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第11章 マーロ商会

#58 家事教室

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 マーロ商会と提携を結ぶために新たな商品を生み出すことになったハヤトは、聖都市のお店で試行錯誤を始める。
 だが普段の生活で使える商品と言われても、ハヤトは家事全般を全くしてこなかった中学生だ。
 こちらの世界に来たからといって家事を始める訳はないので何から手を出して良いのか分からず、今回はヒソネの指導の元で色々と教わることになった。

■■■

 掃除、洗濯そして料理と様々な家事を一通り経験し思ったことをヒソネに伝える。

「良く、こんなに大変なことを毎日出来ますね……」

 この世界には当然のように掃除機も洗濯機も食洗機もないので、ほとんどの作業は人力で行う必要がある。
 それを全て味わってみたからこそ、これを毎日のように無償で行ってくれていた親、そして身の回りにいる人に感謝しなければいけない。

「まぁ生きるためにしなければいけないことですから。でもこれらが楽になる手立てが出来たなら、主婦は皆が喜ぶでしょうね」

「うん、確かにそうだね。細かな魔法の制御を皆が出来るのなら問題ないだろうけど難しいし、動力が魔力でも制御を自動に行える物を作れば……」

 マーロ商会との提携のためではあるが、一つでも浮かんだアイデアを実現させて皆の仕事を楽にしたい。
 複雑ではなく単純な組み合わせだけで、魔道具に置き換えられる仕事はないか色々と試してみることにした。


──それから数日後

 幾つかの試作品が完成し、ヒソネに試しに使ってみて貰う。

「これは何ですか?」

「それは送風機と言ったら良いかな。単に風を起こすものです」

「へぇー……それで何に使うのですか?」

「最初はゴミを吸い込む装置を作ろうとしたんですが、そのためには空気ごと吸い込むことになるんです。だけどそれを吐き出すとゴミが舞うので使い勝手が悪いんですよね。なので役割を吐き出すことのみにして、暑いときに風を送る装置ということにしました」

 ゴミを受けとる素材に良いものがあればいいが、目の粗い布を用意するのが関の山だった。
 一度は魔力バッテリーに魔力を貯めてしっかりと制御をすれば掃除機を作れると思うが、化繊素材など無いのでかなりの値段になるだろう。

「微妙ですね……わざわざ自分で魔力を込めてまで風をおこしたいとは思わないですし」

 実際に羽を回して風をおこしてみたものの、反応はあまり良くはない。

「そうですよね……まぁ、これは僕も微妙だと思っていました。さぁこれは忘れて早く次にいきましょう」

 そう言って次に取り出したのは、いわゆる洗濯機だ。
 まぁこれも単に回転を起こすだけの装置なのだが。

「これも微妙ですね。これだけでは汚れが落ちないでしょう?」

「まぁ、はい……」

 当然のように洗濯洗剤などは無い。
 石鹸と呼べるような物は作れるかもしれないが、洗浄能力が高いものなど作り出すことは出来ないだろう。

「それに生活魔法を使えればもっとキレイになりますよ。ほら!」

 ヒソネが球体の水流をおこし、その中で洗濯物が洗われる。

「それを言ったら、おしまいでしょうに。僕みたいに満足に魔法を使えない人とか、誰しもが簡単に出来る装置を作ろうとしているんだから」

「そうでした……でもこれは売れないですね」

「まぁ、そうですけど……なら次を見てください」

「これは……箱?」

「いえ、冷蔵庫という物ですね」

「冷蔵庫?」

「そう、食べ物を中に入れて冷やしておけるんです。そうすると食べ物が腐らずに長持ちしますよ」

「へぇー……」

 ヒソネはいまいちイメージが分からないみたいだ。

「まぁまぁ使ってみればわかりますよ。温度が上がらないように色々と工夫はしましたけど、どれぐらい持つのか試してみたいですしね」

 この世界で断熱材なんて便利なものを探すのは容易では無い。
 そこで空気の層が最も簡単な断熱方法だったので、幾つもの層を作り温度が伝わらないように工夫を施した。

「ここに魔力を注げばいいんですね?」

「はい」

 厚めの鉄板を敷き詰めたその外側に、冷やすことのみが出来る魔石を設置してあり、その魔石への導線にはミスリルと銅を混ぜたものを線状に加工したものを使った。なので外側に繋がった部分に魔力を込めると、中身が冷却されるのだ。

「おー、これはいいですね!」

「本当ですか?」

「ええ、これだけ簡単に冷えて保存できるなら便利です」

 この世界にも冷やして保存するという概念はあるそうだ。
 しかし魔石で直接冷やすものでは無くて魔法で作った氷を用いたものを用いており、多くの魔力を使用する必要があったらしい。なので基本的にはわざわざ冷やすことをせずに、腐る前に使うのが常識だったそうだ。

「へぇー……ならこの冷蔵庫を改良して使いやすい形にすれば売れますかね?」

「うーん、どうでしょうか? 今まで使っていないから、なかなか良さが伝わらないかも知れませんね」

「それなら一般の人からでは無くて、料理店とか多くの食材を仕入れて使う人をターゲットにするのはどうですか? 毎日全部使いきれる訳ではないでしょうし、使わなかった素材を保管する稼業がこれで楽になるなら欲しがるでしょう?」

「そうですね……大規模な所は別としても、個人で開いてる料理屋とかは凄い重宝しそうですね」

「そうですよね……うん、よし、ならこれをもっと改良してマーロ商会の人達に見せましょう」

「……」

「どうかしたのですか?」

「いえ、やっぱりここに魔力バッテリーを使えないですかね」

「……やっぱり、そう思いますか」

「はい。今の状態でどれぐらい持続させることが出来るか分かりませんが、なるべく魔力を供給する回数が少ない方がいいですからね」

 やはりどんな魔道具にも、魔力バッテリーを組み合わせることでその利便性は一気に向上する。
 さらに複雑な制御を行うことが出来ることで、冷蔵と冷凍の使い分けも出来るだろう。

「こればっかりは、簡単に決めれることでは無いですし……」

「いいのでは無いですか? アダムスさんもこの件はハヤトさんに任せると言っていたのですから」

「そんなこと言っても……」

「それに妥協した物を作るなんてハヤトさんらしくないですよ。もっと良くなることが分かっているのにそれをしないなんて、本当に出来ますか?」

「……それもそうですね……確かに出来ないです」

「ならもう答えは一つではないですか!」

「分かりました。とりあえずは冷蔵庫を完成させて、そこからもう一度考えましょう」


 こうしてマーロ商会に提示する物を何にするのか決め、どこまでの物を提示すべきかは抜きにして冷蔵庫を完成させることになった。
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