3 / 6
3.君の倫理、僕の言葉
しおりを挟む―――ああ、体が痛いな。
うつらと重たい瞼が少し持ち上がる。どこだっけ。何だっけ。見たことのある部屋で何をしていたのだったか。
ぼんやり記憶を辿っていくと、瞬時に恐怖と逃げなきゃいけない感情を思い出した。
「あ、っ……!」
目を見開いて、まずうつ伏せでベッドの上にいることに気付く。動かそうとした体が痛んで、転んだことや背中を踏み付けられたことが蘇った。
だけど知っているこの部屋にいるということは、心配がないハズだ。どうしてここにいるのかはまったく記憶はないが、たぶん気を失ってしまったのだろう。おそらく誰かに助けられ、ここまで運ばれてきたんじゃないかと思う。
「ギード……?」
部屋の主を探して、僕は首と視線を動かした。書棚の本、よく使う小物たちや魔導具。やっぱりギードの部屋にあるものだ。だけど人の気配がないかもしれない。
僕はゆっくり体を起こそうと思ってベッドへ手を突くつもりだった。それなのに動かそうとした腕が自分の思ったようにならない。
(え、……?)
シャラと無機質な音が響いた。手首に冷たいものが巻き付いている。違和感にそっちを見たら右手に細い手枷が付けられていた。
「……何で?」
ここはギードの部屋ではないのだろうか。てっきり助けられ、運ばれたものだと思っていた。
実はあの男たちに捕まり拘束されたのか?
いや、それにしてはギードの部屋とそっくりだ。置いてあるものや部屋の作りが、まったく同じだなんてことあるわけがない。
それなら何故こんな拘束具が付けられているのか、理由がさっぱりわからなかった。
転んだときの擦り傷はそのままで、身じろげば腹や背中も痛みがある。もしもギードがいるなら、手当くらいしてくれるハズだ。じゃあやっぱりここは違うのか?
どうにも僕の認識と合致せず、自由が奪われていることもあって混乱しそうになった。
「ああ、起きたの?」
「ギード…」
カチャリと開いたドアから入ってきたのは、やはりギードだった。もしかしたら知らない誰かなんじゃないかと思って身を固くしていた僕は、ホッと体から力を抜いた。
僕のくすんだアッシュブロンドとは違い、艶のある黒髪を掻き上げながらこちらへ近付いてくる。
ひとまず危険だったあの状況からは逃れられたらしい。だったらこの謎の手枷は誰が着けたと言うんだ?こうして見てもこの反応ということは、ギードってことになるんだが。何で?
「あの、これ…とか。ここにいるのは、助けてくれたの?」
「うん、それは俺が着けたの。あいつらから助けたのも俺だね」
「そう、なんだ。ありがとう…」
「どういたしまして」
いつも通り冷静で、やさしく口角を少し持ち上げた微笑。だけど目が、笑ってない。ドロッとした纏わりつく劣情がそこから感じられた。
こんな鎖に繋がれてありがとうと返したのは正解だったのかな。良くなかった気がする。でも他に何て言ったらいいのかわからなかった。
「オスカーから伝言魔法で『リンが男引っ掛けに行ったぞ』って聞いたんだ。だから迎えに行かなきゃと思って。そしたら変なやつらがリンに触れてたから消しといたよ」
「へ……?」
消した?消したって、助けてくれたって意味だよな。目の前から退かしてくれた……だけだ、よな。ちょっと言葉が物騒で意味を掴みかねた。
そして並べられた説明が半分よくわからない。色々なことをいっぺんに言われても、処理が追い付かなかった。
ん? オスカーか、何でオスカーがギードに連絡してるの? しかも男引っ掛けにって言い方……いやまあ、違うけど違くないなんてこともないのかな。ただ知り合うきっかけに、なんて思っただけなんだけど、そう言ってもダメな気がする。
「あ、の……ギード?」
「『優しい人』が好きなんだよね? あと『拘束しない人』だったかな」
「え、は?」
質問なのか確認なのか、それとも呟きなのか。こちらを見ながら言われれば、僕に向けての言葉なんじゃないかと思案してみる。
優しい人というのは僕が言った覚えがある。怒鳴り声が苦手でどうしたって威圧的な態度の人は近寄りたくない。恐い。だから穏やかな優しい人を求めるのは道理だと思う。普通に優しい人が世の中の大多数で、特段の優先事項というよりは普通に相手を思いやれる人なら問題ないという意味だ。
あとは、拘束しない人なんて言ったことあったかな。全然記憶にない。え、ちょっと待って。拘束しないって、こういう拘束具の拘束? え、ん? 拘束具は普通にされたくないけど、されてるよね。ん?
