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陥落するまでの話

2.入団

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 この人を見たとき、本能的に何かを感じた。

「統括団長のレオン・ヴァレンシュタインだ。君たちを歓迎する」

 輝く金髪に碧眼、逞しくもスラッとした長身と溢れ出る魔力。そこに加えて侯爵家の次男という出自。

 この国では高貴な身分であるほど魔力量が多い。そのため血統が重んじられている。高位貴族たちが政略的な婚姻を結ぶのは、智や剣となり国を支えるためでもあり貴族たちが優遇される所以だ。政に関わる重要な立場や国の防衛に携わる騎士団の長は、上位貴族の者がその役目を担っていた。

 長く受け継がれた爵位や血統により整ったかんばせの持ち主も多い。なるほど。騎士団の長ともなれば人が羨むものすべてを持ち得ている。だがそれだけではなく、五頭の蛇を倒した最強剣士として実力も伴っているらしい。

 人の噂は当てにならないことが多く話半分として聞くが、こと統括団長に関しては誇張じゃないと明らかになった。
 存在するのだ。欠点がひとつも見つからない人間というものが。

 俺、アルフォンス・ラトギプは伯爵家の三男だ。爵位を継ぐ嫡男でもスペアの次男でもないため、自由といえば聞こえはいいがいわゆる自分の身を立てなければならない立場だった。
 父がいくつか保有している爵位のうち男爵位を継いでもよかったのだが、既に代理の人間が上手く領地管理を行っていた。信頼関係が形成されている土地に俺が手を出せば、おそらく同じようにいかなくなるだろう。騎士となれば生きていくには困らないだけの食料と収入、そして住まいが手に入る。家から離れても一人で生きていけるんじゃないかと打算的な考えで入団を決めた。

 とはいっても強国の騎士団である。簡単に入団できるような甘い組織ではなく、ある程度の魔力と剣の腕がなければ叶わない。国の防衛。騎士団が相手にしているのは魔獣や敵対する人間になるからだ。
 ただ幸いにして俺には魔力がほどほどあり、幼い頃から剣術の指導を受けていたため、入団するには十分な資質を持ち合わせていた。加えて王立高等学園での一般的な教養や勉学を早期に修了し、既に卒業資格も得ている。そのことによって王族方の警護も担えるはずだ。

 想像に違わず、問題なく騎士団への入団は決まった。今日は様々な説明や書類の提出、そして団員寮への入寮日だ。能力の判別や得意分野の精査によって配属先は決まるらしいが、手続きの後、新たな入団員のうち数名が統括団長と対面することになっていた。
 どうやら魔力量の多さが呼ばれた理由で、編成の関係なのだとか。訓練場で並ぶ俺たちに統括団長の話は続く。

「君たちの配属先を決定するにあたり、俺と手合わせしてもらう。攻撃の動きや癖、魔力量の確認だからね、本気で構わないよ」

 これは挑発なのか? それとも実力ゆえの余裕なのか。統括団長は横一列に並んでいる新入団員をゆっくり見渡し、一人一人の目を見ながら薄っすら笑顔を向けられた。

(目が笑ってない……)

 騎士団の統括団長といっても大柄な筋肉質の猛者ではなく、長身かつ体格がよいだけに見えた。一見、倒そうと思えばできるんじゃないかと。それくらい猛々しさは感じられない。
 しかし多くの強者つわものを束ねているだけあって、煽るための言葉ではないはずだ。

 その統括団長が俺を見たとき、一瞬目を細めたような気がする。俺も貴族籍がゆえにどこかで会ったことが──と思いはしたが、その可能性は低い。ほぼないだろう。侯爵家と伯爵家では家格が違うし、何より年齢が離れている。もう少し近ければ学園なり茶会で顔を合わせていたかもしれないが、やはり気のせいか。

「では左の者から順に……五分あれば充分かな。頼んだよ、ギル」
「ああ。ではこれより始める。前へ出て構えよ」

 統括団長は同席している第一騎士団・第一小隊長に声を掛け、広い訓練場の中央へおもむろに向かった。手には何も携えていない。ギルと呼ばれたギルベルト小隊長が進行を務め、俺とは対の側の団員へ視線で前へ出ることを促した。

 ここにいる時点で手合わせを始める団員には自信があったのだろう。王立騎士団へ入団できたということは、それだけの魔力と剣の技術を持っているという証明だ。
 だから本気でいいと煽られるなど屈辱でしかない。ぐっ、と雰囲気が変わった。
 その相手が騎士団の長、それはすなわちこの国の最強──冷静に考えればわかることだというのに、緊張と見栄が判断を鈍らせたのかもしれない。

 前へ出ることを促された団員は間を置くことなく最初から全力で剣へ魔力を注ぎ、いきなり統括団長へ襲いかかったのだ。

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