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陥落するまでの話
4.任務
しおりを挟む今日は数人の団員で王都のはずれまで見回りの担当になっていた。何かが起こるような場所ではないが、気を配らねばならない。澱みやすいと言えばいいのか、騎士団では定期的な巡回をしている。
ややうっそうとしてはいたが特段異常は認められなかった。短時間で見回りを終え、騎士団本部へ戻ることになった。ただ大したことのない魔法だとしても行使すれば報告書の提出が必須となっている。
「報告書出しておけよ」
「わかりました。お疲れ様です」
先輩騎士の背中を見送ってから俺は騎士団の事務所へ立ち寄ることにした。まさしく今日は報告書の提出が必要なのだ。
例えば威嚇のための火魔法だとか、暗がりの地を照らす光魔法だとか。小さなことが積み重なるとそれは傾向となり、魔獣の出現頻度や防衛に関する情報となるからだ。ちょっとした報告書記載のためだけに騎士団事務所まで行くことを面倒に思う先輩は多い。だから報告書の提出は下の者の役目となっていた。
俺は第二騎士団の所属となり、入団から一年が経っていた。
王立騎士団は王族の警護などを担う第一騎士団、魔獣討伐や敵対国の応戦をする第二騎士団と第三騎士団。そして城下や王国内において人海戦術に対応する第四騎士団、第五騎士団で構成されている。
その中で魔力の高さと現場での応用力、淡々と任務にあたる姿勢から俺の配属先は第二騎士団に決まった。のだが──
「おかえり、アルフォンス」
「……ただいま戻りました」
第二騎士団の事務所へ行くと、統括団長の姿があった。騎士団を統べる立場だからこういった事務所や執務室にいることは珍しくない。むしろ現場におもむくことのほうが珍しいわけで、当然、第二騎士団の事務所にいたって何ら不思議ではないとしても、頻度がおかしいのだ。
俺が事務所を訪れるとき、高確率で遭遇する。
「ちょうどいいところに戻ったね」
その言葉に『またか』と身構えてしまった俺はきっと悪くない。ちょうどいいとは誰にとってのちょうどなのか。少なくとも俺じゃないことは確かだ。
魔法も剣術も得意とする魔法騎士の俺は便利なのか扱いやすいのか、これまでに何度か範疇外のことをさせられていた。警護や演習に関わるならともかく騎士の職務とは関係ないことばかりで、別の誰かでよいのではないかと思っている。
例えば買い出しであったりどこかの高位貴族の集まりだったり。わざわざ統括団長が自ら? と思いはするものの、自分の目で直接見たいし、話を聞くことで仕入れられる情報があるからね、と言われてしまえば従うしかない。何やら権力者たちとこそこそ耳打ちしているようだし。俺が知り得ないことがあるのだろう。
長である統括団長を無視するわけにもいかず話を聞くつもりではあるが、先にやらねばならないことを終わらせてもいいだろうか。
何もかもこの統括団長を優先していたら、自分のやりたいことが滞る。最近では上司だからといって遠慮しないことにいしていた。
そう思って俺は統括団長から視線を外す。事務所の記載台に常置してある用紙を一枚手に取り、記載項目に今日の任務内容を記入していった。重要点を書き漏らさないように思い出しながらペンを滑らせ、ときどき説明文に迷いつつ記入を終わらせた。
(見られてる)
すべての項目が埋めてあることを確認して事務官へ提出する。俺が記載している間、統括団長は話しかけてくることはなかった。用件を聞きながらでもよかったのに、俺に視線を向けてはいても無言だ。
書き終わるのを待っていたのか俺の手が空いて向き直ると、ようやく話し始める。
「王太子殿下と婚約者殿が来月城下へお出ましになられる。その下見に付き合ってくれないかい?」
「警備のためですか?」
「半分は。俺の休息日も兼ねていてね」
「それでしたら、別の誰かでよいのでは? いくらでも協力したいという人がいるでしょう」
「それが、訪れる店は貴族の素養があると助かるんだ。しかも仕事込みで共に過ごしたいなんて誘えると思うかい?」
協力したい誰かの存在は否定しない。
どうやら声を掛ければいくらでも相手はいるらしい。なんだかモヤッとしたのは気のせいか。
単なる警備の下見なら団員の誰でもよいだろうが、そう言われてしまえば確かに適任者は絞られる。騎士団の中に貴族籍の者がいないわけではないが、組織の責任者となっている者が多く、お忍びの下見くらいでは統括団長と共に行動することは少ない。
作法が必要だというならその場しのぎで身につけることも可能だが、どこかしらで粗が出てしまう。統括団長に伴って入店するとなると、それなりの素養は必要だろう。
伯爵家の生まれで王立高等学園を修了し、警備の観点からも確かに俺は適任かもしれない。
王太子殿下の名を出されてしまえば断るわけにもいかず、頷く以外の選択肢はなかった。
「わざとですね?」
「おやおや、これはれっきとした任務だよ? 休息も込みとはいえ俺が持ち込んだ仕事じゃない」
俺の返事など確かめもせず『詳細は後日連絡するからよろしくね』と、勝ち誇った顔でひらひら手を振られてしまった。ああ、また勝手に決められた。こうなると従うしかなく、俺は苛立ちまぎれにドアをバタンと閉じて事務所を後にした。
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