139
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
次期公爵は魔術師にご執心のようです
みつきみつか
BL
【R18】魔術アカデミーで講師をしていた若き魔術師ロイは、人間関係に疲れ、学術都市の郊外にある小さな研究所の臨時勤務を選んだ。
父の勧めで隣国の商家令嬢との縁談も決まり、あとは国を出るまで好きな研究に没頭する日々……と思いきや、ある日やってきたのは、魔術アカデミー勤務の前の城付き魔術師だった頃の生徒で、公国の次期元首である公爵家の長男ヴィンセント。
「急にいなくなるなんてーーひどいです。先生」
執着系美形次期公爵×無自覚系幼馴染魔術師。
R18は(※)をつけます。
やや無理矢理ですがハッピーエンドです。
設定ふんわり気味の異世界ファンタジーです(お許しください)。
全六話です。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
初めてを絶対に成功させたくて頑張ったら彼氏に何故かめっちゃ怒られたけど幸せって話
もものみ
BL
【関西弁のR-18の創作BLです】
R-18描写があります。
地雷の方はお気をつけて。
関西に住む大学生同士の、元ノンケで遊び人×童貞処女のゲイのカップルの初えっちのお話です。
見た目や馴れ初めを書いた人物紹介
(本編とはあまり関係ありませんが、自分の中のイメージを壊したくない方は読まないでください)
↓
↓
↓
↓
↓
西矢 朝陽(にしや あさひ)
大学3回生。身長174cm。髪は染めていて明るい茶髪。猫目っぽい大きな目が印象的な元気な大学生。
空とは1回生のときに大学で知り合ったが、初めてあったときから気が合い、大学でも一緒にいるしよく2人で遊びに行ったりもしているうちにいつのまにか空を好きになった。
もともとゲイでネコの自覚がある。ちょっとアホっぽいが明るい性格で、見た目もわりと良いので今までにも今までにも彼氏を作ろうと思えば作れた。大学に入学してからも、告白されたことは数回あるが、そのときにはもう空のことが好きだったので断った。
空とは2ヶ月前にサシ飲みをしていたときにうっかり告白してしまい、そこから付き合い始めた。このときの記憶はおぼろげにしか残っていないがめちゃくちゃ恥ずかしいことを口走ったことは自覚しているので深くは考えないようにしている。
高校時代に先輩に片想いしていたが、伝えずに終わったため今までに彼氏ができたことはない。そのため、童貞処女。
南雲 空(なぐも そら)
大学生3回生。身長185cm。髪は染めておらず黒髪で切れ長の目。
チャラい訳ではないがイケメンなので女子にしょっちゅう告白されるし付き合ったりもしたけれどすぐに「空って私のこと好きちゃうやろ?」とか言われて長続きはしない。来るもの拒まず去るもの追わずな感じだった。
朝陽のことは普通に友達だと思っていたが、周りからは彼女がいようと朝陽の方を優先しており「お前もう朝陽と付き合えよ」とよく呆れて言われていた。そんな矢先ベロベロに酔っ払った朝陽に「そらはもう、僕と付き合ったらええやん。ぜったい僕の方がそらの今までの彼女らよりそらのこと好きやもん…」と言われて付き合った。付き合ってからの朝陽はもうスキンシップひとつにも照れるしかと思えば甘えたりもしてくるしめちゃくちゃ可愛くて正直あの日酔っぱらってノリでOKした自分に大感謝してるし今は溺愛している。
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
婚約破棄してくれてありがとう、王子様
霧乃ふー 短編
BL
「ジュエル・ノルデンソン!貴様とは婚約破棄させてもらう!!」
そう、僕の婚約者の第一王子のアンジェ様はパーティー最中に宣言した。
勝ち誇った顔の男爵令嬢を隣につれて。
僕は喜んでいることを隠しつつ婚約破棄を受け入れ平民になり、ギルドで受付係をしながら毎日を楽しく過ごしてた。
ある日、アンジェ様が僕の元に来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる