上 下
6 / 45
陥落するまでの話

6.討伐

しおりを挟む

 あの警備下見という名の食事以降、レオンの様子に変わりはない。騎士団内で見かけても統括団長として多忙な日々を過ごしているようだし、俺への態度は団員に対するもの以上でも以下でもなかった。
 輝く金の髪はあの日と同じだけれど、ここでは令息というより獅子のたてがみのごとく雄々しい。防衛の要、騎士団の長。纏う雰囲気はまるで違う。つまりはそういうことだ。

 レオンは切り替えがうまいのか、休息日の気を抜いた緩やかな雰囲気は皆無。あれはやはりただの挨拶で、深い意味はなかったと思い知らされる。自分ばかりがこんなに意識して滑稽だ。『挨拶』もしくは『感謝の意』……俺が気にするようなことじゃない、意味なんてないんだから。

 指先に触れた熱を思い出しかけ、慌てて頭の中から追いやった。

 ただ魔獣討伐の準備や試したい魔術があるときなど、レオンに呼び出される回数は増えたかもしれない。剣術を得意とし魔法も使いこなせる俺は有用な団員だからだ。
 見回りや討伐で現地に出向いているからこそ、実状を把握した意見を求められた。

「アル、君から見て、南の魔獣は水魔法で対応するべきだと思う?」
「南……確かにあの地域は火属性の魔獣が多く出現します。だからといってすべての個体が水魔法に弱いわけではなく、例えば砂状の物理的な攻撃も一定の効果が得られます」
「なるほど、砂状か……編成を見直すいい機会かもしれないな……ありがとう、参考にするよ。ああ、事務所へ戻るかい? それならこの書類も頼む」
「わかりました」

 レオンの机上に積み重ねてあった書類の山が半分に減っただろうか。魔獣討伐に関する内容だからと、俺も処理を手伝った。
 統括団長の執務室でこうして二人だけになるときがある。職務中だから『統括団長』と呼ぶことにしているのに、笑顔で圧をかけてくるので、最近はレオンと呼ぶようになっていた。もちろん周りに誰もいないからできることだ。



 入団から多くの経験を積み、忙しくも平穏な日々はこうして過ぎていった。討伐に行けば身に危険が迫ることもたまにはあったが、怪我を負うことなくこれまで対処できている。
 俺が属している第二騎士団の中でも大型魔獣に応戦する小隊にいるため、一度討伐に向かうと戻るまでにひと月かかることもあった。国の防衛としてそれだけ重要な役目を担っているともいえる。

 いつも通り冷静でいれば。外音なんて気にしなければ、剣の実力も魔力もある俺にとって何てことはない闘いばかりだった。



 その日は僅かな隙が生まれていたのだ。

 第二騎士団員と第三騎士団員を前に、レオンから現状報告があった。数日前、混沌の森のはずれに魔獣が数体出現したのだ。すぐに先行部隊が投入され状況を把握、凶悪な個体ではないと伝達が入った。
 しかし騎士団本隊が到着するまで足止めをしているものの、想定以上に手強く押されているらしい。刺激しないよう気を逸らす攻撃を仕掛けているのだろうが、致命傷とならない分、相手をうまく操らなければならない。
 一定量以上の魔力を有する騎士たちが取り囲み、一気に伐たなければ絶命させることはできないからだ。それができる団員をこれから向かわせる話をしている。

「あまりよくはない状況だけど、難しい討伐ではないかな」
「第二騎士団から三人出すか?」
「そうだね、第三騎士団からは二人ほど。総指揮はフェリクスに頼むよ。無理はさせず撤退の判断は各自に任せる」
「承知した」

 フェリクス第二騎士団長の指示のもと、各団が慌ただしく動く。俺も出征の命を受け、身支度を整えた。出立する後発組にレオンから詳しい現地の状況とこれから行う戦術や注意点等の話がなされる。難しい討伐ではないが、決して油断もしてはならない。小さな慢心は命取りだ。

「アル、気を付けて行っておいで」
「はい」

 レオンに頬を撫でられた。まるで守りの付与みたいなものだった。

 今回はフェリクス第二騎士団長を筆頭に、第四小隊、第五小隊が援護として後発組に入っている。一気に終わらせるため、それなりの数で投入できる人員を向かわせることになった。
 俺を含め五人が攻撃魔法を得意とした魔法騎士だ。これまで何度か顔を合わせているだけあって、魔獣への駆け引きや戦術もうまくいくだろう。きっと大丈夫だ。

「皆、無事の帰還を」

 統括団長であるレオンの声で、俺たちは騎士団本部を出立した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

モブの強姦って誰得ですか?

気まぐれ
BL
「お前を愛している。」 オッスおらモブ!こに世界では何も役に立たないモブ君だよ! 今ね、泣きたいんだよ。現在俺は尊敬していた勇者に強姦されている!皆ここからが重要だぞ! 俺は・・・男だ・・・ モブの俺は可愛いお嫁さんが欲しい! 異世界で起こる哀れなモブの生活が今始まる!

無理矢理嫁がされた俺に何を求めるって?

隅枝 輝羽
BL
子爵家の三男エイデンはあまり貴族っぽくない領地引きこもり型の18歳だった。そんなエイデンが何故か王太子の側妃として嫁ぐことになってしまった。どうして自分がと訳もわからず、淡々と生活しているが……。 ※攻めには正妃がいて子どももいます。地雷の方はブラウザバックしてください。 診断メーカーで出たお題『攻めが受けに普通にイチャラブえっちしたいと言う』から作ったお話です。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

「本編完結」あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、R指定無しの全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 6話までは、ツイノベを加筆修正しての公開、7話から物語が動き出します。 本編は全35話。番外編は不定期に更新されます。 サブキャラ達視点のスピンオフも予定しています。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat) 投稿にあたり許可をいただき、ありがとうございます(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ ドキドキで緊張しまくりですが、よろしくお願いします。 ✤お知らせ✤ 第12回BL大賞 にエントリーしました。 新作【再び巡り合う時 ~転生オメガバース~】共々、よろしくお願い致します。 11/21(木)6:00より、スピンオフ「星司と月歌」連載します。 11/24(日)18:00完結の短編です。 1日4回更新です。 一ノ瀬麻紀🐈🐈‍⬛

側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

とうや
BL
【6/10最終話です】 「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」 王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。 あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?! 自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。 ***********************   ATTENTION *********************** ※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。 ※朝6時くらいに更新です。

処理中です...