、それなりの数で投入できる人員を向かわせることになった。
俺を含め五人が攻撃魔法を得意とした魔法騎士だ。これまで何度か顔を合わせているだけあって、魔獣への駆け引きや戦術もうまくいくだろう。きっと大丈夫だ。
「皆、無事の帰還を」
統括団長であるレオンの声で、俺たちは騎士団本部を出立した。
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